ビジネスの現場において、「上司が責任を取らない」という状況は、メンバーにとって最も過酷な環境の一つです。指示が曖昧で、不都合が起きれば部下のせいにする。重要な決断を先延ばしにし、現場が疲弊していても「自分は聞いていない」と受け流す。
このような上司の下で働くと、モチベーションは低下し、会社全体への不信感へと繋がります。この問題を「上司の性格」という不確定な要素ではなく、「位置(ポジション)」と「責任の所在」という組織構造の問題として今回は捉え直すことができます。
本稿では、無責任な上司を「変える」のではなく、部下の側から「構造的に攻略する」ための具体的な方法を解説します。
1. 「責任感がない」という状態を識学的視点で解剖する
まず、私たちが「あの人は無責任だ」と表す状態を、感情論を抜きにして定義してみます。組織内のストレスの多くは「位置のズレ」から生じています。
上司が責任を回避している時、組織内では以下の3つの機能不全が起きています。
(1) 決定の不在(決めない)
上司の最大の役割は、部下が動くための「決定」を下すことです。決定とは、同時に「その結果に対する全責任を負う」ことを意味します。上司が「何でもいいよ」「適当にやっておいて」と言うのは、一見すると部下に裁量を与えているように見えますが、実は「失敗した時に責任を取らなくて済む状態」を維持しているに過ぎません。
(2) 評価基準(結果設定)があいまい
責任感のない上司は、明確な「期限」と「状態(結果の定義)」を提示しません。評価基準が曖昧なため、部下は「何をすれば正解なのか」が分からず、常に上司の顔色を伺う「迷い」が生じます。
(3) 恐怖による回避行動
多くの場合、無責任な上司は「自分のさらに上の上司」からの評価を過剰に恐れています。自分が決めたことで減点されるのを避けるために、決定を先延ばしにし、責任の所在を部下へ、あるいは環境へと分散させようとするのです。
2. メンバーが取るべき「マインドセット」の転換
無責任な上司に直面した際、多くのメンバーは「上司としてこうあるべきだ」という理想を押し付け、裏切られることで疲弊します。しかし、他人の意識や性格を変えることは不可能に近く、そこに解決策を見出そうとしても先が見えません。
ここでのサバイバル戦略は、「上司を人間として評価するのをやめ、組織のパーツ(機能)として見る」ことにあります。
■感情的依存からの脱却
「この人は頼りにならない」「尊敬できない」と嘆くことは、裏を返せば上司に「頼らせてほしい」「尊敬させてほしい」という精神的な期待を寄せている証拠です。組織は機能で動くものです。上司は「決定を下すための承認ボタン」であり、あなたは「結果を出すための実行ユニット」です。このようにまずは役割・機能の観点から考えることが、あなたのメンタルを守る最大の防波堤となります。
■「位置」を正しく認識させる
上司が無責任なのは、自分を「責任を負う立場」ではなく「調整役」や「評論家」だと思い込む錯覚をしている場合があります。そのためリーダーとしてのあるべき姿を求めるのではなく、「上司に機能してもらう仕組み」を外側から構築するという必要があります。
3. 実践:上司を強制的に「機能」させる3つの技術
具体的に、明日から実行できる「上司攻略法」をお伝えします。
(1) 「完全結果」による提案と期限設定
完全結果とは期限と状態の解釈が人によってずれない結果の設定を指します。この完全結果で確認をするということを活用して上司の意思決定の確認を行います。
「どうすればいいですか?」という質問は、上司に思考の主導権を渡し、同時に逃げ道も与えてしまいます。これを「完全結果」の報告や確認に切り替えます。
具体例:「Aプロジェクトの遅延について報告します。原因は資材高騰です。私は、予算を10%増額して進行させるべきだと考えます。本日16時までに承認いただければ、現在の納期を維持できます。16時を過ぎる場合は、納期が2週間遅れますが、どちらを選択されますか?」
このように、「自分の提案+判断の期限+判断しない場合のリスク」をセットで提示します。ポイントは、判断をしないこと自体が「リスクを選択した」という責任に直結するように設計することです。
(2) 「事後報告の承認化」による外堀埋め
口頭での「適当な受け流し」を防ぐには、すべてのコミュニケーションを「認識の同期」として記録に残します。
具体例(チャットやメール):
「先ほどの打ち合わせの内容をまとめました。
1. 本件の最終判断は〇〇課長が行う。
2. 万が一クレームが発生した際の対外対応は課長が担当する。
私の認識に相違があれば、本日中にご指摘ください。返信がない場合は、この認識で合意いただいたものとして進めます」
「合意した」というエビデンスを積み上げることで、後から「そんなことは言っていない」という認識のズレの発生を防ぎます。
(3) 「権限の境界線」を明確に引く
無責任な上司は、責任の境界線をわざと曖昧にします。これに対し、部下はあえて「ここまでは私の責任ですが、ここからはあなたの責任です」という境界線を明確に示し続ける必要があります。
「この件は私の権限外ですので、課長の決裁が必要です。決裁が降りるまでは、私の工程はストップしてしまうため決裁をお願いします。」と、事実をベースに確認とり行動を促すことです。上司に忖度して勝手に動くことは、上司の無責任を助長するだけでなく、失敗した際にあなたが全責任を負わされるリスクを招きます。
4. 会社への不信感とどう向き合うか
「なぜ会社はこんな無責任な人間を役職に就けているのか」という怒りは、会社への信用を失墜させます。しかし、ここで視点を変えてみてください。
組織において、上司の質を管理するのは「上司の上司」の責任です。あなたの責任ではありません。あなたが会社への信用を理由にパフォーマンスを落とせば、損をするのはパフォーマンスを落としたあなたになってしまい、得をするのは無責任な上司だけです(「部下の能力が低いから成果が出ない」という言い訳を与えてしまうため)。
「無責任な上司という障害物があるコースで、いかにタイムを出すか」。これは、あなたの市場価値を高めるための高度なトレーニングという見方もできます。劣悪なマネジメント環境下で結果を出した経験は、将来あなたがより高いステージへ進む際の糧となります。
5. 自身のキャリアを「免責」させないために
最後に、最も避けるべきは「上司が無責任だから、自分も適当に仕事をする」という同質化です。上司がどうあれ、あなたには「給与という対価に対して、約束した結果を出す」という、責任があります。上司を攻略するプロセスそのものを、自らの「マネジメント能力の向上」と捉え、自らの職責を全うすることが大切です。その姿は、必ず上司以外の人間の目に留まります。無責任な上司という「霧」に包まれた環境でも、自らの責任範囲を明確にし、事実(結果)のみを積み上げていく姿勢こそが、停滞した状況を打破する唯一の力となります。
まとめ
無責任な上司の下で働くことは、確かに不幸な側面があります。しかし、それは同時に、あなたが「構造で人を動かす力」を身につける絶好の機会でもあります。人格者である上司に付いていくのは簡単です。しかし、機能不全を起こしている上司を「道具」として使いこなし、成果を出すスキルは、どこへ行っても通用する本物の実力です。
まずは、明日の一つの報告から変えてみてください。「課長、どうしますか?」ではなく、「私は〇〇が必要です。いつまでに承認をいただけますか?」。この小さな変化が、あなたの「位置」を正し、無責任の連鎖を断ち切る一歩となります。
「いつも返事を濁される案件」や「責任を押し付けられそうになっている状況」があればあなたの上申方法をまずは変えてみましょう。上司がYes/Noと答えやすい質問に変える、具体的な期限を確認する、あなた自身が行動する上で必要な事実を確認する、このような一歩がお互いの責任の範囲を明確にしていくことへの大きな一歩となっていきます。
文/識学コンサルタント 川添







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