麻辣湯はなぜブームになったのか。そこには味や話題性だけでは説明できない消費者が潜在的に求めた”何か”があったのではないだろうか。その理由を探るべく消費者インサイトの分析やマーケティングプロモーションを行う専門家、電通の松本さんに話を聞いた。麻辣湯だけでなく、ラブブ、せいろブーム、めじるしチャーム…世の中で話題になったモノ・コトの意外な共通点とは?
今年のトレンドにあった「セルフカルチャー消費」とは?
いま、全国で麻辣湯専門店の出店が相次いでいる。麻辣湯専門店チェーンの最大手である『七宝麻辣湯』は2024年には19店舗だった店舗数も2025年12月には53店舗まで拡大。都内だけでなく全国に出店を進めている。
「麻辣湯は”ブーム”から”定着”に移りつつある」
そう指摘するのは電通・松本さんだ。

松本泰明さん
株式会社電通 第2マーケティング局/DENTSU DESIRE DESIGN マーケティングコンサルタント
マーケティング関連局に長く従事し、消費者インサイトや社会潮流の視点からクライアントの企業や商品の課題解決を推進。2021年にDENTSU DESIRE DESIGNを立ち上げ、消費者の気持ちの根源にある欲望起点でのインサイト研究を行う。ヒット商品・消費トレンドの分析にも長らく従事しており、様々なメディアでのコメントや日本マーケティング協会での講演にも登壇。
「麻辣湯の面白いところは、人の数だけ味付けやトッピングが存在するところです。皆、必ず自分好みの一杯を食べることができます。ダイエット中の人、たくさん食べたい人、お肉メインで食事をしたい人…それぞれが自由に選択肢を組み合わせることができ、自分で作り上げた一杯は、お腹だけでなく心まで満たしてくれます。だからこそ多くの人に受け入れられたのではないでしょうか」
多数の選択肢から自分なりの選択をしてひとつの個性を作り上げるーーこうした事例は麻辣湯だけでなく、様々なところで見られたという。
「今年の傾向として、消費行動においても個性を出したいと考える消費者が増えてきたように思います。例えば、今年、自分の持ち物につけられる『めじるしチャーム』と呼ばれる商品が多数発売され、傘やペンを自分好みにカスタマイズする動きがありました。『ラブブ』は単にコレクショントイとして収集されるだけでなく、高級なバッグにつけたギャップで自分らしさの演出に使われたりしています。さらに自分らしいラブブをつけたいという思いとブラインドボックスという販売形態が合わさったこともブームの要因かもしれません。また、せいろを使って好きな食材を自由に組み合わせて調理・食事を楽しむ『せいろブーム』もありました。麻辣湯同様、自分らしさを表現できる食でしたね。
消費者は与えられたものをただ消費するのではなく、一度自分の中で取捨選択し、”再編集”することで自分らしさを表現しようとしています。こうした動きをわれわれは『セルフカルチャー消費』と命名しました」
ブームの要因は”余白”
SNSにおいて誰しもがセルフプロデュースができるようになった昨今、次の動きとしては自分の個性の確立ということだろうか。
「SNS時代において、自分が買ったものや体験したことがそのまま自身のブランディングに直結していました。しかし、セルフカルチャー消費では既存の商品やサービスを自分なりに組み合わせて、自分だけの世界を作り上げていくということが重要です。だから自分を”創造”するのではなく”編集”をする。自分らしさの中に、話題のモノやコトを自由に取り入れて、どのように使うか、どのように見せるかという形で自分らしさを表現していくという点が新しいように思います」(松本さん)
一方で、それは消費者が「自分の個性がなければいけない」というプレッシャーにさらされているということの裏返しでもある。自分が”その他大勢”になってしまわないように自分らしさを模索するのだろう。こうした傾向は来年以降も消費行動の中心になると松本さんは予想する。
「消費者の”自分らしさ”を叶えてくれる商品はさらに増えていくでしょう。『この商品はこう使わなければならない』『こういう人に向けたモノです』と雁字搦めにした商品よりも、消費者に自分らしさを提案してくれるような『余白』のある商品です」
麻辣湯がここまで支持された理由は、「美味しいから」でも「話題だから」だけではない。トッピングを選ぶその時間は、「自分を編集する時間」でもあったのだ。
次にブームになるのは、何か。
その答えは、新しい商品や派手な仕掛けの中ではなく、消費者が“自分なりに編集できる余白”を持ったモノや体験の中にあるのかもしれない。
取材・文/峯亮佑







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