ビジネスの最前線で戦う実務者であれば、誰もが一度は次のような強い確信を抱いたことがあるはずです。 「今のオペレーションよりも、この施策を導入した方が圧倒的に生産性が上がる」 「従来の手法に固執せず、この新しいツールを使えばミスは激減するはずだ」
しかし、その熱意を込めた提案が、上司の「今は時期尚早だ」「今のままで問題ない」という一言で否決されてしまう……。このような経験は、仕事への意欲を削ぐだけでなく、「なぜ現場を分かってくれないのか」という不満や、組織に対する不信感を生む原因となります。
ここで腐ってしまい、仕事の質を落としてしまうのはあまりにも勿体ないことです。結論から言えば、現場の人間が「有効だ」と確信したものは、本来すぐにでも実行されるべきなのです。では、どうすれば「否決」を「承認」に変え、即座に実行に移せるようになるのでしょうか。組織構造の力学から、その突破口を紐解いていきます。
1:現場の「違和感」は、誰よりも早い改善のサイン
会社組織には、それぞれの役割が存在します。意思決定を行い、責任を取る「上司」と、現場で実働し、事実を積み上げる「部下」。同じ目標に向かって走っているチームであっても、実は立場によって「情報の見え方」や「認識している前提条件」には、想像以上に大きな隔たりがあります。
まず認識すべきは、「現場で起きている事実にいち早く気づけるのは、その現場に立っている人間だけである」という揺るぎない事実です。
上司は、会議室で数字や報告書を見て判断を下します。しかし、報告書に載る前の「顧客のわずかな反応の変化」や「システム上の小さな非効率」「現場スタッフの疲弊」といった微細な予兆を感じ取れるのは、実務を担うあなたしかいません。
あなたが抱いた「この施策の方が有効だ」という確信は、単なる思い込みではなく、最前線で得た一次情報に基づいた「改善のシグナル」です。この貴重な経営資源を眠らせておくことは、会社にとって大きな機会損失です。だからこそ、現場の知見を活かした提案は、停滞させることなく「すぐにでも実行できる状態」へと持っていく必要があるのです。
なぜ「正しいはずの提案」が否決されるのか:時間軸のギャップ
なぜ、これほどまでに現場にとって「正しい」提案が、上司には「不要」に見えてしまうのでしょうか。その背景には、組織構造がもたらす「認識の時間軸」のズレがあります。
組織を一つの高い建物に例えてみましょう。
上司(高いフロア):
責任が大きいため、より高い場所から遠くを見渡しています。彼らの視界にあるのは、数ヶ月後、あるいは数年後の未来です。「今この瞬間の効率」よりも、「組織全体の中長期的な安定」や「予算配分の整合性」が優先される時間軸で生きています。
部下(現場のフロア):
目の前の実務を完遂し、今週・今月の目標を達成することが使命です。そのため、認識する時間軸は必然的に短くなり、「今すぐ解決すべき課題」に意識が集中します。
この構造上の違いにより、あなたにとっての「最高にプラスな提案」が、上司の時間軸では「今はそのリスクを取る必要がない」「もっと先にやるべきことだ」と見えてしまうことが多々あります。
この事実を理解せずに、「自分の案は正しいのに、上司は理解力がない」と感情的に反応しても、事態は好転しません。むしろ、前提条件がズレたままの議論を繰り返すことで、上司からは「全体像が見えていない部下だ」という評価を下され、ますます提案が通りにくくなるという「負の連鎖」に陥ってしまうのです。
2:報告の仕方に潜む「主観」という落とし穴
上司と部下で前提条件がズレてしまう理由は、立場の違いだけではありません。日常的な「報告の型」そのものに原因が潜んでいるのです。
ビジネスの基本は「結論から話す」ことですが、多くの人は新しい施策を提案する際、知らず知らずのうちに「プロセス(手段)」の説明に終始してしまいます。
私はコンサルティング業務の中で、数多くの企業の報告書を精査しますが、そこには共通する弱点があります。「何をするか」「どれだけ大変か」は克明に記されている一方で、「その結果、組織がどのような状態になるのか」というコミットメント(約束する結果)が欠落しているのです。
端的に言えば、「結果」にコミットせずに「施策」だけを記載している報告です。上司は部下よりも豊富な経験を持っています。しかし、得たい成果が不明確なまま施策だけを伝えられると、上司は自分の過去の経験に基づき、「そのやり方だと、以前こんな失敗があったな」「これでは成果が出ないだろう」と、自分の主観で結果を勝手に想像してしまいます。
この瞬間、上司と部下の間には、お互いの「主観」に基づいた巨大な壁が生まれます。主観同士のぶつかり合いは、論理的な議論を妨げ、感情的な対立へと発展しがちです。結果として、正しい判断ができなくなり、本来有効であるはずの施策が「なんとなく反対」という理由で否決されてしまうのです。
3:施策を「即実行」するための承認獲得戦略
では、現場の知見を活かし、会社をより良く変えるために、私たちはどのように立ち振る舞うべきでしょうか。会社の方針に逆らって勝手に動くことは組織人として失格ですが、現場の改善を止めることもまた、プロフェッショナルとして不本意なはずです。
「絶対にこの施策の方が有効だ」と思うものをすぐに実行するために、以下の3つのポイントを徹底してください。
(1) まずは「上司の指示」を完璧に遂行し、信頼を勝ち取る
上司も一人の人間です。そもそも自分の指示を聞かず、好き勝手に動いている部下の提案には、最初から拒絶反応を示します。組織における「信頼残高」が足りていない状態では、どんなに素晴らしい案も届きません。 まずは上司の指示通りに動き、結果を出すことで、「こいつの言うことなら一理ある」と思わせる土台を作ることが、急がば回れで最短の道となります。
(2) 「自分の役割」を果たすことに集中し、視点を合わせる
上司の指示は、そのまま「あなたの果たすべき役割」です。その役割を果たすために、どうすればもっと良くなるかを考える。この軸がブレていなければ、提案の方向性は自然と上司の期待と一致しやすくなります。自分勝手な「やりたいこと」ではなく、役割を完遂するための「必要不可欠な武器」として施策を提示しましょう。
(3) 「やりたい事」と「約束する結果」をセットで報告する
ここが最も重要なポイントです。提案をする際は、必ず「いつまでに、どのような状態(数値・事実)にするか」という完了定義をセットにしてください。
「〇〇を導入したいです」ではなく、「〇〇を導入することで、来月末までに残業代を20%削減します」と言い切る。
この際、「私が思うに」という主観を排除し、「現場で現在、週に〇件のミスが発生しているという事実」に基づいた根拠を提示する。
誰が聞いても解釈がズレない言葉(数値や明確な状態)で結果を約束し、その根拠として「現場でしか見えていない一次情報」を添える。ここまで準備された提案であれば、上司は「NO」と言う理由を失います。
まとめ
「絶対にこの施策の方が有効だ」と思うものは、いつやればいいのでしょうか。
その答えは、「上司に対して明確な結果を約束し、承認という名の『パス』を勝ち取ったその瞬間」です。
現場にいるあなたにしか見えない「不都合な事実」や「改善の種」は、組織にとっての宝です。その宝を腐らせて不満を溜めるのではなく、上司を納得させる「報告の技術」を磨くことで、自らの手で仕事の環境を変えていくことができます。
(1) 立場の違いによる「時間軸のズレ」を前提にする。
(2) 施策(手段)ではなく、成果(目的)で会話する。
(3) 現場の一次情報を、上司の意思決定を助ける「武器」として使う。
このステップを意識するだけで、あなたの提案は驚くほど通りやすくなります。感情に流されず、論理と事実を味方につける。それこそが、自分の信じる道を切り開き、組織に真の貢献をもたらす一流のビジネスマンの姿です。
今日から、不満を抱えるのはやめましょう。あなたの確信を、組織の成果に変えるための「戦略的な報告」を始めてみてください。
文/識学コンサルタント 栗尾哲也
「成功」を加速するマネジメントと聞いて、何を想像されるでしょうか?成功のイメージは様々かと思いますが、ここでは、会社・組織において、今これを読まれているマネジメ…







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