サカナクション山口一郎やPerfumeのかしゆかなど、名だたるクリエイターを魅了した家具メーカーが雪深い東北の地にある。創業から80年を超えた、世界が注目する「天童木工」だ。
世界が認めたバタフライスツール
山形県天童市に本社・工場、ショールームを構える老舗は、木材で美しい曲線を作り出す『成形合板(せいけいごうはん)』のパイオニアとしても知られ、その卓越した技術力と手仕事へのこだわりは、海外でも高く評価されている。
こちらの椅子、一度は目にしたことがあるかもしれない。
「これは弊社を代表するコアプロダクトのひとつ、バタフライスツールです。世界が認めたアイテムだと自負しております」
そう話すのは、天童木工代表取締役社長・森山馨さん。
バタフライスツールはニューヨーク近代美術館やルーブル美術館などにもコレクションとして収められている天童木工の看板アイテム。だからこそ誇りがある。
「年間2000脚前後はコンスタントに売れていて、最近はアジア、オセアニアからの発注も増えています。私も欲しいんですが、まだ買えていないんですよね笑」
世界中を虜にする東北の家具メーカーの強さは一体どこにあるのか?その秘密を探るべく、今回、社長の独占インタビューを敢行。
まず伺いたかったのは、日本屈指と言われる「成形合板」の技術について。改めて成形合板とは何かを教えていただいた。
「1~1.5ミリ厚に薄くスライスした板に接着剤を付けて、バウムクーヘンのように何枚も重ね合わせ、熱を加えて型に合わせて様々な形に成形する技術のことです」
「たとえばこの座卓、横から見ると何層もの板が重なっているのが分かりますよね?」
「成形合板は接ぎ目を減らすことで軽快なデザインが実現できる上、軽くて丈夫な点が魅力。この技術を日本の家具で量産化したのは弊社が最初です」
そんな成形合板、もともとは1900年代初頭に海外で生まれたもので、今では一般的な技術の一つ。ただ、天童木工が日本のトップランナーとなったのにはワケがある。
「決まった形になるように型に合わせて成形するのですが、実際は型から外した時に多少開いてしまったり曲がりが強くなったり誤差ができてしまうんです」
「しかしその変形する割合をデータで管理しながら、木の材質や気温など様々な要因をもとに狙った形に収める職人の経験と技が弊社にはある。その技術力だけはどこにも負けない強みだと思っています」
社長がおすすめする誇り高きアイテム3選
天童木工の家具は、その多くが職人の手作業で製造されている。
しかも、優れた技術を持つ職人のほとんどが、地元天童市や山形県内の出身だという。
「地元愛もありますし、この地の企業としての責任もあります。なるべく近くから雇用した方がいいという考えですが、当然、県外の方も弊社に興味を持ってくださいます。5年前に沖縄から入社した若手職人は入社後に技能五輪で4連覇を果たしました。現在も天童で一人暮らしをしながら頑張っています」
世界的な知名度の家具メーカーだけに、素晴らしい才能は自然とこの地に集まってくる。
ただ、驚いたのはその多くが職人の手作業による家具作りという点。生産性を向上させるためには製造工程の機械化も図るべきだと思うのだが…。
「弊社は特注品も多く、規格品とのラインを切り分けていないんです。ある日は規格品、次の日は特注品を作ることも少なくありません。そのため、いろんな製品に柔軟に対応するために手作業にこだわって製造しているんです」
一つとして同じものがない木材の色や手触りを人間の手で感じてこそ、最高の美しさと機能性を備えた家具へと導くことができるのだろう。
そんな天童木工の誇り高きアイテムにはどんなものがあるのか?ここからは社長自らがセレクトしたおすすめの逸品を紹介しよう。
【鉄板の逸品/バタフライスツール】
日本のプロダクトデザインの第一人者・柳宗理氏がデザインした、1956年発表のスツール。世界の美術館や博物館にもコレクションされている、ジャパニーズモダンを代表する家具のひとつだ。
「柳宗理さんは図面やスケッチではなく、自ら模型を作り提案するデザイナーさんでした。成形合板の原理の理解も深く、それがシンプルかつ見事に表現された製品だと思っています」
【社長室の椅子/Swing chair】
成形合板技術による木の弾性や反発力を活かし、本体やアームが上下左右にスイング。今まで体験したことのないエモーショナルな楽しさを味わえる新感覚チェア。
「たっぷりの座面でしなるように作られているこの椅子がお気に入りで、社長室で使っています。社長室にはもっと相応しい椅子があるとは思うんですが、これが快適なんですよね」
【社長が個人的に欲しい/スポークチェア】
イギリスで生まれたウィンザーチェアのエッセンスを日本の暮らしに融合させたスポークチェア。成形合板でつくられた楕円形の台輪に、スポーク(細い丸棒)・脚などのすべてのパーツが取り付けられたシンプルな構造が特徴だ。
「弊社では1963年に誕生した椅子で私と同い歳ということもあり、個人的に思い入れの強いアイテムです。背中のスポークがリズミカルでそれが織りなす美しい影も魅力的です」
時代を彩るクリエイターとのコラボで培った高いデザイン力
シンプルながら機能美を宿すアイテムの数々。洗練されたフォルムと優しい座り心地を実現しているのは名だたるクリエイター達とのコラボで培った高いデザイン力にもある。
「弊社の特色は、日本のデザイン黎明期を支えた剣持勇さんや世界的建築家の丹下健三さんなど、70名以上のクリエイターとコラボしてきた歴史があるという点です」
「それぞれが作りたいものを、より高度なところで実現できる技術力は絶対に負けないと思っていますし、著名な方々とのやりとりは開発力にもつながり、弊社の大きな宝だと思っています」
「また、製品の美しさを引き出し、保護の意味もある塗装においては塗りと研磨を4~12回ほど全て手作業で行っています。その丁寧な作業が木目や色、艶、手ざわりなどを最大限に引き出し、家具の美しさを際立たせてくれるんです」
今年3月、東京・伊勢丹新宿店で開催されるイベントがある。
天童木工がアーティストやデザイナーとコラボした家具の展示・販売を行う企画展「SHAPE OF TENDO かたちには、つづきがある。」
2024年から行われているこのイベントでは、かつてサカナクションの山口一郎さんのアイデアから【YIスツール】が誕生し、Perfumeのメンバーとして活躍したかしゆかさんは新たな発想を盛り込んだサイドテーブルを提案。それぞれ天童木工が製作し、話題になった。
「山口さんはもともと他の家具を希望されていたのですが、弊社のデザイナーがいくつか提案し何度も打ち合わせを重ねた結果、山口さんのイニシャル「Y」「I」が隠されているスツールに決定しました」
「今年のイベントには再び、かしゆかさんにもご参加いただき、現代アーティストのHAROSHIさん、デザイナーの服部哲弘さん、服部恭子さんのブランド「YAECA」さんらと新しい形のアイテムを作らせていただきます」
時代を彩る才能が引き寄せられるように天童木工に集い、未だ見ぬアイテムを生み出している。これからの家具の未来、そして企業としての未来を最後に伺った。
「長年、多くのクリエイターとコラボしてきたことで会社も職人たちも鍛えられてきました。そのおかげで名作と言われる家具もたくさん誕生してきました」
「我々の根底にあるのは、難しいことにも応えていくという想いです。それが一番大事なことかもしれません。今後も新しいチャレンジを続けながら、日常を彩る美しさを提供していければと思っています」
取材協力
株式会社天童木工
天童木工Instagram
天童木工X
文/太田ポーシャ
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