ラジオ・テレビ番組のコメンテーターや大学の客員教授、映画評論など、多方面で活躍する精神科医の名越康文さん。そんな名越さんの多才ぶりは自身が運営するYouTubeチャンネル「精神科医が◯◯する 名越康文のゲーム実況チャンネル」でも発揮しており、登録者数22万人超の人気ゲーム実況者としての一面も持つ。なぜ精神科医である名越さんがゲーム実況のYouTubeチャンネルを運営しているのか。はじめた経緯や今後の展望について話しを伺った。
インベーダーゲーム世代がゲーム実況をはじめた理由
――ゲーム実況をはじめたきっかけを教えてください。
名越:6年前ぐらいに「ゲームさんぽ」っていうゲーム実況チャンネルでやらせてもらったのがきっかけですね。『Detroit: Become Human』っていうゲームを精神科医が分析するっていう企画で。編集者の飯田さんから話しをいただき、ゲームYouTuberのなむさんと一緒にやりまして。配信後1か月かそこらで40万回再生いって。
うちの息子が、まだ小学4年生か5年生の時やったかな。「お父さん、YouTubeでバズってるよ」って言われたんですよ。「何のこと?」って言って、見てみたら40万回!?ってびっくりして。それがいまではお陰様で300万回再生を突破しました。
僕のゲーム実況の中で最高のカウンターを弾き出してるんですよ。それまでは僕、ゲームのチャンネルを持っていなかったんですけど、この『Detroit: Become Human』の実況の1年後ぐらいに自分でもチャンネルを持ってやり始めました。
――元々、ゲームが好きだったんですか?
名越:僕はどちらかというと、喫茶店で友達と待ち合わせしてる時にピコピコピコピコ、インベーダーゲームをやっていたような世代で。でも僕ああいうの実は苦手で。ブロック崩しはちょっと楽しかったけど。シューティングゲームは苦手でした。ただ、友達との付き合いでよくやってたんです。
その後、ファミコンで『ドラゴンクエスト』というRPGが出て。僕はⅡからやり始めたんですけど、もうそれでドハマりしまして。その時、すでに医者だったんすけれ、支障のない時には、もう朝までやってましたね。えらいハマり方して(笑)。20代後半から30代ほとんどはRPGとともに人生歩んでいるぐらい。ドラクエは7までやりましたね。
基本、ストーリーがあるゲームが好きで。それこそホラーゲームの『SIREN』とか『SILENT HILL』とかああいうゲームも全部ストーリーがあるじゃないですか。そういうゲームの解説を主にYouTubeではしてますね。
――チャンネル開設から現在に至るまで、960本以上の動画を配信されていますが、再生回数が伸びやすい動画は、どんな傾向があるんですか?
名越:何が伸びる伸びないってね、全然僕もわからないねんね(笑)。狙って力入れたりしたものが全然見られなかったりする。もしかしたら距離感なんでしょうね、距離感。たとえばいまも一緒に組んでいる編集者の飯田くんのYouTubeの出方というか、あの距離感は絶妙なのかなって思う。
でもそれ、人が真似できないんですよ。やっぱりその人の人間的な距離感なんですよ。だからほかの人間がそれを真似しようと思ってもきっとだめで。温泉で38度ぐらいのぬるま湯。ぬるい、でも気持ちええみたいな感じ。難しいですね。出そうと思ってもできない。ひょうひょうとしたらええんかって、そうでもない。熱くても跳ねるものもあるし、ひょうひょうとしても全然跳ねへんものもあるし。なんなんですかね。法則がわからない。
――満を持して出したものが全然ダメで、サクッと出したものが異常に跳ねる、ありますよね(笑)。精神科医っていうフィルターも観たくなる要素かと。
名越:構造的には絶対にそれやと思います。ですが例えば、多くの人は1.5倍速とか1.25倍速とかで観て聞いてると思うし、インスタントラーメン作りながらとか子供の世話しながらとか、寝ながらとか、片手間に楽しんでもらっていると思うんです。
でも、気になるフレーズとかが出てきて興味をひかれると、ついつい見入っていまう。メインの作業があるのに、片手間のYouTubeに引っ張られている心理っていうのを解明しないと、何がヒットするか分からんのちゃうかなって。
今まで実況したゲームの中で印象に残っている作品『Detroit: Become Human』
――名越さんの実況の場合、気になるストーリーや人間描写みたいなところでストップをかけて、心理分析をしているので、終始、画面を見ていなくても聞き流して、ほかの作業をしながら楽しめると思うんです。束縛させないというか。
名越:そうか。僕、大体、人束縛するの嫌いですからね。息子のこと大好きやけど、息子の友達との予定を絶対に邪魔したらあかんといつもビクビクしてる父親やから(笑)。一方で僕が関心のあることは喋りだしたらいくらでも喋れる。友人に「先生ずっと喋ってる」言うて呆れられたこと何回もある。
だから結構気にするんでしょうね。今5分も喋ってしまった……。もう当分喋らんとこ……って(笑)。
――見ろ!見ろ!って強要してくる雰囲気のYouTuberとはちょっと違いますよね。
名越:こないだもね、うちのスタッフがいい企画立ててくれたんですけど。前に先生の趣味の話で『スター・ウォーズ』についてめっちゃ語ったらみんな食いついてたって。それは偶然『スター・ウォーズ』の話になったんですけど。今度、先生が好きな趣味のことについて語るっていうのを生配信でやりましょうと。
嬉しいなって思って、僕がどんどん語りだしたわけ。例えば、僕が好きなアーティストの「ポール・マッカートニー&ウイングス」とか、「スティービー・ワンダー」のここが好きとか、曲の音楽的な意味とか背景とか。でも共有というのは難しい。20分もしたらもうみんな画面にいないねん。全員が引いていくのがすごいわかるんですよ(笑)。
スタッフは、僕が気持ちよくやれると思って考えてくれたんやで。それはわかってんねん。わかってんねんけど、やらなかったらよかった……、って(笑)。そこなんですよ。僕がこれ聞いてくれっていうのと違うねん。
誰かが質問した結果、その人に一生懸命に答えようと思ってずっと喋ってる時ありますよ。そういうのはみんな聞いてくれはる。誰かが困って聞いてくれてること、誰かが興味を持って聞いてくれてることに対する回答と、僕が伝えたいっていうのは当然かもしれませんが違う。もう数字ではね10倍くらい違うんです(笑)。
ただ、僕は1人でも2人でもほんまに関心を持ってる人がいるだけで満足なんです。例えば、僕と息子の間で音楽の話してる時は、めっちゃコアな話してるから、僕と息子以外はほとんどみんなついてこれないと思うんですよ。でも息子がものすごい良い返しをしたり、なるほどなとか言ってくれたりして、2人で2時間近く話し込んじゃう時もある。それが1万人であろうが1人であろうが、その1人がほんまにわかってくれてるので満足なんです。
でもそれって人間と人間のコミュニケーションにとって大事だと思うんです。本当の関心っていうのと、柔らかい関心っていうのがあるのかもしれなくて。その柔らかい関心から、例えば1000人に1人でもほんまに調べてみようって人が出てきたらそれでいいわけですから。
――単純にゲームを進めたい人の場合、クリアが目標になっているので、1キャラについてわざわざ分析しないと思うんです。でも名越さんの実況は、この人はこういうところで、この年齢でこの格好はちょっとないな、幼稚な部分があるなとかって分析されるじゃないですか。そういうことを改めて言われると、ちょっと立ち止まってちゃんとストーリー見ようかなっていう気にはさせてくれますよね。
名越:かもしれない。そういう意味では、大体僕のゲーム実況を見てくださる方っていうのは、ほとんどの人がそのゲームをやった人だと思うんですよ。いっぺんクリアしてはるねん。ほんで、名越はどう読むんやろっていうのに関心を持ってくださる。もう何年か前に熱狂したゲームをようやく名越がやるのかと。中には、なんで名越ここ見逃すんだ!って指摘を受けることもありますが(笑)。普通、今話題のゲームを見たいと思う気がするんですけど。
だから僕は、そういう方々とずっと進行してるので、他のゲーム実況の方がどういうやり方をされているのか、全く知らないんです。僕についてきてくださってる視聴者の方のパーセンテージをなんとなく肌で感じてるんですけど。私がやっていることがゲーム実況と言っていいのかって、ちょっとした後ろめたさじゃないですけど気になったりはしますね。
――今まで実況したゲームの中で印象に残っている作品は何ですか?
名越:やっぱり『Detroit: Become Human』かな。この作品が言うたら僕をYouTube界に出してくれたゲームなんで。人間と、全く人間と区別のつかないヒューマノイドが共存し始める。まさにテスラのヒューマノイドロボット『オプティマス』が普通にいる世界です。
はじめ人間はヒューマノイドを子分のようだったり、奴隷のようにして使ってるんやけど、どんどん彼らは経験知、アルゴリズムを高めていってとうとう心を持ち出して革命が起こる。それは元々人間が非常に不条理なことを押し付けて彼らを抑圧していたからなんやね。AIあるいはロボットが人間を支配し始めるみたいな、そういうSFはたくさんあったじゃないですか。それをもっと深い部分でなぜ彼らは反抗し始めたのかという部分をリアルに、ストーリー性のあるゲームでちゃんと表現して、プレーヤーがその世界の中に入り込んでしまうっていうのは、今までなかったんじゃないですかね。
それから『ドキドキ文芸部』ですね。作家のディズムさんからも勧められた恋愛シミュレーションみたいなゲームなんですね。女の子3人とデートをするんですよ。その3人の女の子、全員病んでるんですよ。それなりに病み方が違うんですけど。たとえばそのうちの一人は、背景が多分こうで、そうするこのタイミングでトイレ行ったけどたぶん手首切ってるやろなって。僕の分析では絶対トイレ行って手首切ってるはずなんて言ったら、ほんまにその通りの行動が起きて。
さすがに皆びっくりするんですね。びっくりするけど、でも臨床的な経験値からすると明らかなことなので。僕は別にそんな超能力を使ったわけじゃなくて、こういうパターンはこういう帰結が多かった、多いよねとか言ったら、ほんまに。僕はずっと普通に診療している延長なんです。そのうちの1人の女の子が首吊ってしまうんですよ。その場面も映ってしまって。一度、生涯初のBANされましたね。テーマ音楽も洗練されていてめちゃくちゃ素晴らしいです。
あとは『Neverending Nightmares』も反響がすごかったですね。あれはその潜在的に、妹との近親相姦願望とそれに対するものすごいタブー感が同時に出ている展開なんですけど。それはね、僕はやりたくなかったんですよ。でもやったら、もう200万回近くいってるのと違うでしょうか、今。たくさんの人から声がかかって、「自分はすごいそういうドメスティックな家族の中の問題で葛藤してたり苦しんでたりしたけど、これを見てなぜか救われた」っていう人が、何人もおられました。『Detroit: Become Human』に匹敵するぐらいの反響を呼びましたね。
ちょっとマイナーなゲームでいうと『Mouthwashing』も印象的でした。近未来ものなんですけども、物資を運ぶ宇宙船が壊れて、どんどん太陽に向かって引っ張られていくんですよ。その時にちょうどマウスウォッシュばっかり運んでたんです。このままだとあと1ヶ月経ったら太陽とぶつかって死ぬんだって。広大な宇宙空間で、次第に密室もののホラー探偵小説みたいな感じになっていくんです。
それはね、すごい衝撃的で。進める上で精神分析とか心理分析も使えるんですよ。これおかしいって、これ何か肝心なことが隠されてるみたいなことを確か僕が途中で言い出すんですよ、勘なんですけど。なぜならその僕の違和感をストーリーに取り込むことは普通こういった宇宙冒険ものではあまり無い展開なので。それが後半に差しかかって、やはりそういうことか、と、だんだんだんだん明らかになっていくというようなことがあって。とても面白かった。
画質なんか見てたら、ほんま粗くて、最新のメジャーのゲームとはまったくの違う世界なんですけど、その分複雑なストーリー展開を我慢して潜って行くと、このジャンルならではの人間の裏側をえぐった深い味わいに到達するんです。
――では最後に、今後、「精神科医が◯◯する 名越康文のゲーム実況チャンネル」が目指す目標や展望などがあれば教えてください。
名越:ゲームだけじゃなくて、例えばドラマや映画など、いろいろなエンタメの実況にももう少し時間を割いてやってみたいです。先日、アニメ映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』が公開されましたけど、それに合わせて前作『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』を観ながら登場人物の性格分析をしたんです。そもそも僕『ガンダム』も好きなので。
やっぱり僕、カウンセラーでしょ、基本が。だから人物の性格がしっかり設定されている作品は分析が楽しいんですよ。例えばですけど、ドラマを僕が見て、ずっと副音声で実況をやるっていうことだって、十分可能な気がします(笑)。そのある意味、記念すべき第1回が『閃光のハサウェイ』やったと勝手に思っています。なので、今後は実況の幅が広げられたら楽しいのかなと思います。
名越康文(なこし・やすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学、龍谷大学客員教授。近畿大学医学部卒業後、大阪精神医療センターにて、精神科救急病棟の設立。責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。
■精神科医が◯◯する 名越康文のゲーム実況チャンネル
■名越康文TVシークレットトーク「オモテ」
■名越康文TVシークレットトーク
取材・文/オビツケン(ob1)







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