近年、アメリカのSNSや動画サイトでバズっているPrison Burritos (プリズンブリトー)、別名Spread(スプレッド)という食べものをご存知でしょうか。
アメリカ南西部やメキシコでよく食される小麦粉やトウモロコシの粉で作ったトルティーヤに肉や豆、ハラペーニョ、野菜などを包み、チーズや激辛ソースをかけて食べるブリトーと姿形はよく似ているものの、材料から作り方まですべて異なるプリズンブリトーは刑務所に収監されている受刑者たちが所内で入手できる食材を手当たり次第に混ぜあわせて生まれた究極のレシピです。

市販されているブリトー
アメリカ政府の財政難から生まれたムショ飯
プリズンブリトーのルーツは1980年代、アメリカ政府が財政難に陥(おちい)り、数多くの州立刑務所の運営が民間に託されたことによって受刑者たちのムショ飯が経費節減の矢面に立たされたことに単を発します。
それまで受刑者ひとりに費やされていたコストが20%近くも削られ、ムショ飯の質と量が激悪化し、ひと月で体重が15kg以上減る受刑者や体調不良を訴える受刑者が続出しました。
限りなくマズいムショ飯で出されるパンはパサパサでカチカチ、肉は腐敗臭がするスライム状のソーセージやスティック状の乾燥肉、サラダは赤茶けたレタスの芯と紙のように薄いトマトやきゅうり、チーズは植物油脂で作られた品、フルーツは冷凍、ジュースは粉末、牛乳は賞味期限が切れたものや粉ミルクとひどいものばかり。
そしてCommissary(コミサリー/刑務所内の売店)で購入できるものは低栄養・高カロリーのジャンクフードがほとんど。
そんな環境で暮らす受刑者たちの多くが刑務所内で手に入る材料を駆使し空腹を満たすおいしい料理を作ろうと創意工夫していたなか、とある州立刑務所に収監されていた受刑者が考え出したプリズンブリトーが「手軽に作れておいしいスナック・プリズンブリトー」と新聞に取り上げられたことで全米中に伝播(でんぱ)し、ムショ飯ブームに火がついたといわれています。
プリズンブリトーの作り方
では、プリズンブリトーはどのように作るのでしょう。筆者の人生でムショ飯を食べる機会はこれまでも、そしてこれから先も訪れそうにないのでSNSを参考にプリズンブリトー作りに挑戦してみようと思います。
まず材料を揃えましょう。

プリズンブリトーの材料は激辛系のスナックが多い
・DORITOS Spicy Nacho(ドリトス スパイシーナッチョ)
・CHEEZ-IT Hot & Spicy(チーズィット ホット&スパイシー)
・CHESTERS(チェスターズ)
・インスタントラーメン(袋麺またはカップ麺)
・ビーフスティック
・ツナ缶
・レリッシュ(刻んだピクルス)
・ハラペーニョ
・ぬるま湯あるいは熱湯
・調味料(ラーメンに添付されているスープ、ケチャップ、マヨネーズ、チリソースなど)
を用意します。
ただ絶対これを使わなくてはいけないという厳格なルールがないのがプリズンブリトーです。なのでドリトスやチーズィットの代わりにポテトチップスやチーズクラッカーを、ビーフスティックの代わりにターキー(七面鳥)スティックを入れたレシピや、カマンベールチーズやサワークリームといった刑務所内では入手できそうにない材料を使ったものまで多種多様なレシピが出回っています。
なお、プリズンブリトーを作るにあたって包丁やまな板、ハサミなどの調理器具はもちろん、火もいっさい使いません。
- ドリトス、チーズィット、チェスターズ、インスタントラーメンをそれぞれ粉々に砕き、ひとつの袋に混ぜ合わせる
- 次に小さくちぎったビーフスティック、ハラペーニョ、レリッシュ、ツナ缶と調味料を1. に加える
- 具材の2/3量のぬるま湯を2. の袋に注ぎ、ひとかたまりになるまで良く練りあわせる
- 袋の形を整えながら空気を抜き、毛布などに包んで保温し、平らな台の上に15~30分放置する
- 袋を切り開いて中身を取り出し、好みの調味料で仕上げて食す
と至ってシンプルです。


できあがったプリズンブリトーの見た目は市販のブリトーと酷似している
プリズンブリトーの味は?
刑務所によっては共用で使える電子レンジが設置されているところもあるようですが、熱源や調理器具がない刑務所の方が多いようです。そのため、そのまま食べてもおいしく手頃な値段で買えるスナック菓子やインスタントラーメンが材料に使われるのです。
毛布に包んで保温しておいたスナック菓子の袋を切り開き、自分のロッカーに隠しておいたパケット(小袋)入りのケチャップなどの調味料で味つけしたプリズンブリトーを、看守や他の受刑者に見つからないように隠れてこっそりと食べる際の高揚感や背徳感はたまらないものがあるでしょう。

今回作ったプリズンブリトー
残念ながら筆者にその気持ちは分かりませんが、今回作ったプリズンブリトーは、超ジャンキーではあるもののかなりおいしく、リピ確定のイケる味でした。
刑務所ではタバコより通貨価値が高いカップラーメン
ミシガン州内にある刑務所や矯正施設の運営を管理監督する政府矯正局MDOCによると、コミサリーでは費用対効果の高い袋入りのインスタントラーメンやドリトス、チートスなどのスナック菓子の売り上げがコーヒーや石鹸、カミソリなどをはるかに上回っているといいます。
また2016年ごろまでBarter Money(バーターマネー/コミサリーで取扱いのない品物を受刑者同士が物々交換する際の通貨)の最上位だったタバコが今はカップラーメンに変わり、もっとも兌換性(だかんせい)の高い品物になっていると聞きます。
新しいバズグルメ誕生の可能性も
2018年、アメリカの最高裁はムショ飯の質と栄養バランスの改善を求める受刑者たちの請願書を一度は受理したものの却下。そのためムショ飯は1980年代から現在に至るまで低カロリーなうえ、週末は2食しか支給されない状態のままだそうです。
なので近い将来、スナック菓子やインスタントラーメンを駆使してムショ飯作りに励む受刑者たちによって創出された新しいバズグルメが誕生するのではないでしょうか。
アメリカのSNSや動画サイトではPrison/Inmates Gourmets(刑務所/受刑者グルメ)の人気が凄まじく、大手通販サイトの書籍コーナーをみても、ムショ飯のレシピ本は高い評価を得て爆発的に売り上げをのばしています。
数あるレシピ本のなかから筆者がおすすめするのは「From The Big House To Your House(塀の中から家の中へ)」です。


レシピ本の表紙と目次。Big Houseは刑務所などの矯正施設を指すスラング
この本は殺人などの罪でテキサス州ゲイツビルの女子刑務所に収監されている50年以上の刑期を持つ受刑者6人がまとめたもので、Chili Cheese Burritos(チリチーズブリトー)をはじめPo’ man’s Burritos(ポーマン/貧乏人のブリトー)など200種類のレシピが掲載されています。
そのなかの一品、Bean and Pork Burritos(ビーン アンド ポークブリトー)のレシピには、ハラペーニョ味のポテトチップスを袋の上から細かく砕き、その袋のなかにぬるま湯、リフライドビーンズ(潰した豆のサルサ)、チリ、サルサ、揚げた豚皮(Chicharron/チチャロンなどのスナック菓子)、乾燥肉、麦飯などを加え、豚皮がふやけて柔らかくなるまで1時間ほど放置した後、ひとかたまりになるまで良くこねたものをトルティーヤの皮にのせて食べる方法が書かれています。

レシピの下のDID YOU KNOW?には、コミサリーでは私語厳禁、所内通路は右一列で歩かないと処分を受けるリスクがあるなど、一般には知られていない塀のなかの情報が数多く書かれている
制限ある環境の下で入手できる食材を使い、食事からデザートまで作る彼女たちのユニークな工夫が凝らされたムショ飯の数々は一般家庭でも役立つアイデアにあふれています。各レシピの下に書かれている世間であまり知られていない刑務所内のルールを読みながらムショ飯を作りをしてはいかがでしょうか。
取材・文/陣内 真佐子(米国領グアム在住ライター)
文筆家/翻訳家。1996年3月より家族と共にグアムに移住。グアム大学で3年半の学び直し生活を送った後、00年に米国永住権を取得しグアム政府観光局などに勤務。10年にはグアム政府公認ガイド資格を取得。現在はラジオ出演のほか各種雑誌やウェブ記事の執筆や翻訳活動をしている。海外書き人クラブ会員。https://www.kaigaikakibito.com/
ドンキの「偏愛めし」に〝だし巻き玉子が堪能できるそば〟と〝カラメル好き垂涎のサンドウィッチ〟が登場
ドン・キホーテは、「偏愛めし」の新作として、「デカすぎるだし巻き玉子たまにそば」と「焦がしカラメル信者のプリン風サンド」を全国のドン・キホーテ系列店舗で順次発売…







DIME MAGAZINE












