「広告会社は黒子であるべき」――そう語られてきた時代から、いま、電通は大きな転換点を迎えている。広告会社の在り方は時代と共に変化し、広告領域だけでなくコンサルティング領域へと進出する企業が増えてきた。電通も例外ではない。かつては、企業を裏側から支える存在だった電通も、近年では企業に寄り添い共に歩む「Integrated Growth Partner(インテグレーテッド・グロース・パートナー)」としてその活動領域を拡大している。こうした変化を世の中にどのように伝えていくのか。超巨大企業・電通のイメージ戦略を担う「広報部門」に話を聞いた。

韮山 由理さん
株式会社電通コーポレートワン
大手食品メーカーを経て電通に入社し、営業職として主に経済産業省を中心とした官公庁案件に従事。電通デジタルではコーポレート部門に所属し、業務効率化や社内ナレッジシェアなどのプロジェクト推進を担当。現在は電通コーポレートワンに出向し、dentsu Japanおよび電通の広報業務を担う
年間150本のリリースを支える電通広報
グループ会社は国内に約140社、海外に約580社。グループ従業員は約6万8000人。2024年度の売上総額は1.2兆円。電通グループの大きさには改めて驚かされる。これほどまでに大きな企業のイメージを背負い、対外的な“顔”としての役割を担う広報は、さぞ難しいのではないだろうか。電通グループの国内の広報担当を務める韮山由理さんに話を聞いた。
ーーまずは電通の広報業務について教えてください
韮山:私が所属する広報部には大きく二つの役割があります。一つがメディアをはじめとするステークホルダーからの問い合わせや取材依頼に対応する『外部コミュニケーション』。もう一つが、社内の取り組みをニュースリリースなどを通じて対外的に発信をする『情報発信』です。国内のグループ企業約140社の一つである株式会社電通では年間500件を超えるメディア対応や150本を超えるリリース発信を行なっています。
ーーリリースを年間150本となると2〜3日に1本ペースですね。企業規模が大きくても週1本、月1本しかリリースを出さない企業も珍しくないので、電通はかなりの本数を出していることになります。正直、意外ですね。電通は対外的な情報発信が多い企業というイメージがあまりないのですが
韮山:広報では社長の佐野をはじめ経営陣の積極的な対外露出に始まり、電通の取り組みやニュースを積極的に発信しています。こうした取り組みは社内の意識そのものを大きく変えつつあると感じており、営業やクリエイターなどからも広報に『このプロジェクトの対外発信を強めたい』といった相談が年々、増えてきています。

ーー以前、佐野社長も「上場企業の責任としてこれまで“黒子”だった電通をもっと知ってもらう必要がある」と取材で語っていましたね
韮山:はい。電通グループは2001年に上場して来年で25年目を迎えます。電通がどのような企業なのかを知ってもらう機会を増やすことは広報の使命だと考えています。
見えづらい広告会社を「可視化する」
ーー先日行われた「オフィスカミングデー」もその一つですか?
韮山:そうなんです。電通グループ社員の家族やパートナー、友人など「大切な人たち」を実際に私たちが働いているオフィスに招いて、直接、見て/知ってもらう機会を「オフィスカミングデー」として1年に1度開催しています。従業員へ感謝を伝えるために開催しているイベントですが、私たち広報としては従業員の家族や友人といった身近な方々にも電通を知ってもらえる貴重な機会だと考えています。また、こうした取り組みを社内外に発信していくことも重要だと思っています。今後はこうしたイベントを通じた広報活動を一層拡大していきたいです。



ーー近年では広告会社がコンサルティング領域に進出する事例も増えています。電通も例外ではなく、佐野社長就任後、BX(ビジネス・トランスフォーメーション)領域、すなわちコンサルティング領域にも積極的に取り組んでいますよね。電通がクライアントの”広告担当”だけの存在ではなくなってきたことも広報活動への注力と無関係とは思えないのですがいかがでしょうか
韮山:おっしゃる通り、電通はいま、企業の持続的な成長に寄り添い共に歩む「Integrated Growth Partner(インテグレーテッド・グロース・パートナー)」になることを目指しています。広告は引き続き主力事業の一つですが、トランスフォーメーション領域、マーケティング領域、スポーツ&エンターテインメント領域など多岐にわたる事業を展開しながら、クライアントや社会が抱える課題の解決に対して最適なアプローチで貢献しています。必然的に、電通が主体となって、あるいはクライアントと共同で実現した事例が増えてきていることも、広報活動の拡充につながっています。クライアントや社会が抱える課題が高度化・複雑化していますので、広告会社に求められる役割も大きく変わってきていると思いますね。だからこそ、なおさら「電通の役割」をしっかり伝えていきたいんです。
ーー電通に限らず、広告会社(広告代理店)の仕事は見えづらいですからね
韮山:特に広告領域以外の仕事が分かり難いと思うので、しっかり伝えていけるようにしたいと思っています。
ーー改めて、電通という巨大企業の広報ならではの難しさを教えてください
韮山:広報のあるべき姿としては、ひとつひとつ、テーラーメイドで情報発信をしていきたいという思いがあります。国内で電通が抱える7000社を超えるクライアントの案件はどれをとっても、一つとして同じものはありません。それぞれの魅力や面白さをしっかり伝え、最大化していくために、私たち広報も日々、勉強しなければなりません。これらすべてが広報の醍醐味、面白さであり、難しさでもありますね。
ーー最後に、韮山さんの広報としての目標を教えてください
韮山:国内電通グループの従業員は約2万3000人。本当に魅力的な“人財”がたくさんいます。もう、できることなら全社員を一人ひとり紹介して、世の中に知ってもらいたいくらい。それくらい、それぞれが違った強みや面白さを持っています。私は以前、営業としてさまざまなステークホルダーと相対してクライアント対応の経験があるので、相手の話を聞いたり、想いをくみ取ったり、言葉にするコミュニケーションにはずっと向き合ってきました。いまはその経験を生かして、社員一人ひとりの魅力をどう引き出して、どう伝えれば世の中に届くのかを試行錯誤しながら広報の仕事をしています。電通の魅力は、 “人”にあると思っています。その一人ひとりの良さをきちんと外に届けていくこと。それが、いまの私の広報としての大きな目標です。
取材・文/峯亮佑 撮影/干川修







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