クラウドファンディング開始からわずか9分で完売。一般販売後も品薄が続くなど、大きな反響を呼んでいるカシオの“サウナ専用時計”『サ時計』。入社2年目の若手社員による新規事業提案からスタートし、同期4人で形にしたこのプロダクトは、なぜここまで支持を集めたのか。
今回は、カシオ計算機株式会社のエンジニア山田真司さん、デザイン担当 鈴木千裕さん、ソフトウェア開発担当 百貫将吾さんに、開発までの経緯やこだわり、今後の展望についてお話を伺った。
*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
サウナのために、機能を2つに絞った“専用腕時計”
はじめに、プロジェクトリーダーの山田さんは、商品の特徴について次のように説明する。
「サ時計は、サウナで使うことを前提に開発した腕時計です。高温多湿な環境でも使えるよう、耐熱性や耐湿性をしっかり高めました。機能はあえて絞っていて、サウナにある12分計と同じ動きをする針と、現在時刻を確認できる機能の2つだけにしています」(山田さん)
ボタンは2つ、針も2本だけ。リセット操作で12分計として使え、モードを切り替えれば現在時刻も確認できる。シンプルな作りながら、サウナーにとって本当に必要な機能だけを突き詰めた設計だ。
「耐熱性と耐湿性は徹底的に見直しました。まず耐熱性については、高温環境でも安定して動作する耐熱電池を今回初めて採用しています。また、湿度対策として、ケース素材も見直しました。温度差で画面が曇らないよう、水分を通しにくい特殊な樹脂を新たに採用しています」(山田さん)
デザイン面では、普段使いもできるよう配慮した。
「仕事帰りにそのままサウナへ行く方も多いと思うので、普段からつけられるデザインにしました。現在時刻も分かるので、ファッション感覚で楽しんでいただけます。カラーは、コーディネートのアクセントになるオレンジと、より日常使いしやすいブラックの2色展開です」(鈴木さん)
第一回より
挑戦の裏にあった、ブランドへのこだわり
“サウナ専用の時計”という、一見するとニッチにも思える企画。「始まりは社内の新規事業提案プログラムだった」と山田さんは振り返る。
「サ時計は、私が入社2年目のときに新規事業提案としてスタートしました。カシオには新規事業提案のプログラムがあり、そのテーマの一つとしてサ時計を推進したんです。当初は私と、いま中国に赴任している小林の2人で始めました。時計の“中”と“外”をつくる2人で提案を出したのが始まりです」(山田さん)
チャレンジングな企画だったが、社内は若手の提案を前向きに受け止める空気があったと続ける。
「サウナブームが盛り上がっているとき、サウナでG-SHOCKやスマートウォッチをつけている方がいるのを見たんです。だったらカシオ公式で、サウナーが安心して使える時計を出したら面白いのではと考えました。上司に提案したところ、『いいんじゃない、やってみれば』と背中を押してもらい、プロジェクトが動き出しました」(山田さん)
山田さんと小林さんの2人でスタートしたプロジェクトは、その後、デザイン担当の鈴木さん、ソフトウェア開発の百貫さんが加わり、同期4人のチーム体制へと広がっていった。設計を本業とする山田さんにとって、市場調査や企画立案といった工程から関わるのは初めての経験だったという。
「周囲のサポートもありましたが、基本は4人で進めてきました。プロモーション動画やホームページの内容も、みんなでアイデアを出しながら制作しています。実は、動画にはエキストラとして出演もしていて。大変でしたけど、すごく楽しかったですね」(山田さん)
若手ならではの熱量で走ったプロジェクト。その裏で、ブランドへの責任と誇りには徹底的にこだわった。
「カシオのブランドを使うことは、譲れないこだわりでした。G-SHOCKのようなタフな時計を作ってきた会社だからこそ、“カシオの製品なら安心できる”という信頼があると思っています。サウナ対応を保証するのはハードルも高く、ブランド名を出さない案もありましたが、そこは外せませんでした」(山田さん)
第二回より
9分で完売。サ時計が巻き起こした想定外の反響
販売開始後の反響は、開発メンバーの想像を超えるものだった。
「“カシオから出るのを待っていました”という声をいただけたのは本当にうれしかったです。クラウドファンディングが始まるときは、メンバーで集まって状況を見ていたんですが、あれよあれよと数字が伸びていって。2200台ほど用意していた商品が、9分ぐらいで全てなくなってしまいました」(山田さん)
2025年10月からは一般販売が開始するものの、すぐに品切れの状態に。生産が追いつかない状態が続いている。ヒットの背景には、“ユニークさ”があると山田さんは話す。
「サウナ好きの方だけでなく、カシオの時計ファンの方からも“面白い製品を出したね”と取り上げていただきました。ロッカーキーをモチーフにしたぐるぐるのバンドは今回初めて採用したデザインで、他にはない個性的な時計としても楽しんでもらえているのかなと思っています」(山田さん)
発案当初は、ロッカーの鍵と時計を一体化させるアイデアからスタートしたという。
「鍵付きにするとサウナ施設向け、いわゆるBtoBモデルになってしまい、導入のハードルが高いと感じたんです。そこで方向転換して、まずは時計単体で展開する形にしました。次に考えたのが、デジタルモデルです。チープカシオがサウナーに使われていたこともあり、液晶表示で多機能にする案を検討しましたが、調査や実体験を重ねる中で、サウナに本当に必要な機能を見直し、最終的にはシンプルな形にたどり着きました」(山田さん)
機能を削ぎ落とし、アナログ表示へと舵を切った背景には、“サウナ空間”そのものへの考え方があった。
「サウナを“ゆったり楽しむ”感覚を表現したいと思ったんです。自分自身、サウナの中では時間に追われるのではなく、感覚を大事にしたいタイプなので。この思いにメンバーも共感してくれて、今の形にたどり着きました」(鈴木さん)
サ時計の開発では、ソフトウェア面でも試行錯誤が重ねられた。試作段階からプロジェクトに加わった百貫さんは、まず“動くサ時計”を形にする役割を担ったという。
「既存モデルのソフトウェアに手を加えて、いまのサ時計と同じように針が動く試作機を作りました。針を動かすプログラムを改良して、12分計の動作を再現する機能を追加したんです。試作機は大きく二つ用意しました。一つはサ時計の動作確認用、もう一つはサウナ内での実際の温度を測るための検証用モデルです。メンバーやユーザーの方に使っていただき、フィードバックをもとに改良を重ねていきました」(百貫さん)
第三回より
“つくる”だけでなく、“伝える”までを学んだ挑戦
今後の展望について、山田さんは次のように話す。
「まずは生産を安定させて、欲しいと思ってくださっている方にきちんと届けることが目標です。その先では、カラーバリエーションを増やすことも考えていますし、最初のアイデアだったロッカーの鍵との一体化にも、いつか挑戦してみたいですね」(山田さん)
プロモーションで連携した「サウナイキタイ」との取り組みでは、一般販売のタイミングでサ時計のサウナハットやアクリルキーホルダーも制作された。
「サウナにまつわるグッズが増えることで、より世界観が伝わると思っています。時計単体だけでなく、周辺アイテムも含めてトータルで楽しんでいただけるような展開ができたらいいですね」(鈴木さん)
「市場調査やプロモーションなど、エンジニアの立場だけではなかなか経験できないことに挑戦できてよかった」と話す山田さん。鈴木さんもまた、デザイナーの枠を超え、企画や価値の伝え方まで踏み込んだ経験が大きな学びになったと振り返る。
「機能をあえて絞る決断には正直迷いもありました。でも、サウナーとしては“これが一番いい”と確信していたので、その価値をどうやって伝えるかをチームで徹底的に考えました。普段は企画が固まったものをデザインする立場ですが、今回は“価値をつくり、伝える”ところまで関われたことが、大きな学びになりました」(鈴木さん)
サ時計の開発は、百貫さんにとっても“設計の本質”を見つめ直す機会になったという。
「一般的なアナログ時計はリューズで時刻調整をしますが、サ時計ではボタン操作で調整する仕様にしています。限られた構成の中で“本当に必要な機能だけを、わかりやすく届ける”ことを学んだ開発だったと思います」(百貫さん)
第四回より







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