2024年10月に初めて1万戸を割った日本の酪農家。一般社団法人中央酪農会議の調査結果によると、酪農家の6割が「赤字」で離農を検討しているという。もしこの状況が続けば、消費者は国産の牛乳を普通に飲めなくなるかもしれない。
そんな状況を打破するために、注目されているのが「国産チーズ」。
なぜ国産チーズが、酪農業界を救うのか――チーズプロフェッショナル協会・会長の坂上あきさんにその理由を伺った。
高付加価値化できる国産チーズは希望の星。酪農家の生産意欲向上に繋がる

坂上さんが会長を務めるチーズプロフェッショナル協会は、「チーズを正しく伝えられる人材」を育てることをミッションに、20年以上活動を続けるNPO法人。
チーズプロフェッショナルの資格認定やセミナーなどを実施しながら、チーズ市場全体の活性化を目指している。そして国産チーズのブランド化と消費拡大も、チーズプロフェッショナル協会の目標だ。
チーズの基本的な材料となるのは「牛乳」。しかし今、日本の酪農業界はさまざまな要因で危機を迎えていると、坂上さんは話す。
坂上さん「酪農は3Kと言われる大変な仕事の上に、円安や戦争の影響で牧草や穀物といった牛の餌の価格が高騰化し、酪農家の大半が赤字経営となってしまっています。
辛い仕事を継がせようという気持ちも起きないため後継者も不足し、廃業者も増加傾向です。また、飲み物の多様化から牛乳離れが進み、少子化のため学校給食の供給量が減ったことも一つの要因。
さらに、牛は暑いのが苦手なので、地球温暖化による乳量の減少も問題です」
持続可能な経営が困難を極めている酪農業界。すべての問題を解決するわけではないが、「国産チーズは、酪農業界の希望の星になりうる」と坂上さん。
その理由は3つあるが、チーズを生産して直販することで消費者の声が直接酪農家に届き、モチベーション向上に繋がることが、最も重要だという。
坂上さん「第一に、チーズは牛乳よりも日持ちがする食品です。例えば学校給食が夏休みになると、生乳の需要が落ち込みます。しかし、牛はミルクをストックすることができないので、余剰がでます。その余剰をチーズにすることで、無駄をなくすことができます。
第二に、生乳をチーズにすることで付加価値をつけられます。同じ1Lの牛乳でも、チーズなら高価格で取り引きができるのです。
そしてこれが最も大事と捉えていますが、チーズは酪農家のやりがいに繋がります。日本で生産される生乳の90%以上が農協に集められ、何十軒もの酪農家の生乳が合わさり出荷されます。
それは需要と供給のバランスを保つために必要なシステムですが、酪農家は消費者と繋がることはできません。しかしチーズとして製品化し道の駅やインターネットで販売すると、消費者の声が酪農家に届きます。
酪農家は『自分の生産したミルクが、こんな風に消費者に喜んでもらえてるんだ』というやりがいを実感できるのです」
World Cheese Awards 2025受賞のチーズも。注目のチーズ工房

持続可能な経営という目線で、坂上さんが全国にあるチーズ工房の中でも注目しているのが北海道・十勝の「TOYO Cheese Factory」。
契約農家からミルクを仕入れて販売しているのだが、各契約農家ごとに分けてチーズを生産しているのが特徴だ。TOYO Cheese Factoryは、紙袋などを製造する東陽製袋が酪農家と消費者を繋ぐことを目標に2020年に立ち上げた。
坂上さん「ミルクローリーを自社で持っている、大規模な工房です。ソフトチーズではなく賞味期限が長いハードチーズを生産し、供給が安定しています。
2025年11月に開催された世界最大級のチーズコンテスト『World Cheese Awards 2025』では、旨みとミルクの風味が広がる『age 02 Raclette』がSilverを受賞しました」

World Cheese Awards 2025とは、世界各国から多種多様なチーズが集まるチーズ・コンペティション。第37回目となる2025年は46カ国から5,244品のチーズがエントリーした。
そしてスイスやフランスなど歴史あるチーズ大国のチーズを差し置いてTOP14入りを果たしたのが東京都「養沢ヤギ牧場 チーズ工房」の「養沢ヤギチーズ」だ。
さらに広島県「チーズ工房乳ぃーずの物語。」の「雪子」もSuper Goldを受賞しており、国産チーズのレベルは世界的にも高いことが認められている。

坂上さん「審査では、まず5,244品のチーズが110のテーブルに分けられます。それぞれのテーブルでは2~3人の審査員によって審査され、そのチーズの点数によってGold、
Silver、Bronzeのメダルがつけられます。さらに、そのテーブルのGoldの中の最高点のチーズがSuper Goldとなります。
そしてSuper Goldの中から特別審査員14人によってBEST14が選ばれるのですが、そのひとつに『養沢ヤギ牧場 チーズ工房』が選ばれました。
日本のチーズは開催地のスイスまで輸送期間が3週間もかかってしまうのですが、それでも品質とおいしさを保っていたという点が評価されたようです。国産チーズに共通していえることですが、繊細な味わいと、見た目の美しさも認められています」
世界的にも注目されている国産チーズ。しかし、「世界的に評価されているということを、日本人にもっと知ってほしい」と坂上さんは話す。
国産チーズの消費拡大には、そのチーズがどのような想いで、どんな人が作っているのか、そのストーリーを伝えていくことが大切だという。
坂上さん「私自身、全国の各工房に行くとファンになり、チーズを購入したいという気持ちになります。毎日は食べなくとも、特別な日に、◯◯さんのチーズだから食べようか、とチーズの背景にあるものを思い浮かべながら、みなさんに味わってもらえたら嬉しいですね」
さまざまな問題を抱えながらも、「国産チーズ」という一筋の光が見えている日本の酪農業界。
小規模な手づくりの工房のチーズは大量生産のチーズと比べると高額なことも多いが、生産の苦労やWorld Cheese Awards受賞チーズということを知れば、むしろ「買いたい」と思うはずだ。
気になるチーズがあったら、工房のHPやSNSをチェックしてみる――それだけでも、きっと酪農業界を救うひとつのアクションになるだろう。
取材・文/小浜みゆ
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