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紀伊国屋書店の業績が絶好調、書店業界の苦戦が続く中でなぜ?

2025.12.29

2027年に創業100周年を迎える紀伊国屋書店の業績が絶好調です。

3期連続で過去最高売上・最高益を更新しました。

競合の丸善が収益構造改革を進める中、紀伊国屋は店舗ネットワークを拡大するという直球勝負で成功しているのです。

その背景には何があるのでしょうか。

リスクを分散するためにも広大な店舗ネットワークが必要

2025年8月期の売上高は4.1%増の1407億円、営業利益は同18.2%増の51億円でした。国内の書店事業は472億円で、5.6%増加しています。

丸善の書店事業は、今期こそ2025大阪・関西万博のオフィシャルストアのグッズ販売が好調で3割近い増収になっているものの、前期は0.2%の減収でした。

足元では収益構造の転換を図っており、売上全体の40%以上占める書店事業を2029年1月期までに35%程度とし、図書館サポート事業など別事業の売上を膨らませる青写真を描いています。

そうした中、紀伊国屋は国内での書店のM&Aを活発化させています。

2024年12月にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の傘下にあった旭屋書店と東京旭屋書店の全株を取得。2025年4月に京王電鉄の子会社だった京王書籍販売を買収しました。京王書籍販売は「啓文堂書店」を運営していた会社。このブランドは「紀伊國屋書店」へと屋号を変更し、再スタートを切っています。

紀伊国屋の国内の店舗数は2025年11月末時点で102となりました。

国内で店舗ネットワークを広げる主要因に、取次依存からの脱却を進めていることがあるでしょう。

紀伊国屋とCCC、日本出版販売は、書店主導の出版流通改革の実現を目的に、共同出資でブックセラーズ&カンパニーを2023年10月に設立しました。

通常、書籍の取引は取次を介して行われます。これは日本独自の商習慣で、書店の負担なく返品ができるなどのメリットがあります。しかし、取次をはさむ分、利益が削られます。

ブックセラーズは出版社に直接発注できますが、在庫責任が伴うわけです。紀伊国屋の販売ネットワークが広がると、在庫を別店舗に移す自由度を上げることができます。リスク分散が図れるのです。

ブックセラーズは2027年3月期までに取次を介さない直接取引額を全体の1割である500億円に引き上げる計画を立てています。

アニメブームがアメリカのマンガ人気に火をつけた

紀伊国屋の海外事業は7.0%の増収でした。海外事業の売上は全体の1/4を占めるまでになっており、そのネットワークは10か国47店舗。2027年までに国内外で200店舗に増やす計画を立てており、国内でのM&Aも相まって着実に進んでいます。

紀伊国屋は事業別の営業利益を公開していませんが、利益貢献が大きかったのは海外事業でしょう。円安が進行しているからです。

海外開拓の収益の柱がマンガ。紀伊国屋の海外店舗のうち、半分近くはアメリカにあります。アメリカの旺盛な日本のマンガ・アニメ需要を巧みに捉えているのです。

マーケットリサーチのGrand View Researchは、アメリカのマンガ市場は2030年までにおよそ37億3000万ドル(5600億円)まで拡大し、2025年から2030年までの年平均成長率は24.0%だと予想しています。

日本におけるマンガ市場はすでに7000億円規模で、成熟しつつあります。一方、アメリカはまだ成長途上にいるのです。

JETROの調査では、アメリカ人がマンガを読む形態の24.4%が印刷版のみ。デジタル版と印刷版の両方を使う割合が40.2%でした。紙文化が根強く残っており、一部のファンは紙の本をコレクションの対象にもしています。書店の役割が依然として大きいのが特徴なのです。

しかも、アメリカの単行本の価格は一般的に10ドルから14ドル程度。日本円にして1500円から2100円というレンジです。客単価が高いうえ、円安でドルが稼げると利益に好影響を与えます。好条件がそろっていると言えるでしょう。

JETROによると、マンガに興味を持ったきっかけの第1位はアニメで37.8%。

2025年9月12日に全米3315館で劇場公開された「劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来」は9月21日までで興行収入1億ドル(150億円)を突破。2週連続で週末興行収入1位を記録しました。

日本のアニメ人気は凄まじく、こうした熱狂がマンガに伝播するという好サイクルを形成しています。

書籍と雑貨をミックスして販売する独自手法

紀伊国屋は海外の店舗設計も巧み。マンガを中心としながらも、サンリオなど海外で人気のあるキャラクターグッズもレイアウトしています。紀伊国屋でしか購入できない限定品も取り揃え、ファンが集まる仕掛けも用意しているのです。

紀伊国屋は2013年に文房具や雑貨などを手がけるエヌ・ビー・シー(NBC)を買収しました。NBCは買収当時すでに海外で22店舗を展開しており、国内20億円に対して海外売上が14億円もありました。2019年にNBCのアメリカ子会社も取得しています。

これにより、海外で書籍だけでなく文房具と雑貨の販売がしやすくなったのです。

紀伊国屋がサンフランシスコに海外1号店を出店したのは1969年。地道に顧客を開拓し、店舗ネットワークを強化してきました。書籍と雑貨を組み合わせた販売手法など、ノウハウも蓄積しました。

海外事業の好調ぶりは、日本のマンガ人気で市場が急拡大していることもありますが、顧客に支持される店舗運営体制を築いたからこそのものでもあります。国内の書店業界が斜陽化する中、紀伊国屋書店は輝きを見せています。

文/不破聡

Author
大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融、経営戦略を中心とした記事を執筆中。得意分野は外食、ホテル、映画・ゲーム、エンターテインメント業界など。

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