「Tシャツに5000円?」
ファッショニスタでなければ、そう思う人も多いだろう。とくに、ふだん3000円前後のTシャツを選んでいるなら、なおさらだ。だが今、その“高いはずのTシャツ”が想定を大きく上回るペースで売れている。
手がけたのは、ECを中心に直営店、イオン北海道を中心に量販店でも展開されているブランド「アーバンスクエア」。同ブランドの5000円(税込5500円)のドレスTシャツは、当初予定していた販売数の約5倍にあたる6000枚超を記録したという。
なぜあえて高いTシャツを作り、そしてそれが売れたのか。その背景を、アーバンスクエアを展開する田中センイ への取材と、実物を手に取った筆者の視点から読み解いていく。
1万円のセットアップのために作られたTシャツ
このTシャツの出発点は、意外にも「Tシャツを売ろう」という発想ではなかった。
アーバンスクエアは、コロナ禍をきっかけに変化した働き方に合わせ、布帛(ふはく)ではなくニット素材を用いた「とにかく楽に着られて、きちんと見えるセットアップ」を展開してきたブランドだ。

上下で1万円前後という価格帯ながら、スーツ見えする設計が支持され、春夏・秋冬のバリエーションを含め、年間10万着規模で売れているという。しかし、そのセットアップに合わせる“ちょうどいいインナー”がなかなか見つからなかった。
「ジャケットに合うTシャツがない。大人が着るならカジュアルすぎてもダメだし、いかにも下着っぽいのもNGだと思いました」
そう話すのは、アーバンスクエアを運営する田中センイで、直営店の責任者を務める渡邉 明さんだ。
開発者ではなく、「現場の人」だから見えたもの

取材をしていて印象的だったのは、渡邉さんがいわゆる“商品開発専任”の立場ではないことだ。ECや卸を中心に展開してきたアーバンスクエアだが、渡邉さんの強い思いから直営店もオープン。現在は2店舗の運営を任され、店頭でお客さんと向き合っている。
売り場の数字を追い、実際にお客さんと接しながら、
「なぜ手に取られないのか」
「なぜ比較で負けるのか」
を見続けてきた人でもある。
だからこそ、このTシャツの発想はスペックや理想論からではなく、「どうすれば、店頭で選ばれるか」という一点から逆算されている。
渡邉さんが目指したのは、説明しなくても価値が伝わること。手に取っただけで、「これは安物ではない」と感じてもらえることだった。
“高そう”と直感させるために積み上げたこと
最初に決めたのは価格ではない。目指したのは、お客さんが触った瞬間に“高そう”と感じることだった。
素材には綿100%を採用。さらに液体アンモニア加工を施すことで、毛羽立ちを抑え、なめらかなツヤを引き出している。この加工はコストが高く、安価な衣類ではあまり使われないものだ。

編地は、一般的な天竺編みではなく、2層構造のスムース編み。生地に厚みと密度を持たせることで、透けにくく、体のラインも拾いにくい設計にしている。体系の崩れが気になる働き盛りの世代には重要なポイントだ。
袖口や裾は、折り返して縫うのではなく、すべてリブ仕様。シルエットを崩さないための工夫だ。ただし、リブを使うと「スウェット」に見えがちなため、幅や強さを細かく調整している。

後ろ襟はやや高めに設定。ジャケット着用時の首元を美しく見せると同時に、社員証などのネックストラップが肌に直接当たらないよう配慮した。すべては、「ジャケットありき」で考え抜かれた設計だった。
手に取ってすぐわかる5000円の価値
発売当初、田中センイの社内では、定番商品である3000円(税込3300円)のTシャツより単価が高いため、1000枚ほど売れれば良しという見込みだった。しかし実際には、3000円のTシャツと並べたとき、あえて5000円の方を選ぶ人が多かったという。
理由はシンプルだ。下げ札を見るだけで、「これはジャケット用」「仕事向き」という目的がはっきり伝わり、手に取って「これは高そうなものだ」と体感できる。
結果、店舗でもECでもリピーターが増え、色違いで購入する人も少なくない。人気色は白に加えて、白ほど主張しすぎないライトグレー。ライトグレーやアイスブルーグレーは、黒や紺、グレーのジャケットとも合わせやすく、2色めの選択として支持を集めている。

筆者も実際に手に取ってみて、「確かに、これは5000円なら安い」と驚いた。まず、軽すぎない。薄手なのに頼りなさがなく、生地にしっかりとした密度がある。
表面は毛羽立ちがほとんどなく、指でなぞるとすっと滑るような感触だ。編地が詰まっており、洗濯を繰り返してもヨレてしまいそうな不安感がない。
綿100%のTシャツでもカジュアルTシャツのラフさがなく、「これはTシャツだけど、シャツ寄りの存在」そんな印象がいちばん近い。
5000円は高いのではなく、「現場が導き出した答え」だった
近年、「オフィスカジュアル」という言葉が定着した一方で、その定義は曖昧だ。何を着れば正解なのか、迷っている人も多い。取材を通して浮かび上がったニーズは、実にシンプルだった。
・着ていて楽であること
・きちんと見えること
・手入れが簡単であること
・そして、褒められること
このドレスTシャツは、そのすべてを“インナー1枚”で満たそうとした結果とも言える。
アーバンスクエアのドレスTシャツは、単なる高級Tシャツではない。セットアップと組み合わせて完成する、新しい仕事着の一部だ。そしてこのTシャツが売れた理由は、開発者の理想ではなく、店頭でお客さんを見続けてきた人の感覚から生まれた点にある。
触った瞬間の質感、着たときのシルエット、「ちゃんとして見える」「すっきりして見える」という安心感。それらを直感的に伝えることができたからこそ、5000円という価格でも、多くの人に選ばれているのだろう。
アーバンスクエア公式サイト
https://www.urban-square.jp/
取材・文/安念美和子(DIME編集部)
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