働き方改革の流れが続く中で、近年では労働者の「つながらない権利」が提唱されています。現時点で法制化には至っていませんが、職場環境やワークライフバランスを改善する観点からは参考になる考え方です。
1. 「つながらない権利」とは?
「つながらない権利」とは、労働者が労働時間外において、業務に関する連絡への対応を拒否することができる権利です。
労働時間が長くなると、労働者が健康を害するリスクが高まります。そのため労働基準法では、長時間労働を抑制するために法定労働時間(原則として1日8時間・1週40時間)などの規制が設けられています。
また、労働者の賃金が発生するのは労働時間だけです。労働時間外の対応には賃金が発生しないので、その時間に業務連絡へ対応すると「タダ働き」になってしまいます。
上記のような観点を踏まえると、使用者が労働者に対して、労働時間外で業務連絡への対応を求めるのは不当と言えます。労働者がそのような対応を拒否できるように、主にEU諸国において「つながらない権利」が提唱されました。
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2. 日本における「つながらない権利」の議論状況
フランス・イタリア・ベルギー・スペイン・ポルトガルなどのEU諸国では、すでに「つながらない権利」が一定の形で法制化されています。
これに対して、日本ではまだ「つながらない権利」が法律上明記されていません。
しかし、厚生労働省が2025年1月8日に公表した「労働基準関係法制研究会報告書」では、労働基準法等の見直しに関する検討課題の一つとして「つながらない権利」が挙げられています。
同報告書の論調は、「使用者の労働者に対する労働時間外の業務連絡を一律禁止すべきだ」というものではありません。
「労働者が行うべき対応の内容や程度などを整理したうえで、許容できる連絡と拒否してよい連絡の境界線をルール化すべきである」との趣旨が述べられています。
また同報告書では、「つながらない権利」の境界線は社内ルールとして労使間で検討すべきこと、および労使間の話し合いを促進していくための積極的な方策(ガイドラインの策定等)を検討すべきことが指摘されています。
これを見ると、つながらない権利の詳細な内容を法律で定めるのではなく、社内ルール作りの手続きを定めることが最初のステップになりそうです。
3. 「つながらない権利」について企業に求められる取り組み
現状ではまだ「つながらない権利」が法制化されていませんが、職場環境やワークライフバランスを改善する観点からは、労働時間外の労働者に対する連絡は極力行わないことが望ましいです。
その一方で、緊急性の高い案件や顧客からの連絡への対応など、やむを得ず労働時間外の業務連絡が必要となるケースもあります。
企業としては、労働者側の意見を聞きながら、労働時間外の業務連絡に関するルール作りを進めるのがよいでしょう。
具体的には、対応すべきケースとそうでないケースを区別する基準を定めたうえで、その基準に沿って行動している労働者を保護する仕組みを整えることが求められます。
当然ながら基準を定めるに当たっては、労働者に過度な対応を強いることがないようにしなければなりません。
4. 今後見込まれる労働基準法改正の主な内容
労働基準関係法制研究会報告書では、「つながらない権利」のほかにも、労働時間法制の具体的課題として以下の事項を挙げています。
1 最長労働時間規制
(1)時間外・休日労働時間の上限規制
(2)企業による労働時間の情報開示
(3)テレワーク等の柔軟な働き方
(4)法定労働時間週44時間の特例措置
(5)実労働時間規制が適用されない労働者に対する措置
2 労働からの解放に関する規制
(1)休憩
(2)休日
(3)勤務間インターバル
(4)つながらない権利
(5)年次有給休暇制度
3 割増賃金規制
(1)割増賃金の趣旨・目的等
(2)副業・兼業の場合の割増賃金
いずれの検討課題についても、ルールが変更されれば多くの企業に影響するので、今後の法改正に関する議論が注目されます。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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