政府は2021年、ジェンダー平等と多様性の推進、企業価値・競争力の向上、日本経済の持続的成長などを目的に「プライム市場(東証の上位の株式市場)上場企業は2030年までに女性役員比率を30%以上にする」という数値目標を設定。さらに上場企業は女性の役職者の実績数や測定可能な目標を開示することを義務とした。
これにより今後、女性役員を登用しない企業は投資家からネガティブな評価を受け、プライム市場から転落する可能性も指摘されている。大手企業にとってはまさに、女性管理職の登用強化に待ったなし、という状況だ。
とはいえビジネスの現場では、家庭や育児との両立などの理由で管理職登用に消極的な女性も少なくないのが現状。
管理職になりたくない理由TOP3、3位メンタル面の不安、2位仕事が増える、1位は?
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そこで話題になっているのが、女性管理職候補を対象としたメンター(指導者・助言者)による研修サービスだ。実は、筆者の長年の友人(上場企業の女性管理職)も最近、副業として、ベネッセが運営しているキャリア形成サービス「ウイズバトンズ(withbatons)」にメンターとして登録しているという。副業としての収入だけでなく、面談を通じて自身にもさまざまなプラスの効果があると聞き、俄然興味がわいてきた。
「ウイズバトンズ(withbatons)」とはいったいどのようなサービスなのか。同サービスを企画した株式会社ベネッセコーポレーション(以下「ベネッセ」)の白井 あれい氏に話を聞いた。
原点は、就職氷河期真っただ中での就活体験
ウイズバトンズの原点は、白井氏の大学時の体験にある。白井氏が就活をした2003年はまさに、就職氷河期が底を打った時期。大学で女性労働に関わるテーマを研究していた白井氏は、女性が圧倒的に不利な就活状況に怒りを感じ、厚生労働省に入省した。小泉政権下でさまざまな法改正や国会対応に携わった後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに転職。6~7年にわたりマーケティング戦略の第一線で働いた。その時に、白井氏のキャリア観を揺さぶる出来事が起こる。妊娠と出産だ。
「妊娠したとき、身近にいた女性管理職は、24時間ベビーシッターをつけ、男性と同じように働き続けているような方ばかりで、それが当然という感覚でした。私もその影響を受けていたのですが、子供が生まれてみたらあまりにも可愛くて、キャリアを捨てることはできないけれど、子育てにもちゃんと時間を使い、子供と関りたいと強く感じたのです」(白井氏)
「自分と似た価値観を持った、少し先を歩いている先輩と話をしたい」
出産後、子連れでオックスフォード大学の大学院で学んだり、夫の海外駐在に同行したり、資生堂に入社して9年間勤務したりと波乱万丈だったが、その間ずっと子育てとキャリアの両立に悩み続けていたという。
「自分と似たような価値観を持っていて、同じ悩みを抱いていて、キャリアの少し先を歩いているような女性リーダーと話をしたいという気持ちが常にありました。どこかにそういう女性リーダーが絶対いるはずと信じていましたが、私が働いていた場所では出会うことができませんでした。同じ仕事の中では出会える人の数には限界があることを痛感し、テクノロジーでマッチングすることで、出会わせられないかという構想をずっと抱いていたのです」(白井氏)
構想を実現するきっかけとなったのが、ベネッセへの転職だった。ベネッセで社内ビジネスコンテストの実行委員を務めることになった白井氏は、社員のコンテストにかける熱量に衝撃を受けたという。
「それまでいろいろな会社でのビジネスコンテストを見てきましたが、社員が6万人もいるような規模の会社で、広告代理店が仕掛けをして盛り上げても、100件集まればいいほう。でも社員が1万数千人のベネッセでは、応募が1,700件以上集まったのです。ベネッセの社員は本当に真摯に仕事をする人たちなんだなと感動し、ここでなら長年温めてきたアイデア、私の中で大事なものになりすぎてなかなか踏み出せなかったアイデアを『虎の子』として出せる、きっと実現できると思ったのです」(白井氏)
ウイズバトンズのビジネスモデルを考えた時、最初から決めていたのが企業向けのメンターサービスであり、個人からは一切料金を取らないシステムであること。
「キャリアの悩みは、個人が10万、20万出すほどの悩みではないと考えていたからです。一方で企業側には、政府の方針により女性管理職比率を上げなければならないという明確かつ切実な課題があった。今こそ、女性管理職教育支援の市場ができるタイミングだと確信していました」(白井氏)
「いろんなキャリアストーリーを、浴びてほしい」
ウイズバトンズの設計思想の根底にあるのが、男性と女性では同じ管理職候補でも、見えている風景がちがうという現実だ。
「男性も女性も同じように、『管理職になりたくない』とは言うんです。でも男性は、普段意識をしていないかもしれませんが『やれと言われたらできる』と思っている。一方で女性はそもそも『自分にできる』と思っていない。男性は、“ポンコツな管理職”もいることを見て育っているから、あれくらいなら自分もできると思える。でも女性は、ものすごくハードに働く女性リーダーしか見たことがないから『自分には無理だし、あそこまでしたくない』と思うのは当然です」(白井氏)
どうしたらそうした女性管理職候補のモチベーションを高めることができるか。白井氏が注目したのは、社会的学習理論で有名な、心理学者のアルバート・バンデューラの「自己効力感の高める4つの要素」(「直接の成功体験」「代理体験」「言葉による説得」「情動的な喚起」)の中の「代理体験」だった。
「最も自己効力感が上がるのは『直接の成功体験』ですが、これは挫折体験で失われやすい。その次に自己効力感を上げやすいのが、自分と似た状況の人が成功しているのをリアルに見聞きする『代理体験』です。いろんな人のキャリアストーリーをたくさん浴びてほしいので、ウイズバトンズのプログラムではあえて一人のメンターではなく、最大6人の異なるメンターと出会えるようにしています。その中で『この人のここが素敵』『この働き方は自分には合わない』といった感覚が自然と残っていきますが、その軸となるのは実は、自分の中にあるキャリアイメージなのです」(白井氏)
プログラム体験後、多くのメンティー(メンターから指導やサポートを受ける側の人)に変化が現れる。事前アンケートでは、キャリアの見通しが立っていると答えた人は17%だが、プログラム後には85%にまで跳ね上がった。「女性で7割が『管理職になりたい』と答えるアンケートは、ほかではあまりないと思います」と白井氏は、胸を張る。
メンターになることで、自分自身の自己効力感もアップする
では、実際にメンターをしている女性はどのように感じているのか。筆者の友人の場合、ウイズバトンズのメンターとして登録したきっかけは、先に同サービスに登録していた同僚からのすすめ。「あなたにも向いていると思う」と言われたことだという。配置転換で収入が減ってちょうど副業を探していたこと、1回45分で時間的な拘束も負担にならないことなどが登録した理由とのこと。これまでに20人以上と面談している。以下は、友人の感想だ。
★似た価値観の人がマッチングされるので話しやすい
友人「最初はやっぱりちょっと緊張したけど、実際は初対面の人と話すことに伴う緊張感やストレスはほぼない。お互いの自己紹介で早くも話が盛り上がることも多い。それはやはり自分と似た価値観を持っている人とマッチングしていて、共通点が見つけやすいからだと思う。ウイズバトンズのAIによるマッチングの精度は非常に高いと感じている」
白井氏によると、ウイズバトンズのマッチングでは互いに100問近いアセスメントテストを受けてもらい、面談ごとに類似性から新規性を強くしていく設計にしているとのこと。理由は、価値観が違い過ぎると代理経験が生まれにくいのはもちろん、そうした相手の悩みを聞くメンターが疲弊してしまうから。社内メンタリング制度が失敗しがちなのは、そうしたことにも原因があるそうだ。
★成功談よりも、失敗談を多く持つ人が向いている
友人「メンターは、華々しい成功体験を持つ人よりも、失敗した経験が多い人のほうが向いていると感じている。私の場合、会社の理不尽な人事に翻弄された経験があることをプロフィルに記しているが、最初にそのことについて聞かれることが多く、そこからどうやって自分のメンタルを立て直したかという経験を話すと、非常に感謝される。過去に面談した人からリピートを希望されたこともあり、『あの時の話ですごく前向きになれたので、もう一度話が聞きたい』と言われ、非常に嬉しかった」
★「管理職に向いていない」人こそ、挑戦してほしい
友人「メンティーの多くは『自分の会社の女性上司のようには絶対にできないから、管理職にはなれないと思う』」と訴えるが、私は『そう感じている人が管理職にならないと、世の中は変わらない』『だから私は、そういう働き方に疑問を持つ人こそが、1人でも多く管理職になって欲しいと思っている』と必ず伝えている。また管理職はあくまでもアサインされるものであり、誰にでも声がかかるわけではない。だから、話が来たらとりあえず乗ってみたらいい。もう無理と思えばやめることはできるし、やっているうちにできることも意外にたくさんあるという話もしている」
★自分自身の自己効力感もアップする
友人「メンターを始める前は『自分のキャリアももう終わりに近い』という閉塞感やあきらめを抱いていた。だが副業でメンターを始めたことがきっかけで、社会全体に目をむけるようになり、『自分にもまだまだ可能性はたくさんある』と感じられるようになった。その意味でウイズバトンはメンターとメンティー両方の自己効力感を向上させることができる、素晴らしい仕組みと感じていて、社内でのキャリアに行き詰まりを感じている若い女性管理職にもすすめたいと考えている」
「管理職は、ゴールじゃなくて通過点でいい」
今回の取材で印象に残ったのは、奇しくも白井氏と友人が、ほぼ同じ結論を語っていたこと。それは
「管理職はそれ自体が目的ではなく、あくまでも通過点」
「大切なのは自分のキャリアイメージの軸を持ち、それをどう実現していくか」
ということだった。ウイズバトンズが変えようとしているのは、女性管理職候補たちの能力ではなく、視界そのものなのかもしれない。
取材協力/株式会社ベネッセコーポレーション
取材・文/桑原恵美子







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