飲み会が続いたり、つい特番を観ながら夜更かしをしてしまったりなど、今の時期は生活リズムが崩れがち。楽しいイベントが続くとつい睡眠時間を削って時間を作ろうとしてしまうという人は少なくないだろう。
しかし、この睡眠負債をそのまま放置すると、新年度のスタートをうまく切れなくなってしまう。では睡眠負債を返済するにはどうすればいいのか、心療内科医で睡眠に詳しい田中奏多先生に話を聞いた。
そもそも睡眠負債とは?
睡眠負債とは、必要な睡眠時間と実際に取れている睡眠時間の差が広がっていくことによって、じわじわと体に負債が蓄積している状態を指すという。
有名な研究として、6時間以下の短い睡眠が2週間ほど続くと、注意力などの認知機能が大きく低下し、徹夜に近いレベルまで悪化し得るという報告があります。ただ、睡眠負債に関わるのは、睡眠時間だけではありません。質の悪さも影響します。お酒を飲んで寝ると寝つきがよくなっても、質の良い睡眠が取れず、睡眠負債が溜まる要因となります」
良質な睡眠がうまく取れず、睡眠負債がたまっている人は、どのような自覚症状があるのか。
「朝、すっきり起きられなかったり、寝足りない感じがしたりします。日中は集中力低下やミスが増え、イライラしたり落ち込みやすくなったりも。睡眠不足による調子の悪さは本人があまり自覚していないことも多く、周囲の人から『あの人イライラしている』と言われて気づくことが多いという特徴もあります」
睡眠負債の症状
睡眠負債を解決せずに過ごし続けることで、このような症状がよりひどくなっていくという。
「更に、免疫力の低下や自律神経の乱れにも繋がり、肩こりや頭痛、胃腸の不調なども起こります。中長期的には肥満や生活習慣病のリスク上昇にも関係してきます。睡眠は体を休める唯一の時間であり、体内の炎症反応を抑える役割も。うつや不安障害といったメンタルヘルスの問題だけではなく、幅広い健康問題に関わってくるのです」
睡眠負債は〝寝だめ〟をしても意味がない!?
2026年1月、健康的な毎日を過ごすためにも、年末年始の睡眠負債は早めに解決したいもの。しかし、朝起きる時間を遅くし、寝だめをして解決するのは推奨できないという。
「朝寝坊をして昼まで眠ったり、夕方まで眠ったりする後ろ倒しをして睡眠不足を補おうとするのは、体内時計に大きく影響します。人間には脳の体内時計と、体がもつ体内時計の2つがあります。特に強い影響力を持つのは脳の体内時計です。これは朝の光でスイッチがオンされます。朝起きる時間が後ろ倒しになると、朝の光を浴びる時間も後ろ倒しになり、体内時計が後ろ倒しになっていきます」
後ろ倒しにして、十分な眠りをとることの何が悪いのだろうか。
「体内時計を後ろ倒しにするのは比較的簡単ですが、早めるのは1日1時間程度しか調整できません。そのため、寝だめで起きる時間が遅くなると、元の生活リズムに戻すのに数日かかってしまいます。仕事が始まる日に向けて調整できず、体が本調子ではない状態で出勤することになってしまうのです」
■重要なのは「起きる時間の固定」

睡眠負債を解決していくために、取り組むべきは、やはり起きる時間の固定だ。
「疲れているはずなので、30分から1時間早寝を意識して、眠る時間は確保しましょう。日中のお昼寝を行っても問題ありませんが、16時以降は横にはならず、必ず頭を床から離すこと、16時以降の睡眠はその日の睡眠の質に関わってきます」
■二度寝をしたい時のルール
どうしても早寝が難しく、朝にたっぷり寝たいという人には、おすすめのテクニックがあるという。
「どうしても二度寝をしたいならば、まず夜は30分から1時間早く寝て、いつもの朝の時間に起きましょう。そして、朝食を食べた後に、短い仮眠としてもう一度寝る。その際には、夜に眠っている場所とは別の場所で寝ることが重要です。この行為により〝これは本当の睡眠ではない〟と脳にインプットされ、深い睡眠に入りすぎないようになります。人間の体内時計のスイッチで大事なのは、朝の光と言いましたが、もうひとつが朝ごはんです。この2つのスイッチをしっかり押し、ずらさないようにすることが重要です」
眠りすぎなければ一応セーフだそうだが、連続的に長時間眠るような状態になると、日中の活動性が低下し、その日の夜の睡眠の質が悪くなるため、せめて午前中には起床しよう。
「人によっては1日2日ですぐに改善しないケースもあります。どれくらい生活リズムが乱れたか、睡眠負債が溜まっているかによって必要な期間は変わってきます。年末年始に徹夜をしたりする場合は、翌日は寝る時間を早めるようにするなど、睡眠負債を蓄積させないことが理想的です。最も避けるべきなのは、夜更かしした翌日の16時頃に眠くなって軽く寝てしまうパターンです。夕方に眠くなっても、気合を入れて起きていることが重要です。 変な時間に寝てしまうと、どんどん体内時計がずれていきますよ」
理想の睡眠時間は存在しない!?
ただ、必ずしも8時間眠らないといけないといったような厳密な理想の睡眠時間はないという。
「起きてから4時間後に調子が良いと感じられる状態であれば、良い睡眠がとれているという目安になります。必要な睡眠時間は人によって異なり、7〜8時間必要な人もいれば、短くても大丈夫な人もいます。夜眠れなくても日中にしっかり活動できるなら、それほど心配する必要はありません。逆に、日中に眠気が襲ってきたり、体がだるかったりして元気よく活動できない人は、自分の睡眠を見直した方がいい」
しっかり活動ができる睡眠時間の確保。そして毎日同じ時間に起きてご飯を食べて、活動的な生活をして、良質な睡眠をとるという流れが理想的な日々だ。年末年始で睡眠負債が溜まりかけたら、すぐに解決して、理想的な生活を取り戻そう。
田中奏多医師プロフィール

心療内科医・産業医として、メンタルヘルスのプライマリケアを担うベスリクリニックを共同創設、「薬に頼りすぎない心の医療」を実践している。ハーバード大学のTMSコース修了後は、企業の健康経営支援、うつ病に対するTMS治療、休職者の復職支援などを幅広く手がける。著書に『眠る投資 ハーバードが教える世界最高の睡眠法』がある。
取材・文/田村菜津季
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