裁判所のジャッジ
▼ セクハラにあたるか
これはソッコーで認定されてます。判決文から推測すると、どうやら支店長は以下の主張をしたようです。「私の言動は【単なるスキンシップ】【私流の交流スタイル】だ」と。
……俺流ですね。これは天才の落合博満だけに許される主張です。あなたは【凡才のセクハラおやじ】やで。ってことで裁判所は「いや無理無理」と粉砕してます。
▼どんな場合に懲戒解雇できるのか?
問題はココなんですよ。懲戒解雇できるのか?
裁判所では「懲戒解雇はやりすぎじゃないか?」が審理されます。以下のケースは無効になるんです。
労動契約法15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
▼ 今回のケース
結論。ザックリいうと「懲戒解雇はやりすぎだ」ってことで無効になっています。以下、理由を解説します。
大前提として裁判所はお怒りなんです。「(セクハラ行為についての)支店長Yの情状が芳しからざることは明らか」と認定しています。でも「色々な事情を考慮すればいきなり懲戒解雇はやりすぎだわ」と判断しました。具体的には以下のとおり。
■ 強制わいせつ的なケース【じゃない】
・日頃の支店長Yの言動は、宴席などで女性社員の手を握ったり肩を抱くという程度
・温泉旅行の宴会での行為も強制わいせつ的なものとは一線を画す
・中腰でビールを注がせたのも強制わいせつ的なものとまでは評価できない
■ 宴会
宴会でのセクハラは、気のゆるみがちな宴会で飲酒の上、調子に乗ってされた言動として捉えることができる面もある。
■ 人目につく場所
全体的に支店長のセクハラは、人目に付かないところで秘密裏に行うというより、多数の社員の目もあるところで開けっぴろげに行われる傾向があるもので、自ずとその限界があるものともいい得る。
■ 犯すぞ発言
最も強烈で悪質性が高い「犯すぞ発言」は、女性を傷つける、たちの良くない発言であることは明白であるが、Kさんが好みの男性のタイプを言わないことに対する苛立ちからされたもので、周囲には多くの社員もおり、真実、女性を乱暴する意思がある前提で発言されたものではない
■ 反省
支店長Yは被告に対して相応の貢献をしてきており、反省の情も示していること。
■ 初犯
これまで支店長に対してセクハラ行為についての指導や注意がされたことはない。
などの事情に照らせば「労働者にとって極刑である懲戒解雇を直ちに選択するというのは、やはり重きに失するものと言わざるを得ない」として、結果的に「懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上、相当なものとして是認することができず無効」と判断しました。
さいごに
発言レベルなどを超えて、キスをしたり胸を触ったりするなど強制わいせつ的なケースであれば懲戒解雇OKとなる傾向にあります(H社事件:東京地裁平成17年1月31日判決など多数)
Q.「ちょっと待ってよ!犯すぞ発言までして何のお咎めもナシなの?」
A.私もムカつきます。セクハラ上司には法的鉄拳制裁を食らわせましょう。懲戒解雇を食らわせることは難しいんですが損害賠償請求はできます。金額はケースバイケースですが多くても~30万円くらいかなという感覚です。先ほども述べたとおり録音は最強なので、発言を録音する工夫をしてみてください。
あとは、セクハラされたことをすぐ同僚にLINEするのも有効な手です。セクハラ直後のLINEが決め手となって裁判官がセクハラ認定してくれたケースがあります(東京地裁令和2年3月3日判決/手を握る・肩に手を回すセクハラ)
そしてその録音やLINEなどをひっさげて弁護士か労働局に駆け込みましょう。セクハラ上司から賠償を勝ちとることをお祈りしています。
今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
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