玉川さんが「京都で大切な人を招待するならココ」と決めている京都の老舗料亭・菊乃井。広々とした庭に面するお座敷は当初、静謐な空気に満ちていたものの、対談が始まると一転。村田吉弘さんとの会話で大いに盛り上がった。

【話を伺った人】菊乃井 村田吉弘主人
1951年、京都生まれ。立命館大学在学中に渡仏。1993年には3代目菊乃井主人に。NPO法人「日本料理アカデミー」名誉理事長も務め、和食の無形文化遺産登録に尽力。
存続のためには変化もいとわない
京都にある〝和食の総本山〟を取材!


玉川 菊乃井さんは日本を代表する最高峰の料亭ですが、創業は?
村田 大正元(1912)年です。今いる本店は創業地で、豊臣秀吉の妻・寧々さん(北政所/高台院)が、秀吉の菩提を弔うために創建した高台寺の隣にあり、菊乃井の先祖は寧々さんが茶の湯に使う菊水の井戸を守ってきた茶坊主でした。その孫が料理店をはじめ、今でもその井戸の水を店舗の料理に使っています。
玉川 伝統ある料亭として、何を一番大事にされてきたのでしょうか?
村田 私たちが何より目的にしてきたのは存続することです。菊乃井の敷地を合計すると千坪ありますから、お金儲けのことだけを考えれば、マンションを建てればいいわけで。だけど、それでは〝おもろない〟じゃないですか(笑)。
玉川 なるほど。一番大事な存続のため、どんなことをしているのでしょうか?
村田 守るべきところはきちんと守り、それ以外は伝統にこだわらずに、変化をいとわないことです。うちの店の料理は〝ロックンロール〟なので。
玉川 その心は?
村田 存続のためには、転がって(時代に合わせて)いかなければダメだと。だから、今は懐石料理でも肉を出します。
玉川 お店を代々続けるためには、日本古来の食文化からすると考えられない食材でも提供しているわけですね。
村田 はい。海外の人と同様に日本の若年層も肉を食べないと〝腹が落ち着かない〟と言われます。そんなお客様の気持ちに寄り添った料理を作るために肉料理も出しますけど、それを仕上げるのはあくまでも京都の技法です。ソースを朴葉焼きの味噌やゴマ、または金柑にするなど、香りや食感に工夫を凝らしています。そして今、肉料理で課題になっているのは、カトラリーの問題。固まり肉は、やはりナイフとフォークで切りながら食べるほうが魅力的じゃないですか。だからそれらをどう提供しようかと。
玉川 そうした変化に対応することの悩みも店を存続させるためなのですね。
村田 はい。ゆくゆくは羊や鳩の肉料理も提供するかもしれません。地球温暖化で食材自体も変化していて、海藻は絶滅が危惧され、良質の昆布の収穫も危機的状況です。存続のためには、そうした変化にも対応しなければなりません。
玉川 食材が貴重になればどうしても料理の値段は上がってしまいます。今、大人2人分の予算はどれぐらいですか?
村田 料理にもよりますが、だいたい5万円ぐらいです。今、銀座の寿司屋が1人10万円もする。すごいお金持ちしか行けないなんて、日本の食文化の崩壊ですよ(苦笑)。私どもは普通の人がちょっとがんばって奮発すれば、特別な機会に食べに行ける店でありたいのです。
玉川 そうなんですね。菊乃井さんが「一見さんお断り」でないことは意外でした。
村田 基本的にうちは〝飯屋〟ですから。魚を食べられない人でも「ノーと言わないサービス」を貫いています。「うちの料理が気に入らなかったら、来なくてもいいよ」っていうのはダメです。そんなことをしていたら存続できません。
日本人の顧客を大切にするのも存続することを目的にしているから
玉川 以前に比べて海外の人も生魚を食べる人は増えましたが、菊乃井さんに来られる海外の人と日本人の割合は?
村田 半分ずつです。実を言うと最近は海外からの予約を全部受け入れると、100%海外のお客様になってしまう状況です。けれど、やはり地元や日本のお客様にも来ていただきたい。コロナ禍でも、「個室で家族だけならば大丈夫だろう」と、米寿のお祝いや法事の会食などに使っていただきましたから。おかげで、菊乃井は潰れずに生き残れたのです。
玉川 菊乃井が存続してきた背景には、料亭自身の努力とともに、お客様の支えがあったということですね。存続のための今後の目標は?
村田 和食を世界の料理にすることです。今、菊乃井の厨房にはフランス、イタリア、ベトナムなど外国籍の料理人が修業中です。彼らが帰国して和食を世界に広げることで、未来の子供たちが飢えない日本の社会を作っていきたい。50年後の日本の人口は約8700万人までに減り、その4割は65歳以上になると言われています。国として衰退していくのは必須で、食料自給率も低下しつづけるでしょう。でも将来、和食が世界で求められていれば、食材や料理を輸出できますからね。そのためにも、今は和食の料理人が志を持ってがんばって、美味しい料理を提供しなければなりません。
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老舗・菊乃井はまるで美術館
「料亭は飯屋かつリビングミュージアム」と言う村田さん。掛け軸や器といった目に見えるもののほか、トイレットペーパーのホルダーすら指物師が作った1点モノ。京都の子供は法事などで訪ねた菊乃井でこれら本物の洗礼を受けて育つというわけだ。



今月の取材で理解を深めた
これからも店を存続させるための老舗料亭・菊乃井の取り組み
□ インバウンドと同様の好みを持つ若年層向けに肉料理にも積極的
□ 将来的には、羊や鳩の肉を提供することも検討
□ 肉を提供するにしても添えるソースは京風に仕立てる
□ ノーと言わないサービスがモットー。お客様の要望を全部聞く
□ 海外からのお客様だけで満席にすることはせずに日本のお客様を大事にする
今回のまとめ
実際に料理を前にしてお話を伺うと言葉を超えて伝わってくるものがありました。村田さんは「存続することが目的」とおっしゃっていて、それが実に京都らしい。変化を受け入れる柔軟性がありつつも、その本質は壊さずに伝えていく。伝統を継承する者としての使命があり、さらには継承させた次の世代の幸せまで見据えている。京料理から食料自給率など未来の日本経済を救うという壮大な話につながったことは、とても興味深かったです。国内の需要に合わせて食料を生産したら、減少するのは当然のこと。でも、美味しい和食が世界に広がって、海外から日本の食材が求められるようになれば、世界中に売ることができる。村田さんの意見には大いに共感しました。
次回は食事をいただきつつ京料理について取材します!

玉川徹さん
テレビ朝日系、朝の情報番組『羽鳥慎一モーニングショー』のレギュラーコメンテーターとしておなじみ。パーソナリティーを務めるレギュラー番組『ラジオのタマカワ』(TOKYO FM / 毎週木曜日11:30 ~13:00)が大好評オンエア中!
取材・文/柿川鮎子 撮影/佐藤信次 編集/田尻健二郎







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