この30年間で、アルバイトを含む非正規雇用は大幅に増加して、国内の労働市場において重要な位置を占めるようになった。
かつては、「正規採用されなかったから」という理由で非正規を選ぶ人が多かった。しかし今では、「自分の生活スタイルに合わせて」「より自由に」働きたいと、自ら非正規を選択するなど多様な働き方が進展し、ワーキングスタイルの大転換をもたらしている。
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その変遷と今後10年の予測を、求人サイトを運営する株式会社バイトレ代表取締役の細野倫由氏に聞いた。
細野倫由氏
株式会社バイトレにて2012年より、群馬・北関東エリアの責任者として物流企業の顧客開拓に従事し、事業拡大を牽引。2021年より代表取締役に就任。
「インターネット」「スマホ」の出現が、雇用企業と求職者の結びつきを変えた
“アルバイト”という働き方は、近年大きく変わってきている。その要因はどのようなところにあるのだろうか。
「アルバイトを取り巻く環境が大きく変わったのは、インターネットの出現と携帯電話、スマートフォンの登場が大きな影響を与えているかなと思います。
あとはもうひとつが人手不足を背景とした社会情勢の変化。大枠でこの3つがアルバイト市場に大きな変革をもたらしたと思っています」
以前はアルバイト情報誌や折り込みの求人チラシ、街に張り出されている募集ポスターなどの情報で仕事を探すことがメインだった。
「私自身、学生時代のアルバイト探しはそうでした。そこに対して、現在ではインターネット、スマホが登場してきたことで お仕事の探し方が大きくガラリと変わりました。
応募するほうに関しても探しやすいですし、採用する企業さん側としても求人が出しやすくなったのです。求職者側にとっては、自分のライフスタイルに合わせた仕事をタイムリーに探しやすくなりました。
雇い主側は、募集チャンネルの多様化によってさまざまな属性の求職者が流入をしてくるので、そういった方々を上手く活用できるようになりました」
今、働き手の“行動変容”が訪れている
アルバイト、派遣スタッフ、スキマバイトアプリ…、アルバイト市場は多様化してきている。
「求職者の方が、例えば隙間時間だけ埋めたい、そこだけ働きたいということであればアプリを活用するでしょうし、逆に社員でお仕事をしたいということであれば、転職サイトを活用して就職活動もできます。
そういった形でご自身のライフスタイルに合わせて、どのチャンネルを使って求職活動をするのかが選択ができるようになったというところも、市場に良い影響を与えているのかなと思っています」
一方でデメリットも生まれていると言う。
「今はバイトアプリも含めて、求職者側にとっては面接を取り払った形で自動的に採用されてしまうというところがございますので、良い点もあります。
企業側としては、経歴は置いておいて明日10名必要だから来てくださいといった形での雇用契約を締結しやすくなったという部分もあります。ただそうなると、求職者側はただ単純にその日だけの労働で、どうしてもご自身のキャリアアップですとか、将来の長期的なスキルアップというところにつながりにくいというデメリットになるのかなと思っています。
また、採用側としてもいろいろな人が入ってくる分だけ、管理が大変になったりその都度教えなくてはいけなくなったりという教育の手間が発生したりしてしまいます」
アルバイトで生活するなど、多様な働き方を選択できる時代になった。
「今はスキマバイトアプリなどが顕著ですが、1日だけのお仕事である程度、1万円近く日給で手にすることができます。自分のライフスタイルに合わせて仕事が選べてしまう、探しやすくなっているのが影響を落としている要因かと思います。
また、正規の社員になった場合、引き受けなければいけない責任の範囲が大きくなってしまうということが与える心理的な影響から、ある程度生活に困らないのであれば、正規ではなく非正規、もしくはアルバイトでという選択を選ばれていると私は理解をしています。
このように個々人の価値観、考え方に基づいて、多様な働き方を選択できる時代になったことは素晴らしいことと受け止めています」
そういった人たちのアルバイト選びの変化は?
「求職者の軸としては、昔はやはり時給が高いところ、待遇が良いところという条件が圧倒的に存在はしていました。
しかし、今はいくら待遇を良くしても、集まりにくいタイミングで募集かけるとどうやっても人が集まりません。いつどこで働くのか、そのあたりをより重視をして、求職者側で仕事選びをされているのではないのかなと思っています。これは今後もより顕著になると思います。
ですので、より多くの労働力を確保しなければいけない企業については 立地ですとか集まりやすい時期、集まりやすい場所でいかに仕事を作ることができるのかがポイントなのかなと思っています。
それと、これは面白い変化なのですが、10年くらい前は若年層の方のご登録が圧倒的に多くて、40代以上の方についてはご登録の割合はどちらかというと少なかったのですが、ここ数年は若年層の登録はそれほど減ってはいないのですが、逆に中高年の方のご登録が増えたというデータが観測できています」
今後10年、AI・自動化の推進でアルバイトの働き方もさらに変化する
では、今後10年でアルバイトとしての働き方は、どのように変わっていくだろうか。
「すでにその兆しは見ていますが、AIやロボットと仕事をしていかなければいけない時代になると思います。
肉体的にキツい仕事を含めて、今までマンパワーで補わざるを得なかった職種も、AIやロボットの補助を受けながら進めていくので楽になるという変化がもっと大きくなると思います。
例えば、物流の荷下ろし、荷分けなどは過酷な作業だと思われがちですが、すでにロボットの補助スーツが使われております」
「これはあくまで予測ですが将来起こり得る変化としては、簡単な作業についてはもう人手を介さない、つまり簡単な作業では雇ってはもらえないというところはもうすぐそこまで来ております。求職者側としてはどういったスキルを身につけるべきなのか、システムも含めて使えるスキルを身につけていかないと仕事にありつけない、という未来が来るかもしれませんし、ロボットを扱えるようにならないと雇ってもらえないということが起こりうる可能性もあります」
AIや自動化でアルバイトの仕事は奪われてしまうのだろうか。
「全ての人手を介する作業が自動化ロボット化されるとも思っておりません。定型化された業務でなければロボットやシステム化はできないと思っています。
またボリュームがある程度ないとやはりロボット化、システム化した方が逆に単価が上がる、費用がかさむというケースはあるかなと思っていますので、そういった自動化が図れない業務というところについては引き続き人手を介した労働力の人数が一部残るとは思っています。
また、副業を認める会社が多くなってきているので、正社員+バイト+ギグの多層働きが一般化して、複数雇用形態の同時運用が当たり前になるかもしれません」
実際に副業規定を実質的に撤廃している会社も増えてきた。それによって会社への帰属意識よりも、仕事の内容や勤務地、労働時間といった個人の条件を重視する傾向が強まってきている。
従来の終身雇用を前提とした「日本型雇用システム」からの大きな転換期に来ているといえるだろう。個人のライフスタイルや価値観に合わせた働き方が可能になってきているのだ。
一方で、雇用の不安定さやキャリアアップの問題も出てきている。これから新たな仕事を始めようと思うならば、そのあたりをしっかり見据えて選んでいこう。
取材・文/松尾直俊







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