玉川さんが「京都で大切な人を招待するならココ」と決めている京都の老舗料亭・菊乃井。
前回は京都の老舗料亭・菊乃井の村田さんが何よりも存続を大事にしていること、そのためには肉を振る舞うのもいとわないことなどについて伺った。今回は玉川さんが菊乃井の食事を実際に味わいながら、京料理の神髄に迫る!
玉川さんが「京都で大切な人を招待するならココ」と決めている京都の老舗料亭・菊乃井。広々とした庭に面するお座敷は当初、静謐な空気に満ちていたものの、対談が始まると…

【話を伺った人】菊乃井 村田吉弘主人
1951年、京都府生まれ。立命館大学在学中に渡仏。1993年には3代目菊乃井主人に。NPO法人「日本料理アカデミー」名誉理事長も務め、和食の無形文化遺産登録に尽力。
あえて「旨い」とは思わせない!?京都の〝残心〟を大事にする料亭を取材!

玉川 ご用意いただいたのは、懐石料理の八寸(四角い器に、旬の「海のもの」と「山のもの」を彩り豊かに少しずつ盛り付けた酒の肴)ですね。それぞれの料理について教えてください。
村田 器の右上から時計回りに、小川唐墨(おがわからすみ)(一)、菜種辛子和えと助子落雁(すけこらくがん)(二)、豆腐味噌漬け・ザクロ(三)、鮑共和(あわびともあ)え(四)、辛子蓮根(五)、椿寿司(六)です。特に唐墨はイカで巻いて麹に2か月間漬けたもの。菊乃井だけの味わいです。
玉川 サーモンの椿寿司から、鮑の共和えや助子(生たらこ)の落雁まで、どれも素晴らしいですね。なお、八寸の料理でカロリーはどのくらいでしょうか?
村田 300〜400キロほどです。
玉川 たったそれだけなんですか!? これを毎日食べていたら、きっと痩せますよね。体も財布も(笑)
村田 ヘルシーでしょ(笑)。なお、フランス料理のコースは1500〜2500キロですが、和食は1000キロ程度。カロリー量に大きな差がつく理由は料理のベースとなる〝美味しさの基〟の違いにあります。海外では脂なのに対し、日本では出汁などの旨味ですから。動物実験では旨味より脂の方が好反応。たくさん摂取して、カロリー値も上がると。
玉川 世界中で肥満による健康被害が問題になっているので、美味しくてカロリーの低い和食に注目が集まるのは当然ですよね。そうした日本特有の旨味中心の食文化は、なぜ生まれたのでしょうか?
村田 京都の味の文化は、かつて存在した貴族たちによる京都御所での贅沢な食事から発展してきました。彼らは体を動かす習慣がなく、お腹が空きません。食事ぐらいしか楽しみがなかったので、美味しくない料理人はすぐクビに。ひと口ひと口の味わいがとても大事で、ぽっちり(ほんの少し)でも満足できるような「旨味」が発展したと言われています。
玉川 その旨味を追求した結果、出汁が発達したわけですね。
村田 同じ関西圏でも大阪と京都で理想とする和食の味わいが異なります。大阪ではひと口目から美味しい〝食い味〟が好まれる一方、京都は素材の味を生かした〝持ち味〟を良しとします。そのことは出汁を取る際に削る鰹節の厚みにも如実に反映されていて、大阪が0.5mmなのに対し、京都は0.3mmなのです。
玉川 大阪と京都でも、美味しさに関する感覚が大きく異なるのですね。
村田 私は若い頃、父親から「お前の料理は〝美味しすぎ〟てアカン」と怒られました(苦笑)。ひと晩寝て、翌朝に起きるタイミングで「昨日の料理は美味しかったなぁ」って思い出すくらいにした方が、お客さんはまた来てくれると。若い頃は「美味しければいいのに」と思っていましたが、年を重ねて理解できるようになりました。だから最近は「もう少し塩を入れようかな」と思ってもやめておきます。蓋物(椀物)なら「味が薄いんちゃう?」というくらいが理想的。全部飲んでもらってから「あぁ旨かった」と感じられるのが、京都の料理です。ちなみに茶の湯などで心を残すという意味の〝残心〟が〝持ち味〟の代わりに京料理を表現する言葉として使われることもあります。
玉川 僕は旨味が好きだから、いただいた料理をひと口目で「美味しい」と思っちゃいました(苦笑)。〝心が残る味〟というのは、まさに京料理らしいです。
次世代のための食育教育や海産物資源保護活動にも注力
玉川 前回の対談では、和食が日本経済を救うという村田さんの俯瞰的視点が非常に感動的で、中でも「未来の子供たちのため」という言葉が印象的でした。
村田 地域に根差した食材の美味しさを知ってもらうため、食育指導員制度を設け、京都市内で出張授業をしています。
玉川 ちなみに、菊乃井の出汁を味わった小学生たちの感想は?
村田 ほとんどが「よくわからない」でしたけれど「美味しい」と言ってくれる子供もいました。味覚に敏感な子供時代に、たくさんの味を体験することはとても重要です。京都の料理は特に素材の味が命なので、菊乃井では農家と契約して、伝統的な京野菜を栽培しています。
玉川 料亭が伝統的な京野菜を守る役割も果たしてきたわけですね。
村田 出汁の原料となる昆布や鰹節は、2002年に「人の舌には旨味を感じる受容体がある」ことが発見されて以降、世界中で注目されるようになりました。需要が増えてきたこともあり、持続可能な海産物資源を保護するため、海の再生と食文化の未来を考えるオーシャンフォレストの活動にも協力しているんです。
菊乃井が守りつづけてきたのはしばらく経ってから恋しくなる味わい


玉川さんが八寸の料理とともに味わった蓋物。ぐじ蕪蒸(かぶらむ)し、海胆(うに)、木耳(きくらげ)、百合根、三つ葉、銀杏という食材に、山葵(わさび)が添えられたもの。食材それぞれの味わいが口の中にジワジワと広がりながら、主張しすぎない旨味をしみじみと感じさせる。
今月の取材で理解を深めた京料理文化の発展と〝出汁〟の世界的な広がり
□ 京都御所における貴族の食事事情が旨味の発展につながった
□ 出汁を取る際の鰹節の削り方は大阪よりも京都の方が薄い
□ 2000年代以降は海外でも出汁の利用が拡大
□ 出汁に必要な海産物の確保が今後は大きな課題になる
今回のまとめ
村田さんが師匠である父親から「お前の料理は美味しすぎる」と叱られたエピソードが印象的でした。ひと口食べて美味しい味ではなく、食べ終わってしみじみ美味しかったと、心に残る味を目指すべきだという教えです。まさにそれを引き継いでいる料理を、今回は実際にいただくことができました。まず目で見た時に、器と料理に季節を感じます。そして、口に入れて味わい、噛みしめながら歯ごたえを楽しみ、のどを過ぎてからフッと香りが湧き立って、いつまでも心に残る。まさにどれも〝残心〟な料理でした。今回の対談は個人によっても感じ方が異なる「味」がテーマでしたが、村田さんは数字を盛り込みながら科学的根拠に基づいて解説されたのも素晴らしかったです。
〝出汁〟の文化が海外にもっと広がって日本産農産物の輸出につながるといいですね

玉川徹さん
テレビ朝日系、朝の情報番組『羽鳥慎一モーニングショー』のレギュラーコメンテーターとしておなじみ。パーソナリティーを務めるレギュラー番組『ラジオのタマカワ』(TOKYO FM / 毎週木曜日11:30 ~13:00)が大好評オンエア中!
取材・文/柿川鮎子 撮影/佐藤信次 編集/田尻健二郎







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