企業の人事分野で聞くことが多くなった「アルムナイ(採用)」とは?カムバック採用やリファラル採用との違い、アルムナイ採用のメリット・デメリット、実施企業の事例についてまとめた。
目次
ビジネスシーンで「アルムナイ」という言葉を耳にする機会が増えている。退職した社員がかつての企業に再雇用される制度を指すが、一昔前の「出戻り」といったネガティブなイメージはなく、採用手段の一つとして積極的に取り組む企業がほとんどだ。
本記事では、アルムナイの言葉の意味や、アルムナイ採用のメリット・デメリット、一度辞めた会社にアルムナイ採用で再雇用される場合に心がけて起きたいポイントについて解説する。
アルムナイとは?言葉の意味と基礎知識
アルムナイ(Alumni)とは、英語で「卒業生」や「同窓生」を指す言葉だ。元はラテン語の「alumnus(卒業生、養子)」に由来しており、「育てられた人(=卒業生)」を意味する。
近年のビジネスシーンにおいては、企業の「退職者」を指す言葉として使われている。
■アルムナイ採用とは
アルムナイ採用とは、一度退職した元社員(アルムナイ)を再雇用する採用方法を指す。欧米では「boomerang hire(ブーメラン採用)」とも言い、一般的に行なわれている採用活動の一つだ。
日本でもアルムナイ採用に意欲を示す企業が増えており、退職した社員と継続的にコミュニケーションを取り続け、再入社を促す取り組みが行なわれている。
※参考:三井ホーム、社員とアルムナイ(退職者)との交流イベント「アルムナイイベント」を開催 | 三井ホーム株式会社のプレスリリース
■アルムナイ採用とカムバック採用・リファラル採用の違いは?
アルムナイ採用に似た言葉に「カムバック採用」「リファラル採用」がある。それぞれの違いを見てみよう。
アルムナイ採用とカムバック採用の違い
カムバック採用とアルムナイ採用は、どちらも退職した社員を再雇用する制度だ。ただし、カムバック採用は、結婚、出産、育児、介護などのライフイベントを理由に退職した社員を再雇用する文脈で使われることがある。
アルムナイ採用と同義とする企業(例:マツダ)がある一方で、アルムナイ採用よりも対象者が絞られている場合もあるため注意しよう。
※参考:カムバック採用|キャリア採用 事務職・技術職|採用情報|MAZDA 企業サイト
アルムナイ採用とリファラル採用の違い
リファラル採用は、社員などからの紹介・推薦によって新たに人材を採用する方法。採用対象は元社員に限らないのがアルムナイ採用とは異なる。
なお、リファラル採用では、紹介された候補者も通常の採用プロセスで選考され、スキルや経歴が基準を満たさなければ不採用となる場合がある(縁故採用・コネ採用との違い)。
アルムナイ採用のメリットとデメリット(社員・企業)
退職した会社がアルムナイ採用を実施していた場合、戻るか否かで悩む人は多いだろう。アルムナイ採用のメリットとデメリットを見てみよう。
■アルムナイ採用のメリット
アルムナイ採用には社員と企業のそれぞれにメリットがある。主なメリットは以下の通り。
アルムナイ採用のメリット1:即戦力として活躍できる(社員・企業)
アルムナイ(退職者)は、業務内容や企業文化などをすでに理解しているため、新卒や外部の中途採用と比較すると入社後から仕事に慣れるまでの期間が短い。働く側にとっては早期に成果を上げやすく、企業側にとっても教育コストが削減できるメリットがある。
アルムナイ採用のメリット2:採用のミスマッチを防げる(社員・企業)
入社後の定着率が比較的高い点もアルムナイ採用のメリットだ。社員にとっては既知の職場であり、再入社を希望するということは企業との相性も良いケースが多い。企業側にとっても退職前の当人の働きぶりがわかっていることから採用時のミスマッチが少ないと言える。
アルムナイ採用のメリット3:外部での経験を活かせる(社員・企業)
他社で得たスキルや知見、人脈を活かして働けるのもアルムナイ採用のメリットと言える。外部で築いた人脈も新規ビジネスの創出や協業につながる可能性がある。
アルムナイ採用のメリット4:企業ブランディングの向上(企業)
アルムナイ採用を積極的に行う企業は、「一度退職しても戻りたい会社」として認識され、企業イメージの向上につながる。現在働いている社員に安心感を与え、会社への信頼を高める効果も期待できるだろう。
■アルムナイ採用のデメリット・注意点
その一方で、アルムナイ採用にはデメリットや注意点もある。
アルムナイ採用のデメリット1:評価基準の整備(社員・企業)
アルムナイ(退職者)がどのように評価されるか、再雇用後のポジションや待遇、外部で獲得したスキル・実績などへの査定方法は、企業により異なる。アルムナイ採用をスタートしたばかりの企業の場合、評価基準が不整備なケースもあるだろう。
働く側としても退職時と同じポジションや待遇で再雇用されるとは限らない点に注意しておきたい。
アルムナイ採用のデメリット2:スキルギャップのリスク(社員・企業)
外部での経験が現在のニーズと合わない場合や業界トレンドの変化により知識が陳腐化している可能性もある。特に退職からの期間が長い場合は、以前の知識やスキルをそのまま生かせないケースもあるため、労使双方での確認が必要になるだろう。
アルムナイ採用のデメリット3:既存社員への影響(企業)
アルムナイ採用において、復職者が有利な条件で再雇用されると、在職中の社員との間に不公平感が生じやすい。また、既存社員に「退職しても戻れる」という安心感が広がり、離職へのハードルを下げてしまう可能性がある。
アルムナイ採用のデメリット4:対象が限定的(社員・企業)
アルムナイ採用の対象者は、退職者の中でも円満退社した優秀な人材に限られるため、対象範囲が限定される。働く側にとっては自分が候補となるか判断しにくい点がネックだろう。企業側にとっても大量採用には向かないため、別の採用方法と併用する必要がある。
アルムナイ採用を成功させるためのポイント
アルムナイ採用を成功させるには、以下のようなポイントが重要となる。
■円満退社であること
退職時に会社とトラブルや対立があった場合、アルムナイ採用は困難と考えておこう。反対に、退職時に良好な関係を保っていた会社であれば、アルムナイ採用を検討するのも一つの方法だ。
■退職前の業務評価が良好
アルムナイ採用では、必ずしも退職前と同等の評価や待遇を受けられるとは限らない。ただし、再雇用を判断する上では在籍中の実績や貢献度が参考とされるため、自身の退職時の評価を確認しよう。
■退職後も元同僚や上司と良好な関係を維持している
定期的な連絡や交流を通じて、お互いの近況や成長を把握できていると、再雇用の際もスムーズになる。相手の連絡先を知っている場合は、応募前に連絡を取ってみても良いだろう。
■外部で得た経験やスキルが現在の業務で活かせる
単に戻ってくるだけでなく、外部での学びを組織にどう還元できるかを示せるようにしておくと、アルムナイ採用の成功率が高まる。通常の転職時と同様、職務経歴としてまとめておくと良いだろう。
アルムナイ採用の企業事例や待遇は?

日本企業でもアルムナイ採用を積極的に推し進める企業が増えている。目立っているのは、製造業、IT企業、金融業界などでの事例だ。
■アルムナイ採用を導入している企業の事例(2社)
トヨタ自動車は2022年3月からアルムナイネットワークの活動を開始している。退職者とのつながりを維持し、社外での経験を活かして再び活躍してもらうことが狙いだ。
パナソニックグループでも、2024年4月から「パナソニックグループ・アルムナイコミュニティ」の本格運用を開始。アルムナイとのつながりを協業・共創を生み出すコミュニティとして位置づけ、復職支援も行っている。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/長尾尚子







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