■連載/ヒット商品開発秘話
街中の至るところに設置されているガチャマシン(カプセルトイの自販機)。最近は子どもだけではなく大人も夢中になるほど、販売されるものが多種多様になりクオリティーも上がっている。
商品の入れ替わりが激しく、気がついたら終売になっていることもザラなカプセルトイの中にあってシリーズ化されるほどの人気を集めているのが、踏ん張って用を足していることを想起させる犬のフィギュア『ふんばり~ぬ』。
タカラトミーアーツが2024年11月に発売したもので、現在第2弾の『ふんばり~ぬ2』を販売中。第1弾の『ふんばり~ぬ』は累計27万個以上が販売された。
言葉や文化を飛び越えて伝わる面白さ
カプセルトイには人気キャラクターを活用したものと各社が独自に企画したオリジナルがあるが、『ふんばり~ぬ』は後者に該当する。なぜ、犬が踏ん張る姿をフィギュアにすることにしたのだろうか?
「毎日、自分の周囲を観察してカプセルトイにしたら面白そうなものやアイデアを探しているのですが、友人の家に行った時、飼っていたトイ・プードルがトイレで踏ん張っていたところを見かけました。その瞬間、『これだ!』とひらめいたんです」
こう話すのは『ふんばり~ぬ』を企画したガチャ・キャンディ事業部ガチャ企画部企画1課 スペシャリストの森田和奏氏。誰が見ても必ず何をしているのかがわかる姿、言葉や文化を飛び超え誰もが面白いと思ってもらえると感じたことから、カプセルトイとして企画することにした。
友人宅で飼われていた犬が踏ん張っているところを見たのは、発売の1年ほど前。森田氏はすぐ、犬が踏ん張る姿をしたフィギュアの商品化に向けて動き出す。シリーズ化を前提に、第2弾、第3弾の企画も並行して進めることにした。
シリーズ展開しやすいよう、第1弾の『ふんばり~ぬ』で人気犬種だけをつくることはしないようにした。第2弾、第3弾も同様の方針で犬種を選定している。
第1弾の『ふんばり~ぬ』では人気の高い柴犬のほか、黒柴犬、トイブードル、ポメラニアン、ジャックラッセルテリア、シークレットの計6種。犬好き社員の意見を聞きつつ、人気犬種ランキングの上位と下位のバランスを取ることにした。
犬という身近な動物をモチーフにするので、造形のリアリティーが何よりも問われる。この点は森田氏も徹底してこだわった。
「ふざけた感じにはしたくありませんでした。自分の中では踏ん張っている様子を面白おかしく表現するのではなく、生き物としての生々しさや生きている証を示すものとして捉えて、犬へのリスペクトを持って立体化することにこだわりました」
このように話す森田氏。犬の骨格を参考にし、踏ん張った時の足の位置などを確認したほど。犬の画像も大量に集め、踏ん張っている時の姿形だけではなく、その時の表情も造形に反映していった。
原型は原型師による手づくり
フィギュアづくりに欠かせないのが原型。『ふんばり~ぬ』では、現在主流の3Dデータを用いた制作ではなく原型師の手づくりによる造形を採用することにした。
原型を原型師に手づくりしてもらうことにしたのは、モチーフが生き物だということが最大の理由だ。左右対称のキャラクターフィギュアであれば、3D データを元に造形するのが最適だが、生き物の生々しさを表現するためにあえて左右非対称な部分を残し、より有機的な造形になるよう工夫することにした。
原型師から見て犬が踏ん張る姿は、前足と後ろ足の間隔が狭いことなどからつくりづらい。しかも、左右非対称のためバランスが取りづらいことから、自立せずに後ろに倒れてしまうこともあった。
「動物は脚に力が入っているから踏ん張っていられるのですが、フィギュアはそういうわけにはいかないので、バランスを取るのは大変でした」
こう振り返る森田氏。自立できるようにするため、コンマ数mm前傾させるなど調整を繰り返した。
カプセルトイの原型は基本的に、3~4回修正して完成するが、犬種によってつくりやすさは異なる。つくりにくい犬種は毛量が多いもの。踏ん張っている時の骨の位置が推測しづらく、原型が骨格のないぬいぐるみのような造形になってしまうためだ。
『ふんばり~ぬ』ではポメラニアンがつくりにくかった。踏ん張っている時の足の位置や踏ん張っている時のバランスの取り方がわかりにくく、毛の量や流れ方が不自然になることから原型師の細かい調整を必要とした。
リアリティーの追求は姿形だけではなく塗装にも及んだ。全体的にはツヤを消したマット感のある塗装にしたものの、瞳だけはうるうるさせるためにツヤあり塗装を施している。納得のいく塗装品質を実現するまでに、工場と3~4回近く試作のやり取りを行なった。







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