家電を手がけるバルミューダが今期1000万円の黒字予想から一転、15億円の赤字見通しとなりました。
得意としていたキッチン関連の家電が売れず、重点投資エリアとしていた北米はトランプ関税で価格設定と販路の構築が困難になりました。厳しい戦いを強いられています。
キッチン家電は年間売上の想定を70億円以上下回る
バルミューダは今期の売上高が予想よりも27億円少なく、2000万円を見込んでいた営業利益は9億3000万円もの営業損失に。そこに在庫の評価損など特別損失5億6000万円がダメ押しとなりました。
キッチン関連の家電は今期98億円あまりの売上を見込んでいたものの、77億円を下回る見通し。扇風機などの家電も計画より1億円あまり少ない16億円程度の売上で着地となりそうです。
日本では、在庫が積み上がったために9月から出荷を大幅に抑制しました。生活家電カテゴリーにおいて、生産終了見込みとなった製品や部材の評価減を実施。これが5億6000万円の特別損失の主要因になっています。
海外も苦戦中です。2024年ごろからアメリカでの販売を強化し、鉄瓶のような和風デザインを取り入れた電気ケトルを、市場開拓の主力商品として開発しています。
計画では2027年のアメリカの売上比率を全体の1/4に、2030年には半分程度に引き上げるとしていました。
今期のアメリカにおける通期売上見込みはおよそ13億円で、売上全体の1割程度。バルミューダは生産の大部分を中国の工場に委託していました。トランプ関税の影響を真正面から受けたのです。
そのため、東南アジアの一部地域に生産拠点を移転するなど、対応を迫られました。価格設定や販売戦略等の設計が困難になり、売上が想定を下回る結果となりました。
スマートフォンの失敗が今の不振を招いたというのは本当か?

一部ではバルミューダの不振の原因が「バルミューダフォン」の失敗にあるかのように取り沙汰されますが、遠因になっているとはいえ今もその影響が残っているわけではありません。
事業から撤退した2023年12月期に事業終了に伴う特別損失20億円を計上。それ以降、財務への影響はほとんどないのです。
ただし、携帯電話以外の分野に投資をしていれば、成長フェーズに移れたかもしれないという可能性は確かにあります。それが遠因たるゆえんです。
スマートフォンの失敗はブランド価値を毀損したとの声も聞こえてきますが、故障が多発するようなトラブルに見舞われたわけではなく、家電全体に波及するほどの悪評が響き渡ったわけではありません。
今のバルミューダを苦しめているのは、競争環境の変化です。
SNSとコロナを味方に
イデアインターナショナルがインテリア雑貨ブランド「ブルーノ」を立ち上げ、キッチン家電を取り扱うようになったのが2012年でした。
無印良品がプロダクトデザイナーの深澤直人氏を監修に招き、デザイン性の高い家電を世に送り出したのが2014年。バルミューダがキッチン家電の第1弾としてトースターを販売したのが2015年です。
機能を高め続けるべく激しい競争を続けてきた白物家電が幅を利かせていた時代、まったくの別角度である「オシャレ家電」が業界に風穴をあける時代が到来したのです。
そして“映え”が意識される土壌も形成されていました。日本でInstagramがスタートしたのは2014年。2015年に月間アクティブユーザー数が810万を突破しています。
機能性よりも使う人のライフスタイルに寄り添った家電、つまりは部屋のトータルコーディネートを崩さないプロダクトが求められるようになっていたのです。
そして、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大が本格化すると、外食機会が減って自炊をする人が増加しました。当時、一人暮らしの若者などはキッチン家電を持たないことも珍しくありませんでした。しかし、強制的に買う必要性に迫られたのです。
こうした背景もあって、オシャレなバルミューダの家電が売れました。コロナ真っ只中の2021年12月期に売上183億円の絶頂期を迎えます。
バルミューダは正に時代の申し子のような存在でした。
しかし、翌年から売上は右肩下がりで、2025年12月期は98億円を予想しています。
コロナ需要が一巡したうえ、競合他社が次々とデザイン性の高い商品を開発。相対的にバルミューダの魅力が下がりました。しかも、中国製の安価でオシャレな家電が氾濫したため、勝ち筋を失ってしまったのです。
輝きを取り戻すことはできるのか?

バルミューダは2025年9月末時点の自己資本比率が70%という財務状態は健全な会社。再起できるチャンスは十分にあります。
再生の道をどこに見出すのかが重要です。
バルミューダはインテリアショップで商品を販売しています。もともとライフスタイルの提案が得意な会社であり、勝負の土俵をインテリアにすると強みを発揮できそう。家具メーカーやインテリアショップの運営会社などを買収し、提案力を高めることで増収への足掛かりを作るのです。大塚家具を買収したヤマダ電機は、「くらしまるごと戦略」を掲げています。これと近いイメージです。
オシャレ家電が飽和状態になった今、行きつく先は機能性の追求と価格競争。やがて疲弊するのは目に見えています。戦うフィールドを変えるのは有効な戦略の一つです。
ターゲットを変更するのも効果的でしょう。
バルミューダは55万円の超高級ランタンを開発しました。これは明らかに富裕層にアプローチする施策。ターゲットを大きく変更したのです。
しかし、ブランドや付加価値、投資対効果を重視する富裕層を相手に、奇抜な商品を開発し続けるのは難しいでしょう。
家電は今、新たなニーズが生まれています。シルバー層向けのコンパクト家電です。
軽く、持ち運びがしやすく、場所をとらないミニ扇風機やハンディ掃除機、小型ヒーターなどが人気で、クロスマーケティングによるとコンパクト家電の60代の所有率は6割に達しています(「コンパクト家電に関する調査(2024年)」)。
65歳以上の一人暮らしは男女ともに増加傾向にあります。シルバー層は機能性よりも使いやすさ、目盛などの視認性を重視します。
バルミューダは、こうした新たな顧客層の開拓が必要になってくるのではないでしょうか。
文/不破聡
家電の企画販売を手掛けるバルミューダが、2024年12月期におよそ7000万円の純利益を出しました。20億円という巨額損失を出した2023年12月期から一転して…







DIME MAGAZINE













