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難航した〝タレ戦略〟で大逆転!「キユーピーのたまご タレで食べるたまご」が300万個も売れた理由

2025.12.07

■連載/ヒット商品開発秘話

ゆで卵の食べ方といえば、簡単に済ますのであれば塩を振る、手間をかけるのであれば煮卵をつくるのが一般的だろう。塩を振って食べるのはやや物足りないし、煮卵はつくるのに時間がかかる。両者の中間に位置し、簡単だが満足感のあるゆで卵の食べ方が、これまでなかなか見当たらなかった。

簡単で満足感がある、ゆで卵の新しい食べ方として好評を博しているのが、キユーピーが2024年3月に発売した『キユーピーのたまご タレで食べるたまご』シリーズである。

具材感のあるタレの中にゆで卵がまるごと2個入っており、そのまま食べるだけではなく、料理の具材に使うことができる。現在3種ラインアップされており、これまでにシリーズ累計300万個以上を販売している。

現在〈ネギダレで食べるうま辛たまご〉〈ネギダレで食べるねぎ塩たまご〉〈麻辣ダレで食べる担々風たまご〉の3種がラインアップされている『キユーピーのたまご タレで食べるたまご』シリーズ。そのまま食べる、ご飯や麺類に乗せて食べるほか、料理の具材に活用することもでき、活用の幅が広い。中には「タレを売ってほしい」と言うユーザーもいるほどだ

夕食時にゆで卵を食べる人が増加

開発の背景には、ゆで卵を食べる時間帯に起きた変化があった。同社が2023年に発表した『たまご白書2023』によれば、ゆで卵がもっとも食べられるのは朝食時であるものの、20~30歳代は夕食時に食べる人が増加。この3年で10%近く、夕食時にゆで卵を食べる人が増えている。

「この背景には、韓国風のやみつき卵が話題になったことなどがあります。夕食時にご飯と一緒に食べることが若い世代に刺さり、ゆで卵を食べる時間帯に変化が生まれたと考えられます」

このように話すのは、マーケティング本部タマゴ戦略部家庭用チーム チームリーダーの小野寺昭氏。より多くの若年層にも食べてもらえるよう、喫食シーンが広がる新しい食べ方を提案することにした。

キユーピー
マーケティング本部タマゴ戦略部家庭用チーム
チームリーダー 小野寺昭氏

2023年の発売を目指して開発がスタート。肉や魚の代わりに食べてもらえるものを目指し、〈ネギダレで食べるうま辛たまご〉と〈ネギダレで食べるねぎ塩たまご〉というネギダレ2種をつくることにした。

「焼肉のたれや焼鳥のたれをイメージしました」と小野寺氏。他にもいくつか検討されたが、ご飯との親和性が高かったのが焼肉のタレをイメージしてつくったものだった。食べた時の満足感が得られやすいこと、焼肉店や焼鳥店でおなじみなことから具材として刻んだネギを使うことにした。

対象としたユーザーは20~30歳代の単身者やDINKS(子どもを持たないことを意識的に選択した夫婦のこと。ダブルインカム・ノーキッズの略)。ご飯とこれが1つあれば満足できるよう、1つに卵を2個使うことにした。

ご飯に〈ネギダレで食べるうま辛たまご〉に乗せただけで完成する『うま辛たまご丼』。簡単で誰にでもでき、キユーピーのHPでもレシピが公開されている

途中で見直された開発体制

鳥インフルエンザの影響などから、2023年の予定から遅れて2024年3月に発売されたが、開発は難航した。その理由は当時の同社の開発体制にあった。

卵は卵加工品を開発する部隊、タレはサラダ関係の商品を開発する部隊が担当。

まとまりを欠いていたため、最初にできたサンプルは、固ゆでの卵に酸辣湯(サンラータン)ぐらい酸っぱいタレが絡んだ、市販には遠く及ばないレベルのものだった。

「日持ちさせようとすると、タレは酢による殺菌のため酸味が強くなります。いっぽう、卵は加熱して殺菌するので、固ゆでになってしまいます」

このように振り返る小野寺氏。思ったように開発が進まず時間だけが進んでいった。

髙宮満社長にも相談したほど開発の難航は深刻の度合いを深めたが、事態は2022年に動く。「このままではまずい」と判断した同社は開発体制を改め、部門横断プロジェクトを立ち上げることにしたのだ。髙宮社長自ら発破をかけ実現を求めた。

卵加工品を開発する部隊とサラダ関連の商品を開発する部隊が一緒になって大掛かりなプロジェクトを推進するのは初の試み。卵加工品とサラダでは殺菌に対するアプローチの仕方が異なることをプロジェクトを進めていくうちに理解し、互いのノウハウが共有されると、プロジェクトはスムーズに進行するようになった。

部門横断プロジェクトは組織間の壁を打破し、食品を長持ちさせる新しい製造技術を確立することにもつながった。

殺菌時間を短縮し卵の半熟感アップ

『キユーピーのたまご タレで食べるたまご』シリーズは発売開始とともに好調に売れていった。商品を知ってもらうために取り組んだことの1つに、2024年4月に実施したサンプリングイベントがある。

サンプリングイベントはキッチンカーを使い東京の渋谷ヒカリエと大阪のヨドバシ梅田の2か所で実施。2か所とも若い世代が集まり対象としたユーザーに注目されやすいところ。他の『キユーピーのたまご』ブランドの商品も提供されたが、ネギダレ2種が早々となくなってしまった。

2024年4月に渋谷ヒカリエで実施されたサンプリングイベントの様子

サンプリングの反応やスーパーとの商談では、1個300円前後する価格が「高い」という反応が多くを占めた。

逆に好意的な反応を示したのがコンビニで、中には即採用を決めてくれたところもあった。最近のコンビニはNB(ナショナルブランド)ではなくPB(プライベートブランド)を置くことを基本にしているが、「目を惹くパッケージだったことからPB化するのではなくこのままで販売した方が売れると判断されたようです」と小野寺氏は話す。

2024年9月には早くもリニューアルを実施。SNSでの反応から、黄身をもう少し柔らかくした方が好まれると判断し、黄身の半熟感を高めた。殺菌時間を20%削減し卵への加熱を抑えても品質が担保できる製法が確立されたことから、黄身の半熟感アップが実現した。

麺類に合うものを目指して開発した〈担々風たまご〉

2025年はラインアップを増やしたほか、販促面で新たな取り組みを行なった。

まず3月に〈麻辣ダレで食べる担々風たまご〉を追加。麺に合うものを目指して開発したものだという。

「ネギダレ2種の食べ方を調べたところ、40%が『ご飯と一緒』、20%が『そのまま』、10%が『麺と食べる』という結果が出ました。米の価格が上がってきていることなどから麺への注目が上がっており、麺に合う新しい味付けをつくることにしました」と小野寺氏。若年層からの支持が高い麻辣担々麺をイメージしたが、麻辣系のシビ辛な味わいを出すのに欠かせないスパイスの花椒(ホアジャオ)の扱いが開発する上で厄介だった。このように振り返る。

「花椒に限らずスパイスには多くの菌が付着しています。殺菌のため酢の量を増やすと味が酸っぱくなってしまうので、60日間の賞味期間を担保しつつ味をつくるところには時間を要しました」

販促では夏に、麺類大手のシマダヤとタイアップ。水ですすぐだけで食べられるシマダヤの『流水麺』と合わせることで火を使うことなく一品できるという提案を、スーパーの麺売場で実施した。猛暑の中、これらを使えば火を使うことなく調理できることを訴求した形だ。

シマダヤとのタイアップで使用した店頭用POP。水ですすぐだけで食べられるシマダヤの『流水麺』に市販のカットサラダ、〈麻辣ダレで食べる担々風たまご〉を乗せるだけで、POPにある『かんたんサラダめん』ができることを訴求した

オタク層から多くの支持を獲得

販促面ではこのほか、ユーザーの中でも特定の層に狙いを絞った展開も行なった。特定の層とは、アニメ好きやゲーム好きで、簡単に言えば「オタク」だ。『タレで食べるたまご』シリーズに関するSNSの投稿を分析したところ、ゲームやアニメ好きの人が多いことがわかったことを受けて直接アプローチすることにした。

アニメ好きに向けて実施したのが、Xのフォロー&リポストキャンペーン。9月に対象の投稿をリポストした人の中から抽選で50名にシリーズ3品のセットをプレゼントしたほか、参加者特典で人気声優の限定ボイス全4種類をリプライで届けた。通常のキャンペーンより多い1万1000人ほどが参加したという。

ゲーム好きに向けて実施したのが、9月25日~28日にかけて幕張メッセで開催された『東京ゲームショウ』の協賛。1日500個、全2000個の『タレで食べるたまご』シリーズをフードコートに提供し、無料でトッピングできるようにした。無料トッピングは好評で、4日間ともランチタイム時にはすべてなくなるほどだった。

ピンポイントでゲーマーに刺さった理由として考えられるのが、ゲーマーには健康意識の高い人が多いこと。

小野寺氏は「夜通しでゲームをやるので、あまり運動しない分、食事はきちんとしたものを食べるようにして健康に気を使っているようです」と分析する。

同社と取引のある企業の社員に『タレで食べるたまご』シリーズのユーザーがいたので話を聞いたところ、ゲームしながら箸でつまんで食べることができ、食器が不要なところが刺さったことが確認できた。

取材からわかった『キユーピーのたまご タレで食べるたまご』シリーズのヒット要因3

1.新しい食べ方の提案

これまでは塩を振って食べる、もしくは煮卵にするぐらいしか食べ方がなかったゆで卵だが、具材感のあるタレと絡めたものを、ご飯や麺類に乗せて食べる新しい食べ方を提案。ご飯のおかずや酒のつまみになる立派な一品として仕上げた。

2.喫食シーンの変化を捉えた

ゆで卵は主に朝食時に食べられる上に、50代より上の世代がよく食べるイメージがある中、若年層を中心に夕食時に食べる人が増加。手軽に食べられるだけではなく、具材感を高めることで夕食時に食べても満足感が得られるようにした。喫食シーンの変化を捉えて対応することができた。

3.効率的な訴求

ユーザーの中にはアニメやゲームが好きな、いわゆるオタク層がいた。熱量が高いオタク層に直接訴求することで支持を固めた側面は売れ行きを支える意味で無視できない。

「『タレで食べるたまご』シリーズのユーザー層は、マヨネーズやドレッシングでは獲得できなかった層です」と小野寺氏。ユーザー層の違いはSNSに明確に表れている。投稿されている画像を比較すると、同社の他の商品は整えられたキレイな食卓で撮影されたものが投稿される傾向にあるところ、これに関しては雑然としたありのままの日常の中で撮影されたものが投稿されるケースが目立つというのだ。

今後はさらなるブラッシュアップを検討していく。半熟感のさらなる向上や新たな味の追加、ファミリー向け大容量パックや単者向けの1個パックの販売など、いろんな展開を期待したい。

製品情報
https://www.kewpie.co.jp/kewpienotamago/negidaretamago/

取材・文/大沢裕司

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Author
月刊誌の編集者を経て2005年からフリーランスライターとして活動。以来、企業取材に(ほぼ)特化し、雑誌、ウェブメディアへの寄稿のほか、ブックライティングも手掛ける。主な取材テーマはものづくり関すること全般と中小企業の経営。著書に『高すぎ! 安すぎ!? モノの値段事典』(ポプラ社)、『バカ売れ法則大全』(共著、SBクリエイティブ)などがある。

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