■連載/ヒット商品開発秘話
明治が2025年5月と10月に発売した『生のときしっとりミルク』が、2026年1月に全国発売となった。5月発売時は関東甲信越(東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬、山梨、長野、新潟)限定で想定の倍以上となる65万個を出荷。
10月発売時は関東甲信越に加え中部と関西(富山、石川、福井、静岡、愛知、岐阜、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山)にも販売エリアを広げたところ、11月初週で140万個を出荷した。
『生のときしっとりミルク』は、同社独自の特許製法「生ねり製法」を生かして製造。しっとりとしながらも柔らかい食感や濃密な味わいを楽しめるのが特徴だ。
生チョコの柔らかい食感を常温で実現
『生のときしっとりミルク』は、新しいチョコレートの楽しみ方の模索から生まれた。開発にあたり着目したのが、食感であった。
「チョコレートをベースに何かを加え、新しい見え方、新しい価値、新しい美味しさを長年にわたり提供してきましたが、食感に関してはカリッとした固いものが続いてきました。お客様に楽しんでもらえる、喜んでもらえるチョコレートを提供するに当たり、食感の良さや口どけのいいものをつくることを考えました」
このように明かすのは、グローバルカカオ事業本部カカオマーケティング部 カカオG長の正直(まさなお)哲郎氏。同社のチョコレートで食感の良さや口どけの良さを追求したものとしては、冬季限定販売の『メルティーキッス』があるが、スーッと消えていきどんどん食べ進めることができてしまう『メルティーキス』とは異なるしっとりとした重厚感のある味わいにすることにした。
『メルティーキッス』のほかに口どけが良いチョコレートなのが生チョコレート。実は同社でも、過去に生チョコレートを手掛けたことがあった。
「ただ、生チョコレートは水分量が多く日持ちしません。冷蔵保存になるため持ち運びに神経を使います。アルコールを使えば日持ちを長くすることはできますが、アルコールが苦手な人はアルコール臭がするため食べられなくなります。かなり普及してきたとはいえ、まだまだ日常的に食べるものとはいえないです」
生チョコレートについてこう話すのは、グローバルカカオ事業本部カカオ開発部 カカオGの黒須充春氏。こうして、常温流通でありながら生チョコレートのように柔らかく、しっとり濃厚な味わいのチョコレートを実現するチャンレンジが始まった。
絶妙な水分量を実現した「生ねり製法」
『生のときしっとりミルク』は発売までに8年を要した。「生ねり製法」の開発に5年、同製法でつくった生地を使い商品の製造ができるようになるまでに5年かかったという。
常温流通でも柔らかい食感が維持できるのは、「生ねり製法」で絶妙な水分量が実現するため。同社も加盟している日本チョコレート・ココア協会が定めた規格では、チョコレートと呼べるものは水分量が3%以下、もしくは水分と生クリームがともに10%以上の2種類がある。『生のときしっとりミルク』の水分量は両者の中間に位置するが、前者の代表は板チョコレート、後者の代表が生チョコレートになる。
「生ねり製法」の開発ではまず、カカオと生クリームの乳化を検討。トライしたところ、水分量が足りないことから、うまくいかなかった。黒須氏は「初見で乳化は無理だと判断できたほどの出来でした」と振り返る。
新たな方法として考えられたのが、カカオと生クリームの練り合わせ。両者を少し冷やして粘土状にしてから練り合わせることにした。
練り合わせるアイデアは、製法の開発に着手してから約1年後に発案。試してみた結果、両者の水分が細かく分散した形で練り込まれた状態になった。その後3年近くかけて味を調整し、最後の1年で生地の硬さを成形しやすいものにするための調整に時間をかけた。
粘土状の生地を成形できる設備の導入
生チョコレートとは違い手軽にワンハンドで食べられるよう成形して個包装することにしたが、個包装は当初、包装設計担当と研究所からは「できない」と難色を示された。「生ねり製法」でつくる生地が粘土のように柔らかくベタつくためだ。
「当社はいろんな形をつくる技術を持っているのですが、全部使えませんでした」
このように振り返る黒須氏。何か使える技術があると見込んでいたが、生地に粘りがあるため成形後うまく剥がれないという問題がどうしてもクリアできず、自社技術の活用は断念せざるを得なかった。
同社は、粘土状の柔らかい生地を成形する技術を外部に求めた。注目したのは練り物やハンバーグ。これらを成形するのに用いる機械を探しては「生ねり製法」でつくった生地が成形できるかのテストを繰り返し、成形に最適な設備を選定した。成形に最適な機械のリサーチやテスト、商品のパッケージングで4年の時間を要することになった。
生産に必要な設備への投資を会社に納得してもらうのは簡単ではなかった。正直氏はこう振り返る。
「売れるかどうかわからない新商品の製造のために設備投資を実行するのは、コストが見合わないと判断されます。『生のときしっとりミルク』を含めた『生ねり製法』を使った商品展開を企画した上で、設備投資を実施しました」







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