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AIで出遅れたアップルが今すぐ「iPhoneの次」を出さなければならない理由

2026.02.11

「イノベーションのジレンマ」とは、成功企業ほど“正しい経営”をするがゆえに、新しい波に乗り遅れるという構造です。既存顧客の要望に応え、儲かる領域に投資し、品質を磨き続ける。その合理性が、次の主戦場から企業を遠ざけてしまう。

アップルは長らく、このジレンマを破ってきた会社でした。自分の稼ぎ頭を自分で食い、次のプラットフォームへ移動する――その大胆さで時代を更新してきた。しかし生成AIの競争では、アップルは明らかに出遅れています。

だからこそ、いまアップルに必要なのは「AI機能を増やすこと」だけではありません。結論から言えば、iPhoneの延長線ではない“次の入口”を、早急に提示することです。

1. アップルは“ジレンマ破り”で勝ってきた

アップルがすごかったのは、新技術を最初に出したからではありません。技術を“体験”に変え、ルールそのものを作り替えたからです。勝ち方には一貫した型がありました。

■自己競合を恐れない

iPodの成功の上に胡座をかくのではなく、iPhoneで音楽体験を飲み込み、主力の重心をスマホへ移しました。稼ぎ頭を守るより、次の中心へ自分で移動する。これがジレンマ回避の核心です。

■統合で価値の取り方を変える

ハード単体ではなく、OS、アプリ配布、決済、周辺機器、クラウドまで含めて一体で設計し、「どこで価値を取るか」を自分で決めてきました。競合が部分最適で戦うほど、統合の強さが効く構造です。

■“後出し”でも勝てる完成度

新カテゴリに最初に飛び込むより、使い勝手が整った段階で決定版を出す。機能を絞り、迷いを減らし、使った瞬間に“これが正解”と思わせる。アップルはこの勝ち筋で、スマホ時代の主役になりました。

2. 生成AIでは、その「いつもの勝ち方」が通用しにくい

ところが生成AIは、スマホ以後の競争とは少し性質が違います。アップルの得意技が、AIの勝ち方と噛み合いにくいのです。

■回転数(出して、直して、また出す)が価値になる

生成AIは、リリース後の改善が競争力です。利用データを踏まえた微修正、モデル更新、運用の試行錯誤――この回転数がそのまま品質差になります。年次サイクルの製品文化では、テンポが合いにくい。

■規模(計算資源とデータ)が差を作る

生成AIは、研究開発も運用も“規模の経済”が効きやすい分野です。巨大モデルの学習・推論コスト、データ管理、人材獲得。ここは統合設計だけでは埋まりません。

■体験の中心が「アプリ」から「入口」へ移る

AIが変えるのは、アプリの中身以上に、ユーザーが行動を起こす入口です。検索、入力、要約、比較、予約、買い物――これらをAIが肩代わりし始めると、アプリを開く回数そのものが減っていきます。

ここで揺らぐのは端末の性能よりも、プラットフォームの支配です。

そして現状、AIの入口(会話型の体験、要約、検索代替、代行)を主導しているのは、アップルではありません。アップルは外部モデル連携を取り込みながら穴を埋める構図になっています。これは「AIが弱い」というより、AI時代の入口を自分で発明できていないという意味で、後手に回っているのです。

3. なぜアップルはAIで“全力疾走”できないのか

アップルがAIで大胆に振る舞えないのは、腰が引けているからではありません。むしろ、これまで勝ち続けた理由――プライバシー、完成度、エコシステム――が、生成AIの勝ち方と正面衝突しているからです。

(1)プライバシー最優先が、学習競争の不利になる

生成AIは本来、使われるほど賢くなります。つまり勝ち筋は「利用データを回収し、改善に回し、品質を上げる」です。

しかしアップルは「個人データを守る」ことがブランドの中核です。だから他社のように、ユーザー行動を大規模に集めて学習に回す勝ち方を取りにくい。結果として、性能を伸ばす燃料(データ)を構造的に入れにくい。これが第一のブレーキです。

(2)完成度主義が、AIの“β運用”と相性が悪い

生成AIは、不完全でも先に出して、フィードバックで磨く“運用型”の技術です。

一方アップルは、体験が整うまで出さない文化が強い。ここで起きるのは単純な悪循環です。

出すのが遅れる → 使われない → 改善が進まない。

「完成度を上げるほど強い」という過去の勝ち方が、AIでは“回転数の負け”になりやすいのです。

(3)エコシステムが大きすぎて、AIが“自社の商売”を壊しかねない

AIエージェントが普及すると、ユーザーはアプリを開かずに用件を済ませるようになります。便利ですが、アップルにとっては厄介です。

アップルの強さは、アプリ中心の導線――配布、課金、検索、決済――を握ってきたことにあります。ところがAIを前に出すほど、アプリの存在感が薄れ、従来のプラットフォーム支配が弱まる可能性がある。

AIは競合を倒す武器であると同時に、自分の土台を揺らす存在でもある。ここにアップルのジレンマがあります。

4. だからアップルは「iPhoneの次」を出さなければならない

ここまで整理すると、結論は明確です。アップルがAIで出遅れたなら、挽回策は2つしかありません。

1つは、巨大モデル競争のど真ん中に突っ込み、研究開発と運用で正面から追いつく道。

もう1つは、アップルの得意領域――新しい“入口”を作り、主戦場そのものを作り替える道です。

アップルが本当に取りにいくべきは後者でしょう。なぜならAI時代の勝者は、モデルの名前ではなく「人が日常でAIを使う入口」を握るからです。

スマホを開かずにAIと会話する。耳や目で情報を取り、AIが先回りして手続きを済ませる。空間で作業し、文脈を理解したAIが補助する。こうした体験の中心がiPhoneから外へ移るなら、アップルはiPhoneを延命するのではなく、iPhoneの次で入口を取り返す必要があります。そこで注目したいのが「Vision Pro」ですが、結論を出すにはもうしばらく時間がかかるでしょう。

5. 「正しかった戦略が、いつジレンマに変わるのか」

この話はアップル固有のドラマではありません。成功企業すべての教訓です。

• 強みは守るほど、変化に鈍くなる
• 品質基準は高いほど、速度戦で重りになる
• プラットフォームは大きいほど、自分で自分を壊しにくくなる

そして最も重要なのは、「守るべきもの」の再定義です。

守るべきは製品名ではなく、ユーザーの入口。守るべきは売上の柱ではなく、次の主戦場での主導権。ここを取り違えると、合理的な判断の積み重ねが、いつの間にかジレンマになります。

アップルは“自己破壊”をもう一度できるか

アップルはかつて、自分の成功を自分で壊して次へ移ることで、ジレンマを破ってきました。いまは逆に、成功が大きすぎて動きにくい局面に入っています。しかも生成AIは、“遅れて出して勝つ”が通用しにくい分野です。改善が雪だるま式に進むからです。

だからこそ、アップルに必要なのは「AIを入れる」ではなく、「AIが当たり前になる世界で、入口を握り直す次の中心”」です。

iPhoneの次を出せるか。成功の型を守るのか、成功の型を壊して更新するのか。アップルは今、イノベーションのジレンマのど真ん中に立っています。

著者名/鈴木林太郎
テックと経済の“交差点”を主戦場に、フィンテック、Web3、決済、越境EC、地域通貨などの実務に効くテーマをやさしく解説。企業・自治体の取材とデータ検証を重ね、現場の課題を言語化する記事づくりが得意。難解な制度や技術を、比喩と事例で“今日使える知識”に翻訳します。

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