小学館IDをお持ちの方はこちらから
ログイン
初めてご利用の方
小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼントにお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
新規登録
人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

モバイルバッテリーのシェアリングサービス「チャージスポット」が目指す〝世界インフラ〟戦略

2025.12.26

日本と中国、2つの文化を束ねて

 実はこの事業自体が壮大なダイブかもしれなかった。日本人がまだ見たこともないものを「必ずみんなの役に立つ」と確信を持って大企業にプレゼンし「上場はスタートにすぎない!」と仲間を集める。もし「彼らなら実現するだろう」という期待感――彼らを繋ぎとめる〝綱〟が切れたら、事業は真っ逆さまとなる。

 しかし優秀な人間に限って、そんな本気の大冒険についてくるのかもしれない。

 2020年、中国出身の李が仲間に加わった。元々技術者のコミュニティーでちょくちょく発言していた李が会社のことと自分の仕事を話し、「今、仲間を募集している」と伝えると、高橋が「そう簡単に集まらない」と舌を巻くほどの技術力を持った人物が、この人材難のご時世に10人以上加わった。

 李のミッションは、日本にゼロから開発チームを作り、サービスを日本市場に最適化すること。それは、2つの国の「文化の壁」を乗り越える戦いでもあった。

「例えば中国では、ユーザーが不正をしないか、どう防ぐか、という視点でサービスの設計をしますが、日本のユーザーは丁寧な説明やサポートを強く求めます。そこで日本の方たちにとって快適なユーザー体験をゼロから設計する必要があったんです」(李)

 李は中国と日本のチームを指揮し、猛スピードで改善を繰り返した。組織は健全だった。高橋は「ここも改善を」と要求するが、温厚な李は笑って受け流したという。

「2週間で区切って、その中でできること、できないことを明確にしていました。無理難題を言われても(笑)、『この2週間ではここまでです』と返す。こうして、サービスの品質とスピードとマネジメントを両立させました」(李)

 日本独自の決済方法への対応、誰にでも分かりやすいアプリのUI・UXへの刷新──。しかし李と彼のチームが奮闘する中、最大のピンチが訪れていた。

爆速ボートはまだ止まらない

 コロナ禍によりシェアリングサービスが大ダメージを受けたのだ。バッテリーも「知らない人が触ったものは」と言われはじめた。減る売り上げ、周囲の心配……。しかし彼らはそれすら糧に変えた。

「全バッテリーにSIAAが定める安全性と性能の基準をクリアした抗菌・抗ウイルス効果があるコーティングを施したんです。しかし回収を続けるうち、組織の能力が向上していくんですよ」(高橋)

 実は大変な作業だった。バッテリーは常に動いている。回収に行くと、もうユーザーが使っていてそこにはない、ということが起きるため、作業工程は複雑だった。

「でもそれがよかったんです。こんな泥くさく、複雑なオペレーションができる企業はなかなかありません。これが将来、高い参入障壁になるんです」(高橋)

 北條が首肯し話を継いだ。

「私もわかります。コンビニは、例えば不具合があった、ユーザーが使えない、といったことに厳しい。しかしご要望に応えるうち、我々のサービスレベルがどんどん向上していきましたからね」

 そしてコロナ禍が明けると、再び『CHARGESPOT』は爆発的に伸びていった。元々アジアでは展開していたが、欧州、北米でも事業を開始、そして現在は日本国内に約5万5000台、海外を含めると約8万台といったインフラへと成長していった。

 しかし高橋はこう話す。

「我々は〝バッテリー屋〟で満足するつもりはありません。『CHARGESPOT』を通じて我々が得た資産は、バッテリーのビジネスではなく、価値ある場所と圧倒的なユーザーなんです」

 日本中、いや世界中に何かを設置し、運用するしんどいビジネスができる企業は少ない。しかし彼らはバッテリーをフックに、そのプラットフォームを生み出したのだ。今、同社は次々と新ビジネスを始めている。例えば設置型のベビーケアルーム『mamaro』、さらには『CHARGESPOT』のスタンドを使い、〝推し〟の誕生日等を祝える『CheerSPOT』……。

 最後に高橋はこんな話をする。

「うちの会社を船に例えるなら、安心安全な大きい船じゃなく、とんでもない高速エンジンを積んで、穴が開いたらすぐに職人が修理するボートなんです。だからこれからも猛スピードで、誰も見たことのない景色を見に行きますよ」

 今後も当分、彼らが祝杯を挙げる暇はないに違いない。

INFORICH『CHARGESPOT』ヒットをひもとく挑戦者たちの足跡

縦横無尽に動き回り、モバイルバッテリーシェア文化を全国へ浸透。成功のポイントは3つ。

POINT 1|「借りるを文化に」社会を変える新しい常識

POINT 2|「完璧より速さ」走りながら考える現場力

POINT 3|「文化を越える」異国チームによる新知見

「ロケーション」の可能性を「テクノロジー」で広げる

INFORICHが手掛けるサービスは他にも

『ShareSPOT』

『ShareSPOT』

『CHARGESPOT』『ドコモ・バイクシェア』など、個別のアプリが必要なシェアリングサービスを、一つのアプリで検索・利用できるプラットフォームサービス。

『CheerSPOT』

『CheerSPOT』

推し活応援サービス。ファンがアプリから申し込み、『CHARGESPOT』のデジタルサイネージに、応援したいアイドル等の誕生日などを祝う応援広告を掲出できる。

『mamaro』

『mamaro』

授乳やおむつ交換ができる設置型の完全個室ベビーケアルーム。『CHARGESPOT』で培った営業網を活かし、商業施設や公共施設への設置を進めている。

取材・文/夏目幸明 撮影/高田啓矢

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2025年12月16日(火) 発売

来年末は、DIME本誌で答え合わせ!?来る2026年、盛り上がるだろう意外なブームを各ジャンルの識者・編集部員が大予言! IT、マネーから旅行にファッション、グルメまで……”一年の計”を先取りできる最新号!

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。