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考えすぎてつらいのはなぜ?思考と距離を取る「認知的脱フュージョン」とは

2025.12.28

「また失敗する」「私なんてダメ」——そんなネガティブな思考に心が支配されていませんか?それは思考と自分が一体化してしまう“認知的フュージョン”の状態かもしれません。本記事では、思考と距離を取り、心に余白を取り戻す心理テクニック「認知的脱フュージョン」の考え方と実践法を解説します。

「また失敗するに決まっている」「私なんてダメな人間だ」
一度嫌なことを考えると、そのことばかり頭の中をグルグル回ってしまう……そんな経験はありませんか?

それは、あなたの心が思考と「フュージョン(融合)」してしまっているサインかもしれません。

本記事では、そんながんじがらめの心から一歩離れ、自分の中に安心できるスペースを作るための心理テクニック「認知的脱フュージョン」について解説します。つい考えすぎてしまう方は、ぜひ心の荷物を下ろすヒントにしてみてください。

認知的脱フュージョンとは

認知的脱フュージョン(にんちてきだつふゅーじょん)とは、最新の心理療法である「ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)」で用いられる、心のテクニックの1つです。

ACTは、不安や苦痛を無理にコントロールしたり消し去ったりするのではなく、それらをあるがままに受け入れながら、自分の人生を豊かにするための行動をとることを目指す心理療法です。

このACTにおいて、認知的脱フュージョンは一言で表すと、「自分の頭に浮かぶ思考や感情と、適切な距離を取るための技術」のことを指します。

私たちは普段、無意識のうちに自分の思考を“絶対的な事実”だと思い込んでしまいがちです。しかし、このテクニックを使うことで、思考を、現実そのものではなく、“単なる言葉”や“頭の中を流れるデータ”として、一歩引いた場所から眺められるようになります。

重要なポイントは、ネガティブな思考を消そうとしたり、変えようとするものではないということ。思考の内容はそのままに、自分への影響力だけを弱める、それが認知的脱フュージョンなのです。

認知的フュージョンとは

認知的脱フュージョンを実践する前に、まず私たちが普段陥っている「認知的フュージョン」という状態について知っておく必要があります。

フュージョンとは、「融合」「結合」という意味です。つまり、頭の中に浮かんだ思考と、目の前の現実がぴったりとくっついて、一体化してしまっている状態を指します。

この状態の何が恐ろしいかというと、単なる考えを、“変えようのない事実”だと脳が錯覚してしまうことです。

例えば、「自分は嫌われている」という思考が浮かんだとします。フュージョンしている状態では、それがまだ事実かどうかわからないにもかかわらず、脳はそれを“絶対的な真実”として処理します。

その結果、実際に嫌なことを言われたときと同じようなストレス反応が起き、怖くて人に近づけなくなったりしてしまうのです。

本来やりたかったことができなくなったり、自分を追い詰めたりしてしまうのが、認知的フュージョンの最大のリスクなのです。

認知的脱フュージョンのメリット

思考と事実を切り離す「脱フュージョン」を習慣にすることで、日常のストレスが大幅に軽減されます。具体的には、次のような変化が期待できます。

1.ストレスや不安に強くなる

私たちは事実そのものではなく、頭の中で作り出した悪い物語によって苦しんでいることが多くあります。

脱フュージョンによって、「それはただの思考」と気づくことができれば、過度な落ち込みやイライラから解放され、しなやかな心を保てるようになります。

2.「自分らしい人生」を歩めるようになる

「〜すべき」「〜してはいけない」という思い込みから自由になれるのも大きなメリットです。

思考の枠にとらわれず、自分が本当に大切にしたい価値観に沿った行動がとれるようになるため、長期的には人生の充実感や幸福感アップにつながります。

3.感情のコントロールが上手になる

湧き上がる感情を無理に押し込めるのではなく、観察することができるようになります。

これにより、カッとなって言い過ぎたり、不安から逃げてチャンスを逃したりすることが減り、冷静な対応ができるようになります。

認知的脱フュージョンの方法

ネガティブな思考に支配されそうになったら、いつでもその場で試せる以下の4ステップがおすすめです。

これは、思考と現実をうまく切り離すためのトレーニングのようなもの。日々の生活の中で簡単に取り入れられる、シンプルな手順をご紹介します。

1.思考の「自動再生」に気づく

まずは、自分の頭の中で思考が勝手に喋り出していることに気づくところから始めます。

「自分はダメだ」と思った瞬間、その内容を鵜呑みにするのではなく、「また『自分はダメだ』という音声が再生され始めた」と認識します。事実として受け入れるのではなく、頭の中で流れているBGMのように扱う意識を持ちましょう。

2.役に立つアドバイスか見極める

その思考に従うことが、自分の人生にとってプラスになるかだけを判断します。正しいか間違っているかは関係ありません。

「この考えを聞き入れることで、私は前向きに行動できるだろうか?」と問いかけてみてください。もし「役に立たない」とわかれば、無理に解決しようとせず、次のステップへ進みます。

3.視覚的なイメージで距離をとる

役に立たない思考だとわかったら、距離をとりましょう。

例えば、そのネガティブな言葉がパソコンのモニターに文字として表示されていると想像してみてください。その文字のフォントを面白おかしいものに変えたり、ウインドウをそっと閉じたりするイメージを持つことで、思考を「単なる文字情報」として客観視しやすくなります。

4.体を動かして「今」に戻る

思考を遠くに置いたまま、意識を現実に切り替えます。もっとも簡単なのは五感を使うことです。

足の裏が地面についている感覚を確かめたり、部屋の温度や聞こえてくる音に耳をすませたりしてみましょう。頭の中から体の感覚へ意識を移動させることで、思考の支配から抜け出し、目の前のやるべきことに集中しやすくなります。

☆☆☆

最初は難しく感じるかもしれませんが、繰り返すうちに自然と「あ、いまフュージョンしていたな」と気づけるようになります。

心が思考でいっぱいになってしまったときは、ぜひ今回ご紹介した認知的脱フュージョンを思い出して、心に少しだけスペースを作ってみてください。

文・構成/藤野綾子

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精神保健福祉士、産業カウンセラー、EAPメンタルヘルスカウンセラー、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種の資格を持つ。大学に通い直し、心理の国家資格取得に向けて勉強中。教育施設、就労移行施設などでカウンセラー研修、実務も続けている。

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