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「感謝」の気持ちが睡眠の質を高める!?感謝と脳科学から見る新常識

2026.01.15

「睡眠時間は確保しているはずなのに、朝起きると疲れが残っている」
「夜中に目が覚め、そのまま仕事や将来のことを考え始めてしまう」

こうした悩みを抱えるビジネスパーソンは少なくありません。睡眠の問題は、単なる体調不良にとどまらず、集中力や判断力の低下、生産性の低下、さらには免疫力の低下やメンタル不調のリスク上昇にも直結します。多くの人は「睡眠時間が足りないから不調なのだ」と考えがちですが、実際の臨床現場では、睡眠時間よりも「睡眠の質」が問題になっているケースが非常に多く見られます。

そして近年、この睡眠の質を左右する重要な要因として注目されているのが、「感謝」という感情です。感謝と聞くと、精神論や気持ちの持ちようの話だと感じるかもしれません。しかし、感謝は脳や自律神経、免疫系に明確な生理学的変化をもたらすことが、脳科学や心理学、医学研究によって明らかになってきています。

感謝することは免疫力向上に繋がる

慢性的なストレス状態にあると、私たちの体内ではストレスホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌されます。コルチゾールは短期的には集中力を高めるなど必要なホルモンですが、高い状態が続くと免疫機能を抑制し、感染症にかかりやすくなったり、炎症が慢性化したりすることが知られています。

特に現代のビジネスパーソンは、仕事の責任や人間関係、将来への不安などにより、無自覚のまま慢性的なストレス状態に置かれがちです。その結果、「特に病気ではないのに体調がすぐれない」「疲れが抜けない」といった状態が続くことになります。

一方で、感謝の感情を日常的に感じている人は、コルチゾール値が低く、免疫グロブリンA(IgA)などの免疫指標が高い傾向にあることが報告されています。IgAは、口腔や腸管といった粘膜で病原体の侵入を防ぐ重要な免疫物質であり、睡眠不足や精神的ストレスによって低下しやすいことが分かっています。

免疫とは、単に病原体と戦う力ではありません。細胞を修復し、炎症を適切に抑え、疲労から回復する力を含めた総合的な回復機能です。感謝の感情が生じると、身体は交感神経優位の「闘争・防御モード」から、副交感神経優位の「修復・回復モード」へと切り替わります。

特に夜間の睡眠中は、免疫機能が集中的に働く時間帯です。感謝によってストレス反応が抑えられることで、睡眠中の回復プロセスが妨げられにくくなり、免疫力が効率よく整えられていきます。感謝は、免疫と睡眠の双方を支える基盤として作用しているのです。

感謝が睡眠の質を上げる科学的根拠

睡眠の質を決定づける最大の要因は、「脳が安全だと感じているかどうか」です。人の脳は、危険があると判断すると休むことを拒み、覚醒状態を維持し続けます。

感謝の感情が生じると、脳内ではセロトニンやオキシトシンといった神経伝達物質が分泌されます。これらは情動を安定させ、不安や緊張を和らげる働きを持っています。

その結果、脳は「今は安全で、休んでも問題ない」と判断しやすくなります。心理学研究では、就寝前に感謝日記をつけた被験者において、入眠までの時間が短縮し、夜間覚醒が減少し、主観的な睡眠満足度が向上したことが示されています。重要なのは、感謝が睡眠そのものに直接作用するというより、「眠る前の脳の状態」を変えている点です。

夜、眠れない理由は、身体の疲労ではなく、思考が止まらないことにあります。仕事の反省、人間関係の後悔、将来への不安が頭の中で繰り返され、脳が休むタイミングを失ってしまうのです。このような反芻思考には、脳のデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)が関与しています。感謝に意識を向けることで注意が「今ここ」に戻り、DMNの過剰な活動が抑えられます。その結果、脳の過覚醒が鎮まり、自然な眠気が生じやすくなります。感謝は、脳に対して「今日はここまででいい」「もう考え続けなくていい」という明確な合図を送る行為なのです。

さらに重要なのは、感謝が「睡眠に対する認知そのもの」を変える点です。不眠が慢性化している人ほど、「また眠れないのではないか」「明日に影響が出るのではないか」といった予期不安を強く抱えています。この予期不安自体が脳を覚醒させ、結果として眠れなくなるという悪循環を生みます。感謝の感情に意識を向けることで、脳の注意は「足りないもの」や「不安要素」から、「すでに満たされている事実」へと移動します。これは、睡眠に対する過剰なコントロール欲求を和らげ、「眠りは自然に訪れるものだ」という感覚を取り戻す助けになります。感謝は、睡眠を妨げている認知のクセそのものを、穏やかに修正する働きも担っているのです。

感謝が副交感神経を活性化するメカニズム

自律神経は、活動時に働く交感神経と、休息・回復時に働く副交感神経から成り立っています。日中に交感神経が優位になること自体は問題ありませんが、その状態が夜まで続くと、身体は休むことができません。感謝の感情は、恐怖や不安を司る脳の扁桃体の過剰な興奮を抑え、理性的判断を担う前頭前野の働きを安定させます。その結果、迷走神経を介して副交感神経が活性化され、心拍数の低下、呼吸の深化、血流の改善といった変化が起こります。

この生理的変化は、深いノンレム睡眠に入るための前提条件です。ノンレム睡眠中には、感情の整理、記憶の再編成、脳細胞の修復が行われ、翌日の脳のパフォーマンスが準備されます。睡眠は単なる休息ではなく、「脳と身体を再構築する時間」です。感謝によって副交感神経が優位になることで、睡眠の質が高まり、判断力、集中力、創造性、感情コントロール力といった仕事に直結する能力が底上げされていきます。

医師兼カウンセラーが唱える感謝の重要性

医療の現場では、検査値に大きな異常がないにもかかわらず、不眠や慢性疲労、原因不明の不調に悩む方を数多く見てきました。その多くに共通しているのは、「身体は休んでいるように見えても、心がまったく休めていない」という状態です。不眠とうつ、不安は密接に関連しています。眠れない状態が続くと、人は次第に心身の回復力を失い、日中の不調や気分の落ち込みを強く感じるようになります。その結果、夜になっても緊張が抜けず、眠りが浅くなるという悪循環に陥りがちです。感謝の習慣は、この悪循環を静かに断ち切る現実的な手段の一つです。

感謝とは、無理に前向きになることではありません。現実を美化することでもありません。「今日も生きている」「支えてくれる人がいる」「呼吸ができている」。そうした事実に気づくことが、脳と身体に「今は大丈夫だ」という安心の信号を送ります。この安心こそが、回復の出発点になります。感謝は才能ではなく、習慣です。就寝前の30秒、今日ありがたかったことを一つ思い出す。それだけで、免疫、自律神経、睡眠、そして人生の質は静かに整い始めます。忙しいビジネスパーソンにとって、これほど再現性が高く、合理的なセルフケアは他にないでしょう。

臨床の現場では、「もっと休まなければ」「ちゃんと眠らなければ」と自分を追い込むほど、かえって眠れなくなる方を多く見かけます。これは、回復のために本来必要な「安心」が欠けている状態です。努力や管理で自分を律し続けると、心身は常に緊張したままになってしまいます。感謝の習慣は、「何かを達成できた自分」に価値を置く生き方から、「すでに存在している自分」を肯定する生き方へと、視点を穏やかに戻してくれます。この視点の転換は、自律神経や睡眠だけでなく、長期的な心身の健康にも大きな影響を与えます。

感謝とは、努力を増やすための方法ではありません。むしろ、力を抜き、回復することを自分に許すための、医学的にも理にかなったアプローチなのです。

文/野上徳子
のがみ・とくこ。医師/心理カウンセラー。久留米大学医学部卒業後、岡山大学第一内科に入局し、複数の病院勤務を経て現在は松山市内の病院で内科診療に携わる。神経学・生理学の視点から「心と身体のつながり」を探究し、産業医・オンラインカウンセリングなど幅広く活動。医療と意識の関係をテーマにしたオンラインイベントも主催している。臨床経験を踏まえ、心身両面からのアプローチで、日々の健康づくりや生き方の再構築を支援している。

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