■連載/ヒット商品開発秘話
健康や美容のために、白湯(さゆ)を飲んでいる人も多いことだろう。しかし、水を沸騰させ続けカルキを抜いてから飲みやすい温度に下がるまで待たなければならず、手軽につくれるとは言い難い。このため挫折してしまった人も多いと聞く。
白湯を手軽につくれるとして好評を博しているのが、ドウシシャの『ON℃ZONE(オンドゾーン)』ブランドから発売されている『白湯専科』シリーズ。
2023年9月にマグカップを発売したのを皮切りに、電気ケトルやピッチャーとラインアップを拡大してきた。2025年5月時点でシリーズ累計20万個を出荷している。
お湯と向き会う日々だった『白湯専科マグカップ』の開発
最初につくられた『白湯専科マグカップ』にはモデルになる商品があった。それは、同じ『ON℃ZONE』ブランドから発売された『猫舌専科』シリーズ。
2020年11月に発売され、マグカップとタンブラーをラインアップしている。猫舌の人でも温かい飲み物が飲めるよう、温度を下げて保持する機能を有しているのが特徴だ。
ライフスタイル事業部ハウスウェア商品ディビジョンの喜多里歌子さんは、「近年、白湯が注目されていることから、『猫舌専科』の機能を生かして白湯に特化した商品が企画されました」と話す。発売の1年ほど前に開発がスタートした。
『白湯専科マグカップ』はステンレス製で、内側と外側の間に吸熱剤が充填されている。熱湯を注ぐと約3分で、飲み頃となる65~60℃の間まで下がる。
吸熱剤は『猫舌専科』でも活用されている。ただ、注いだ熱湯を3分で狙った温度帯まで下げるには、吸熱剤の量や配合比率の調整、マグカップの口径や内側のステンレスの厚さの検討が必要とされた。
細部の仕様を決める際にキーポイントとなったのが、熱湯を注いで約3分で飲み頃の温度にすること。3分に決まった理由は何だったのであろうか? この背景にはカップラーメンがあった。
「日本人はカップラーメンをつくるのに3分待つことに慣れている方が多いので、3分であれば抵抗なく待ってもらえると考えました。これ以上長くならないようにすることは、こだわったところです」と話す喜多さん。カップラーメンができる時間は商品によって異なるが、ユーザーレビューなどから完成までにかかる時間ごとに不満の少ない時間はどこかをリサーチした結果も3分だったという。
使われている吸熱剤は大きく分けて、温度を下げるものと適温に保つものの2種類。カップの口径や内側のステンレスの厚さ、吸熱剤の配合などを変えてつくったサンプルは100を超えた。喜多さんは開発当時をこのように振り返る。
「お湯と向き合う日々を送っていました。サンプルは途中から数えるのを止めてしまったほどです」
マグカップの容量は320ml。紅茶など白湯以外のものを飲む時にも使いやすいよう、少し大きめにつくった。白湯は260ml程度あれば十分なので、お湯は本体内側の水位線のところまで注げばいいようにしている。
「『白湯専科マグカップ』で白湯を飲むことを習慣にしてほしいです」と語る喜多さん。その想いを表したのが、本体外側に印された「sa-you.」の筆記体ロゴ。「さあ、あなたも白湯を始めましょう」に由来している。「クスッとなるようなちょっと面白いロゴを入れたほうが、面白い商品をさらに良くできると考え入れることにしました」と明かす。
白湯をつくるモードを搭載した『白湯専科電気ケトル』
『白湯専科マグカップ』は他の自社商品と比べて、コンセプトやパッケージ、カラーラインアップなど発売以来何も変えていないにもかかわらず売れ続けている。ステンレス製マグカップの市場には多くの企業が参入しているので、カラーバリエーションを増やすなど何か変化をつけなくても売れ続けているのは想定外のことだった。しかも、売れ行きに波がなく、一定の水準をキープし続けているという。
2024年に入り、『白湯専科』シリーズはアイテムの拡大に舵を切り始めた。同年9月に『白湯専科マグカップ クイックプチ』、10月に『白湯専科電気ケトル』を発売している。
『白湯専科マグカップ クイックプチ』は商品名の「プチ」が示すように、容量が230mlと『白湯専科マグカップ』より小さい。内側の水位線のところまでお湯を注げば、白湯を飲むのに丁度いい量の180mlになるという。
「白湯は1回につき150~200ml程度、1日に5回ほど飲むのが適していると言われています。白湯を飲むだけならより小さいサイズでも事足りるかもしれなかったので、普段白湯を飲んでいる方を対象にアンケート調査を実施したところ、多くの人が1回に飲む白湯の量は150 ~200mlなことがわかりました。この結果を受け、白湯を飲むことに特化した小さなマグカップをつくることにしました」
開発の経緯をこのように話す喜多さん。商品名の「クイック」が示すように、小さくしたこともありお湯を注いで約2分後には白湯に適した温度まで下がるようにした。早くつくれるようにしたのは、白湯を飲む習慣を生活に取り入れやすくするためであった。
『白湯専科マグカップ』をただ小さくしたものではなく、吸熱剤の配合が見直されている。「再びお湯と向き合う日々を送ることになりました」と喜多さん。100個以上のサンプルをつくり検証することを覚悟していたというが、『白湯専科マグカップ』の開発経験を生かした工場のアドバイスなどにより、検証したサンプルは何とか50個ほどで収まった。
いっぽう『白湯専科電気ケトル』は、日常的に使う電気ケトルで温活をサポートする目的から開発された。容量は最大1Lで、これは白湯5杯分程度に相当する。
普通の電気ケトルとの違いは、白湯をつくることができるモードを搭載していること。設定した温度(50~100℃。5℃単位で設定可能)で沸かす[加熱モード]のほか、10分間連続で沸騰させてカルキや不純物を取り除いてから白湯として飲める温度まで冷ましその温度を維持する[白湯モード]、飲みたい時間に合わせて白湯ができ上がる[白湯予約モード]を搭載している。







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