働く人たちが退職を考えてしまう会社と、転職せずに長く勤めたいと考える会社にはそれぞれどんな特徴があるのだろうか?
スコラ・コンサルトはこのほど、全国の社員100名以上の企業に勤める一般社員・管理職2,106名を対象に「転職や働くことへの意識」に関するアンケート調査を実施し、その結果を発表した。
Topic1.現在の勤務先の状況 コンプライアンスやワークライフバランスは肯定的な評価だが、「仕事が属人的で負荷が集中」が40.2%
現在勤務する会社について、肯定的な状況と否定的な状況が対になった項目からあてはまるものを選択してもらった。項目は全部で15組あり、左の項目があてはまる、右の項目があてはまる、どちらも選択なしの3段階のグラフにしている。
Q.あなたの現在の勤務先はどのような会社ですか。あてはまるものをすべて選んでください。(複数回答)
「(15)仕事が属人化されており、特定の人に負荷が集中している」が40.2%と高いが、「(1)有給休暇を取得しやすい雰囲気がある」や「(2)公平性や倫理、コンプライアンスが重視されている」、「(6)残業が少なくワークライフバランスを取りやすい」、(3)(4)(5)(7)の上司や同僚との関係に関する項目は、左の肯定的な項目が右の否定的な項目を上回る。
過去の状況に関するデータとの比較はできないが、昨今見聞きする情報を加味すると、全体的にはひと昔前よりも働きやすい職場になってきていることが推察される。
一方、前述の「(15)仕事が属人化されており、特定の人に負荷が集中している」以外にも、「(11)保守的で、新しい考えや取り組みは受け入れられにくい」、「(13)社内政治・根回し・忖度の文化がある」、「(14)トップダウンが強く、社員の意見が採り入れられることは少ない」などは、右の否定的な項目が左の肯定的な項目を上回る。これらは組織全体の文化・風土に関する問題であり、否定的に捉えられていることがわかる。
Topic2.短期退職要因と長期定着要因
Topic1の「勤務先の状況」を、転職意向別に分析した。
Q.あなたの現在の勤務先はどのような会社ですか。あてはまるものをすべて選んでください。(複数回答)
転職意向は、「1年未満に転職したい」から「まったく転職を考えていない」まで6段階ある。1つ目のグラフの左側に並ぶ「上司に相談」「同僚と相談や助け合い」「コンプライアンス重視」の3項目では、「1年未満に転職したい」人の否定割合が肯定割合よりも高くなっている(グラフが右肩上がり)。
「上司に相談」については、「1年~3年未満に転職したい」人も同様だ。この方々の現職の在籍年数はさまざまではあるが、周囲の人と相談・助け合いがしにくいことや会社のコンプライアンス軽視の姿勢に問題を感じて早く退職したいと具体的に考えている可能性がある(短期退職要因)。
一方、1つ目のグラフの右側に並ぶ「心理的安全性」「成果を上げた人が正当に評価され活躍」「会社の方向性に共感している社員」「上司が部下の成長を支援」「ワークライフバランス」の5項目では、「転職はまったく考えていない」人の肯定割合が否定割合よりも高くなっている(右肩下がり)。
このような状況に満足して長く勤めたいと考えているのかもしれない(長期定着要因)。なお、「会社の方向性への共感」は他の項目に比べて肯定が多くなりにくいが、「転職はまったく考えていない」人では肯定が否定を上回る、という結果は特徴的だと言えるだろう。
Topic3.転職先の総合満足度に与える影響力は「企業風土」が「給料」の3倍
次に転職者の分析を行った。「転職経験・転職検討経験」を回答した1,986名のうち、1回以上転職したことがある人は49.1%(976名)で、転職理由は次のようになっている。
Q.あなたが【転職した/考えた】理由として、最も重要だと思うものから順番に1~5まで順位を付けて選んでください。
転職理由やそれ以外のデータもあわせて分析していると、働く上で重要な要因として「給与」が他の項目よりも突出した数値となり、「企業風土」、「人間関係」(特に上司)がそれに続く傾向がしばしば見られる。ここからは、転職に関するさまざまな要因が、「今の会社に転職して良かった」という転職先の総合満足度にどのように影響しているのかを分析していく。
一般的にエンゲージメント調査では、従業員全般に継続勤務意向や他者への入社推奨度を尋ね、その影響要因を分析するが、そういった意識のデータとは異なり、実際に転職した人に前職と今の会社を比較してもらったデータを使用する。実体験にもとづく重要なデータから、会社をより良くするヒントを得ることを意図した分析だ。
Q.前職と今の会社を比べると、それぞれの項目についてあなたはどちらが良いと思いますか。 この設問は、これまでに転職したことがある方にお聞きします。(各単一回答)
転職者全体の結果をみると、「総合的な評価」において「今の会社のほうが良い」と満足している割合は61.8%だった(「どちらかと言えば今の方が良い」を含む)。「給与や福利厚生」「残業時間・休日出勤・柔軟な働き方」は「今の会社のほうが良い」が他の項目よりも高く、それぞれ62.3%、65.5%という結果(同上)。主にこれらの項目が「総合的な評価」、つまり転職先の総合満足度に影響しているのだろうか。
「給与や福利厚生」と「会社の体質や企業風土」を例に、「総合的な評価」と掛け合わせた分布状況を視覚化すると次のようになる。目盛の1は「前職のほうが良い」、5は「今の会社のほうが良い」を表している。
左の図では、「給与や福利厚生」は「前の会社のほうが良い」(1~2)」と回答しながら、「総合的な評価」は「今のほうが良い」(4~5)と回答している人がいるなど、比較的広く回答が分布している。一方、右の図では、「会社の体質や企業風土」と「総合的な評価」の間にやや直線的な傾向があり、関連性がより強そうに見える。
このようなデータ同士の関係は相関分析で把握できる。「給与や福利厚生」「会社の体質や企業風土」以外の7項目も含めて、「総合的な評価」との関連の強さを分析した。
相関係数は、2つの項目間の関連の強さと向きをマイナス1からプラス1までの数値で表している。「給与や福利厚生」は相関係数0.51(やや正の相関あり)、「会社の体質や企業風土」は0.76(強い正の相関あり)という結果となった。やはり、「給与や福利厚生」よりも「会社の体質や企業風土」のほうが「総合的な評価」との関連が強いようだ。
しかし相関分析では、原因と結果の間にはあまり関連がないにも関わらず、背景にある別の要因の影響で関連があるように見えてしまうことがある(疑似相関)。
そこで、他の項目の影響を除去した当該項目と「総合的な評価」の関連の強さを明らかにするために重回帰分析を行った。
重回帰分析では前述の9つの項目のほかに、「総合的な評価」に影響を与える可能性がある項目として「性別」「年齢」を想定し、項目の投入・除去を繰り返した。その結果、7項目が残るモデルが得られた。図の数値は、「当該項目が変化することで『総合的な評価』がどれほど変化するか」という影響力を意味する。
総合的に考えて「今の会社に転職して良かった」という転職先の総合満足度に最も強く影響するのは「会社の体質や企業風土」であり、その他の項目の3~4倍の影響力がある、という結果になった。「給与や福利厚生」はおおむね想定した上で入社することが多く、数年後に総合満足度を左右するような要因ではないのかもしれない。
一方、入社してみないとなかなか分からないのが企業風土だ。実際に働く中で、「風土は前の会社のほうが良かった」と不満を抱いたり、逆に「今の会社の風土は慣れてきたら案外良かった」などと実感したことが、総合満足度に影響するようだ。
なお、以下に示した企業風土に関する転職理由に関する調査結果を踏まえると、「社員を大切にし、意見を採り入れること」や「ワークライフバランス」「問題改善や変化への対応」に取り組む必要性がうかがえる。また、Topic2でも、社員の退職・定着には「相談・助け合い」「心理的安全性」「正当な評価」「ワークライフバランス」といった働きやすさや企業風土に関する要素が重要であることが示唆される。
Q.あなたが転職を考えた主な理由となった「会社の体質や企業風土」について、あてはまるものをすべて選んでください。
Topic4.男性50代の「転職先の総合満足度」に影響するのは「柔軟な働き方」と「人間関係」、「企業風土」は女性でより強く影響
Topic3は転職者全体にあてはまるモデルだったが、性年代ごとに若干状況が異なる可能性がある。そこで、Topic3の全体モデルに残った7項目が「総合的な評価」に与える影響について、性年代別の重回帰分析を行った。
なお、現在の年代と転職時期が離れすぎないように、現職の勤務年数が10年未満の人を分析対象にしている(最近10年以内の転職者となる)。該当者が少なくなったため、高い確度で関連があると言える項目は限定されたが、次表の項目は「総合的な評価」に影響を与えると言える。
※最近10年以内の転職者が対象、Topic3の全体モデルに残った7項目について強制投入法による重回帰分析、5%水準で有意の項目を掲載
・男性50代以外は、全体モデルと同様に「会社の体質や企業風土」が「総合的な評価」に与える影響度が高いことが確認できる。特に女性では数値が高くなっている。
・男性50代はその代わりに「残業時間・休日出勤・柔軟な働き方」と「人間関係」の影響度が高い。職場の人間関係に満足していない傾向がしばしば見られるが、人間関係に満足できれば総合的な満足につながりやすいといえる。
・男性20代では企業風土よりも「残業時間・休日出勤・柔軟な働き方」が「総合的な評価」に影響する。
・男性30代にとっては企業風土よりも「やりたい仕事ができる」ことの影響が大きい。「給料や福利厚生」も重要な要素だ。
・企業風土ほどではないが、女性20~30代では「人間関係」も影響する。女性30~40代では「仕事で能力を発揮して価値を生み出している実感」も重要な要素だ。
・女性40代では、「残業時間・休日出勤・柔軟な働き方」「給料や福利厚生」の影響も確認できた。
スコラ・コンサルト解説
従業員調査では、働く上での総合満足度に影響する要因として「給料」が必ずと言ってよいほどトップに挙がる。金銭面はもちろん欠かせない要素だが、今回の調査ではその他の観点で、今の会社を早く退職したいと考える要因と長く働き続けたいと考える要因を分析した。
上司や同僚と助け合ったり、コンプライアンスが重視されたりする組織基盤を築くことで、退職につながりかねない不満を解消し、その上で、意見を率直に交わせる心理的安全性、成果や能力の公平な評価、会社の方向性への共感などを実現することが、従業員の満足度向上や定着につながることが分析結果から見えてきた。
「会社の方向性」以外の項目は、いずれも組織のあり方や風土に含まれる要素と言える。今回の分析では、企業風土が総合満足度に与える影響が、給料や仕事内容以上に大きいことも明らかになった。
給料や仕事内容は転職時にある程度織り込み済みで、その後も想定からはあまり外れないのかもしれない。一方、入社してみないと分からないのが風土だ。風土の受け止め方は固定的ではなく、働いていくうちに変化していく可能性がある。「慣れてきたら案外自分に合っていた」、「長く在籍するうちに悪い部分も見えてきた」という具合に、時間をかけて次第に評価が定まりながら、総合満足度を左右するという特性を企業風土は帯びているかもしれない。
会社は基本的には「類は友を呼ぶ」の法則で成り立っている。企業風土にフィットした人が組織に定着し、力を発揮する。しかし、内向きに閉じた企業風土の場合、変化をもたらしてくれるような異質な人材ほど去っていき、残った人々による同質化が加速しかねない。このような特性があるため、企業風土は思い通りには変わらない。
企業風土は一見関係がないような出来事も影響しながら時間をかけて醸成されていくものだ。あまりにも「速く」変えようとすると、社員の拒絶反応を招くこともある。そうした事態を避けるには、「早く」始めてじっくり進めたり、日常的に取り組み続けたりする方が理にかなっている。投資を早く始めるほど、時間を味方につけて複利効果で資産が増えるように、企業風土も小さな変化が次の変化を呼び、その連鎖がやがて大きな成果につながっていくと考えることができる。
<調査概要>
調査主体:株式会社スコラ・コンサルト
調査方法:調査会社のインターネットアンケートモニターによる回答
調査期間:2025年5月23日~2025年5月26日
有効回答数:2,106人
・性別・年齢内訳:右表のとおり
・役職内訳:一般社員・係長1,868人
管理職(課長・部長)238人
出典元:株式会社スコラ・コンサルト
構成/こじへい







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