2026年に入り、長らく家計を苦しめてきた「値上げラッシュ」がいったんの落ち着きを見せている。ここ数年はスーパーやコンビニエンスストアに並ぶ商品の価格が毎月のように書き換えられていたことを思えば、たしかに嵐は過ぎ去ったかのように思える。そのうえ、政治の場では「食品消費税ゼロ」政策の議論も始まった。
しかし、こうした値上げの一服感や食品減税は、本当に私たちの生活が長期的に楽になることを意味しているのだろうか。調査会社が公表しているデータからは、決して油断できない現実が浮かび上がってくる。
データが示す「値上げの小康状態」とその裏側
帝国データバンクの「『食品主要195社』価格改定動向調査」によると、2026年3月はチャーハンなどの冷凍食品や緑茶などの飲料を中心に値上げが実施されている。
ただ、単月の値上げ品目数は684品目にとどまり、これが1000品目を下回るのは昨年11月以降5か月連続。値上げラッシュが本格化した22年以降で初めてのことだという。また、今年1~6月までの累計値上げ品目数は4493品目、平均値上げ率は15%に達したものの、前年同期と比べて6割減のペースで推移している。
値上げの要因としては、相変わらず原材料高が最も多い。コメや緑茶原料相場の高騰が、直接商品価格へ転嫁されている格好だ。それでも値上げ品目数がこれだけ減っているということは、原料価格も全体的には落ち着いてきていると言えそうだ。
さらに、トラックドライバーの時間外労働規制などを背景に上昇した輸送コストを価格に反映する「物流費」由来の値上げは前年通年から大幅に減少。電気・ガス代など「エネルギー」、「円安(為替の変動)」に由来するものはともに前年を下回り、過去4年で最低となった。数字の上では、たしかに値上げの一服感が強まっている。
しかし、事態はそう単純ではなさそうだ。飲食料品の容器やパッケージに用いる包装・資材を理由とする値上げは23年以降で最高となったほか、人件費由来の値上げも過去4年で最高水準となっている。
中でも注意したいのは、賃上げ圧力の高まりを背景とする人件費の高騰だ。あらゆるモノの価格が上がっていることで、会社員の生活は苦しくなっている。また、人材不足が深刻化する中、優秀な人材を確保するためには一定水準の賃金の支払いが必要だ。そのため企業は一度上げた給料を下げることはもちろん、据え置いておくことも難しくなっており、この状況が続けば今後も人件費は上がり続けると見られる。
円安由来の値上げにも警戒したい。今年1~6月時点で円安を理由とした値上げが非常に少ないのは、24~25年に円高となったタイミングで輸入・購入した原材料を企業がまだ在庫として持ち合わせているからという可能性が高い。一方、足元では円高傾向が強まっている。原料を海外に依存している場合、これまでより高い価格で原材料を仕入れることになる企業が、さらなる商品値上げに踏み切るおそれもある。
つまり、値上げの回数や品目数は減っていても、根本的な原因は決して消滅したわけではない。
メーカーは試行錯誤、「ステルス値上げ」も続く

実際に、消費者の買い物価格も上がっている。調査会社・インテージの「知るギャラリー」(2026年2月に24日公開記事)によれば、今年1月の買い物回数は前年並み(99.1%)だった一方、買い物に使う金額は前年比102.4%と増加している。回数は横ばいなのに支出が増えているということは、これまで通りに買い物をしているつもりでも、1回あたりの買い物にかかるコストが確実に上昇していることを意味する。
他方、単純な値上げと合わせて、価格を据え置いて内容量を減らす「実質値上げ」、俗にいう「ステルス値上げ」を行うメーカーも多い。この場合は買い物価格のデータに実態が直接表れない点に注意したい。
例えば菓子大手のカルビーは、今年2月に「ポテトチップス うすしお味」や同「コンソメパンチ」「のりしお」などの大容量品「BIGBAG」の内容量を160gから150gへ変更。その後、今年6月には55gの通常品(うすしお味、コンソメパンチ、のりしおなど)については5~10%、単純に値上げする。
最近は「ポテチってこんなに少なかったっけ?」「袋はパンパンだけど、空気を売ってるの?」といった皮肉の声が聞こえてくることも多いが、消費者離れを抑制するためか、大容量品の容量を減らし、通常品は普通に値上げするなど、試行錯誤しながら機動的・戦略的に価格改定を行っている印象だ。消費者は自分の目の届きにくい形で負担増を強いられているとも言えるだろう。
なお、こうした状況でも、消費者は単に支出を切り詰めているだけではない。インテージのデータによれば、鍋に入れる野菜の価格が落ち着いたことに伴って「春雨・くず切り」「鍋つゆ」などが売れたり、健康意識の高まりから「ココア」が伸長したりしている。優先順位を明確にし、納得感のあるものにはお金を使うというメリハリのある消費行動が定着しつつある。
急浮上した「食品消費税ゼロ」政策と、立ちはだかる高い壁

こうした中、家計の負担を軽減する切り札として急浮上しているのが、先の衆議院選挙で与党が勝利したことで検討が進む食料品の消費減税だ。与党の自民党と日本維新の会が公約に掲げ、現在、超党派の「国民会議」で議論が進められている。
一見、消費者にとって手放しで喜べる政策に思えるが、実現へのハードルは高い。最大の課題は、約5兆円から10兆円とも言われる財源の確保だ。高市早苗首相は赤字国債に頼らない方針を掲げているが、補助金の見直しなどを通じて実行するならば、与野党議員の激しい抵抗に遭うリスクも大きい。
現場の混乱も必至だ。スーパーやコンビニなどの小売店は、税率変更に伴うレジシステムの改修や値札の貼り替えを余儀なくされる。大手チェーンのシステム改修には1年以上かかるとも言われ、費用も馬鹿にならない。
特に反発しているのは外食業界だ。食料品の消費税がゼロになれば、現在の軽減税率(8%)が適用されている中食(コンビニ弁当やスーパーの総菜など)との税率差が、現状の2%から一気に10%へと拡大する。業界団体は「飲食店の客離れを招く」として強い懸念を示しており、
食品消費税ゼロに潜む「便乗値上げ」のリスク

このように、そもそもの実現性に疑問符が付く食品減税だが、実行されれば消費者の短期的な負担を減らすことはできるだろう。ただ、経済ライターとして注意したいことがある。
それは、食品メーカーによる「便乗値上げ」のリスクだ。というのも、もし食品減税で消費者の負担が減っても、企業の負担が同じくらい減るわけではないからだ。
今回の政策は食品メーカーにとって間違いなく追い風だ。減税で消費が促進され、商品の販売数量が増えれば、工場の稼働率が上がって採算が改善するといった期待はできるだろう。ただ、前述の通り、企業は人件費などの粘着的な固定費上昇に苦しんでおり、円安進行のおそれもある。
そのため、消費税がなくなる時期に合わせてメーカーが値上げする可能性は否めない。8%の消費税がゼロになったことで消費者は「安くなった」と考える。そのタイミングで、例えばメーカーが2~3%値上げしたとしても、消費者が感じる負担感は小さいだろう。
食品企業は販売数量をいかに落とさないかを重視する傾向にある。こうした好機に便乗すれば値上げに気づかれにくいことから、これまで我慢してきたコスト上昇分を転嫁しながら、数量を維持・拡大させていく戦略を取ることは十分にあり得る。
さらに忘れてはならないのが、この政策が2年間限定の方針であるという点だ。2年後に税率を元の8%に戻す段階になれば、消費者の負担感は一気に増加する。2年後にフタを開けてみたら、「この商品ってこんなに高かったっけ」と思う未来は想像にたやすい。
値上げの件数自体は減っても、コスト高は続いている。そこに「食品消費税ゼロ」という劇薬が投下されれば、一時的な恩恵の裏で経済全体に大きな歪みをもたらす可能性がある。実質値上げや便乗値上げの動向に目を光らせながら、不要な支出は削り、本当に価値のあるものにお金を使う姿勢が、今後消費者が取るべき「生活防衛策」と言えそうだ。
文/田中節子
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