小学館IDをお持ちの方はこちらから
ログイン
初めてご利用の方
小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼントにお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
新規登録
人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

なぜ今、アルファベット株は〝割安〟なのか?バークシャーの投資戦略を分析する

2025.12.13

本稿では、バークシャーのテック銘柄再配置を手がかりに、以下のポイントを実務的に読み解きます。

• なぜアルファベットが今、割安かつ戦略的なのか
• なぜアップルへの依存を減らしたのか
• テック相場の中心がどこへ移動しているのか
• 個人投資家がその変化をどう読み替えるべきか

アルファベット新規取得の狙い:AIインフラの覇者は“割安”

バークシャーは2025年第3四半期にアルファベット株約1,785万株(評価額約43億ドル)を新規取得しました。同社が大型ハイテク株を新規に買い増すのは極めて珍しく、アップル以外では久々の本格参入となります。この背景には、アルファベットがAI時代のインフラ企業として長期的に報われる高い確度を持つと判断したことが挙げられます。

まず、アルファベットはAI分野で三つの強み(「トリプル・メリット」)を備えています。一つ目は、自社開発の大規模言語モデル(LLM)「Gemini」です。2025年11月に公開された最新モデル「Gemini 3」はその性能に高い評価が相次いでおり、ハイテク業界内でも注目を浴びています。自前のLLMを本格運用できている企業は、主要ハイパースケーラーの中ではアルファベットとメタだけとされています。二つ目は、自社設計のAI半導体「TPU(Tensor Processing Unit)」です。アルファベットは自前の第7世代TPUを開発・運用しており、その優位性から競合他社も注目しています。実際、メタ・プラットフォームズ(Facebookの親会社)がアルファベットのTPUを大規模導入する協議を進めているとの報道もあり、AIハードウェア面でも存在感を示しています。三つ目は、圧倒的なデータ量です。世界シェア約93%を握る検索サービスや月間27億人が利用するYouTubeといったプラットフォームから得られるビッグデータは、AIの学習・サービス展開において他社には真似できない資産です。Geminiという頭脳、TPUという筋肉、そして莫大なデータという血流を自社内にすべて備えるアルファベットは、AI時代に必要な要素を垂直統合した稀有な企業だといえるでしょう。

さらに収益面でも、アルファベットはAIによる恩恵を受けつつあります。主力の広告事業は2024年頃に一時伸び悩みましたが、2025年に入り景気とデジタル広告市場が持ち直すとともに回復基調にあります。加えて、AIの導入によるターゲティング精度向上で広告収益の底上げが期待されています。一方、これまで赤字だったクラウド事業(Google Cloud)は2023年に初の黒字化を果たし、生成AI需要の追い風を受けて急成長のエンジンへと変貌しました。実際、2025年第三四半期にはアルファベット全体の売上が初めて1四半期で1000億ドルを超えるなど業績は過去最高水準に達し、なかでもクラウド部門の売上は前年同期比34%増の152億ドルに達しています。クラウドの受注残高も前年同期比で大幅増加しており、企業による生成AI活用の本格化がAlphabetの将来収益に厚みを与えつつあります。

にもかかわらず、アルファベットの株価バリューションは依然割安と見る向きがあります。例えば2025年11月時点でアルファベットの翌期予想PER(株価収益率)は約26.9倍と、アップルの約30.4倍より低く抑えられています。長期成長率の予想がアルファベットの方が高い(16% vs アップルの13%)にも関わらずこの水準であることから、AI競争激化への過度な懸念などで株価が割安に放置されていた可能性があります。実際、バークシャーのアルファベット買い付けは、市場が「チャットGPT旋風」でグーグルの将来に半信半疑だった局面で行われました。これは、2016年に「iPhoneの成長鈍化」懸念で割安だったアップル株をバフェット氏が大量購入し、その後株価8倍という大成功を収めた構図と類似しています。今回のアルファベットも「AI競争の敗者」ではなく、むしろAI時代の基盤を握る企業と見定めての投資であり、バークシャー流のバリュー投資として合理的な戦略と言えるでしょう。

アップル依存の縮小:成熟するハード事業と見えてきた限界

アルファベット株の新規取得と対照的に、バークシャーは長年“最重要資産”として君臨してきたアップル株を段階的に売却しています。その削減幅は顕著で、かつて約9億株保有していたアップル株は2025年第三四半期時点で約2億3,820万株まで減少しました。これは元の約4分の1の水準であり、この2年ほどで7割超を売却した計算になります。それでもなお保有額は約607億ドルに上り、依然としてバークシャー最大の単一銘柄ではありますが、ポートフォリオに占めるアップルの比重は以前ほど圧倒的ではなくなっています。

バークシャーがアップルへの依存を減らした理由として考えられるのは、アップルという企業の成熟とバリュエーション上の重みです。アップルはここ数年、ハードウェア売上の成長鈍化をサービス収入の拡大で補う戦略を取ってきました。実際、2021年から2025年にかけてアップルの製品売上高はわずか3.2%の増加に留まった一方、サービス部門の収入は約59.5%も急増し、2024年度には約1,092億ドルに達しました。

App StoreやiCloud、Apple Musicといった高利益率のサービスが牽引し、アップルは「ハード頼み」のビジネスから継続課金型のサービス収益へとエンジンを移しつつあります。しかし、それでもなお2024年度時点で売上のおよそ3/4はハードウェア(iPhone, iPad, Macなど)関連が占めており、同社の業績は依然として世界のデバイス需要動向に大きく左右される構造です。スマートフォン市場はすでに成熟期に入り、先進国では買い替えサイクル長期化や新興国メーカーの台頭もあって、iPhone販売台数の大幅な伸びは期待しにくい段階です。このハードウェア依存モデルの限界が徐々に意識され始めていると言えます。

加えて、アップルの株価評価額(バリュエーション)の高さも無視できません。2023年~2025年にかけて生成AIブームを背景にハイテク株全般が大きく買われ、アップルの時価総額は一時4兆ドル(約600兆円)を超える史上空前の水準に達しました。

安定した収益基盤への信認が高いとはいえ、成長率10%前後の企業に対してこの規模の評価はかなり盛り込まれている印象もあります。実際、アップルの予想PERは40倍近辺とされ、アルファベットや他のプラットフォーマーに比べても割高圏にあります。バークシャーは長年アップル株を「決して売らない」とまで言われるほど厚遇してきましたが、ここにきて一部利益確定に動いた点は見逃せません。

AI投資で過熱したハイテク株のバリュエーション調整、ポートフォリオのテック偏重是正といった意図が考えられますが、少なくともバークシャーはアップル一社への過度な集中を緩め始めたのは確かです。アップル株の構成比は依然高いものの、「一家依存」からの脱却を図りつつあると言えます。

もっとも誤解してはならないのは、アップル自体の事業基盤は依然強固であり、バークシャーがアップルへの信頼を失ったわけではない点です。アップルのエコシステムはiPhoneを軸に盤石で、サービス部門の高利益率(2024年度サービス毛利率は約74%)のおかげで巨額のキャッシュ創出力を誇ります。現にバークシャーのポートフォリオにおいてアップルは今なお約4分の1を占め、「最重要資産」の地位を維持しています。今回の売却はあくまでポートフォリオ戦略上の調整であり、アップルという企業そのものの価値が損なわれたわけではありません。ただ、株価が企業価値に対して過度に先行した局面では部分的にリスクを落とし、将来有望な他の銘柄に資金を振り向けるというのは、長期投資家にとって理にかなった判断といえるでしょう。

テック市場の主役交代:AI相場“第二幕”へ中心が移動

バークシャーの今回の動きは、テクノロジー株式市場における主役交代の流れを象徴しています。2010年代を通じては、アップルに代表されるスマートフォン・ハードウェアの革新がテック相場の中心を占め、アップルは世界最大の企業として市場を牽引してきました。ところが2023年以降、生成AI(ジェネレーティブAI)の台頭によって、市場の関心はデバイスからAIプラットフォームへと急速にシフトし始めています。実際、2023年から2024年前半にかけての米国株式市場では、NVIDIAを筆頭とするごく一握りのAI関連銘柄が主要株価指数を牽引する展開となりました。特に2023年は“NVIDIA相場”とも言われ、AIブームの胎動期には半導体などインフラ供給側が独走する状況が目立ちました。

しかしAI相場が過熱する中で2024年後半からは次第に選別が進み、単なるテーマ人気から実収益を伴う企業が評価される段階へと移行しつつありま。いわば「AI相場の第二幕」が始まり、AIで稼ぐ力を持つ企業が真の勝ち組として浮上する局面に入ったので。この第二幕の主役として市場が再注目しているのが、アルファベットやマイクロソフト、メタといった巨大プラットフォーマーの復権です。彼らは膨大なユーザーベースと資金力を背景に、AI技術を自社サービスへ急速に実装しています。アルファベットが検索やクラウドにGeminiを組み込み、マイクロソフトがOpenAIと提携して生成AIをオフィス製品に統合するといった動きによって、AIは実ビジネスに深く根付こうとしています。こうしたプラットフォーム企業のAI戦略が実を結び始めた結果、市場の評価も「実力本位」へシフトし、AI時代に収益を伸ばせる企業へ資金が集まっているのです。

一方で、アップルのように従来型のハードウェアモデルに強みを持つ企業は、AIブームの恩恵が間接的・限定的に留まる可能性があります。アップルももちろんAI技術の導入には力を入れており、近年はiPhoneに搭載する独自半導体のNeural Engineを強化したり、オンデバイスでの機械学習機能を打ち出したりしています。また、Vision Proなどの新カテゴリ製品に生成AI機能を取り入れるなど模索も続けています。しかし、現時点でアップルの主要収益源はあくまで製品販売と既存サービスであり、AIそのものをサービスとして外部提供して収益化するビジネスモデル(例えばクラウドAIプラットフォームの提供など)は持っていません。むしろ先述のように、アップルは自社AIを強化するためグーグルのGeminiを活用する可能性すら報じられています。皮肉にも、AIインフラを握るアルファベットの存在感が高まるほど、アップルはその技術を利用する側として位置づけられる面もあるのです。

こうした流れの中、バークシャーがアップル株を一部売却しアルファベット株を買い増したことは、テック相場の重心シフトを如実に物語ります。スマートフォン時代の王者からAI時代の基盤企業へ――市場の関心は確実に移ろいでおり、実際アルファベットの時価総額は2025年秋にマイクロソフトを抜いて世界第3位に浮上しました(第1位アップル、第2位エヌビディア)。かつて「ハイテク嫌い」とも言われたバフェット氏率いるバークシャーが、2016年に見極めたアップルに続いて2025年にアルファベットへと踏み出したことは、テクノロジーの主役交代を象徴するエピソードと言えるでしょう。

個人投資家への示唆:変化の潮流をポートフォリオに活かすには

今回のケースから得られる教訓は、市場の潮流変化を見極めポートフォリオを適応させることの重要性です。世界有数の長期投資家であるバークシャーでさえ、時代の変化に合わせてポートフォリオを静かに組み替え始めています。個人投資家もまた、過去の成功体験にとらわれず次の潮流に目を向ける姿勢が求められるでしょう。

まず、特定の銘柄への過度な集中はリスクになり得るという点です。バークシャーはアップル株で巨額の利益を上げましたが、そのポートフォリオ偏重を永遠のものとは考えず、一部利食いと新規銘柄への乗り換えを実行しました。個人投資家も、たとえお気に入りの優良株であってもポートフォリオ全体で見た適切な比率を意識することが大切です。特にテクノロジーのように産業の潮流が速い分野では、かつての王者が次の時代も王者であり続ける保証はないことを肝に銘じるべきです。スマホ隆盛期にはアップルが最強でしたが、AI主導の次の章では別の企業が主役になる可能性は十分あります。このため、「長期だから放置」ではなく、長期であっても環境変化に応じたリバランスを検討する柔軟性が求められます。

次に、本質的価値に対する目利きです。バークシャーがアルファベットに投資した背景には、短期的な人気よりも長期的な競争優位性を重視する姿勢がうかがえます。個人投資家もAIブームなど目先のテーマに飛び乗るだけでなく、その企業が持つ持続的な強み(ネットワーク効果、技術資産、収益モデルなど)をしっかり見極めることが重要でしょう。アルファベットの場合、検索・広告で築いた経済圏にAIインフラを融合することで長期成長が期待できると判断したからこそ、「割安」と捉えられました。一方で、仮にAIという流行だけで割高になっている企業があれば距離を置くべきです。テーマ株熱狂と距離を置き、実利を生む企業を選別する視点が、まさに「AI相場第二幕」を勝ち抜く鍵となります。

最後に、分散と集中のバランスを再確認しましょう。バークシャーはアップルという1銘柄にポートフォリオの4分の1以上を託す一方で、必要に応じて調整も辞さないというメリハリの効いた戦略を取っています。個人の資産運用でも、確信の高いテーマや銘柄にはある程度集中投資しつつ、定期的に相場全体の状況を点検しリスクを調整する姿勢が重要です。特にテックセクターは魅力的な成長機会を提供しますが、同時にボラティリティも大きいので、「勝ち続けるものは変わり続ける」という点を常に念頭に置いておく必要があります。

バークシャーの“テック再配置”は、AI革命によって変わりつつある投資地図を端的に示した出来事でした。アップルからアルファベットへ――この動きは決してアップルの終焉を意味するものではなく、テクノロジー投資の新たなステージへの移行を示唆しています。広い視野で変化を捉え、自らのポートフォリオに適切に反映させることこそ、今求められている投資の姿勢ではないでしょうか。長期的視点を持ちつつも環境の変化に対応できる柔軟さを備え、来るべきAI時代の果実をしっかりと掴み取りたいものです。

参考資料: jp.reuters.comnote.combanyo-sec.co.jps206.q4cdn.combanyo-sec.co.jpbanyo-sec.co.jpjp.reuters.comvoronoiapp.comeconomyinsights.comnote.combanyo-sec.co.jpdiamond.jpmarkets.financialcontent.combanyo-sec.co.jp

著者名/ 鈴木林太郎 経済ライター
テックと経済の“交差点”を主戦場に、フィンテック、Web3、決済、越境EC、地域通貨などの実務に効くテーマをやさしく解説。企業・自治体の取材とデータ検証を重ね、現場の課題を言語化する記事づくりが得意。難解な制度や技術を、比喩と事例で“今日使える知識”に翻訳します。

60兆円は何を意味するのか?バークシャーが〝史上最大の現金〟を積む本当の理由

株高が続き、「アメリカ経済はまだまだ強い」といった楽観ムードも聞こえてくるなかで、ひときわ異彩を放っているのがバークシャー・ハサウェイです。 ウォーレン・バフェ…

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2025年11月14日(金) 発売

昭和レトロvs平成レトロ、あなたはどっち派?DIME最新号は、「ヒット商品クロニクル」大特集!あの頃、我々の心を掴んだ人、モノ、コト、懐かしのCM。計300点のロングセラーで学ぶ〝温故知新〟!

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。