ビューティーディレクター MICHIRUさんとおくる、連載「Wellbeing beauty by MICHIRU」。
前編、中編でも垣間見えた、NeRoLi herb菅原あゆみさんの植物療法の豊かな知恵。後編ではその知識の源泉を紐解いていく。
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四季のしつらえが教えてくれたこと
MICHIRUさん(以下、MICHIRU):あゆみさんの植物療法の原点は、ご家族の影響が大きいそうですね。どんなご家庭で育ったのですか?
菅原あゆみさん(以下、菅原):私の家は少し変わっていて、季節ごとに食器をすべて入れ替えるような家でした。節分、桃の節句、端午の節句、重陽の節句……。そんな1日しかない日のための食器や着物もあって、まるで料亭のような忙しさでした。
MICHIRU:伝統的なことを大切に、とても丁寧に暮らしていらっしゃったんですね。
菅原:子どもの頃は面倒で、「もう嫌!」と思っていました。でも今になってわかるんです。その“面倒くさい”ことには、ちゃんと意味があったんだって。季節に寄り添って暮らすことで、自分たちの体と心を整えていたんです。
MICHIRU:日本には、もともと季節や植物のリズムと調和した暮らしがあったのを、思い出します。
菅原:一方で祖母の代からイギリスなど海外とも交流があり、その文化も積極的に家仕事に取り入れていました。日本の暦を追いながら、イギリスの植物療法が共存していたような感じでした。熱を出したらシアバターに精油を垂らしたものを冷やし固めて坐薬にしてましたし、私が産まれた時の産湯にはローズマリーが入っていたんですよ。
MICHIRU:素敵ですね! 当たり前のように植物療法が暮らしに根付いていたなんて。今ではなかなかできることではないと思います。
世界各地の植物療法を日本人向けのメソッドに
MICHIRU:あゆみさんのハーブメソッドは、イギリス式をベースにアーユルヴェーダや東洋のメソッドも入っていますよね。これらはどのように身につけたのですか?
菅原:イギリスには植物療法を学びに行ったというよりも、家同士の繋がりで生活を学びに行きました。そのお宅には当たり前のように植物療法が存在し、そこで植物療法の先生とも出会いました。
MICHIRU:あゆみさんの植物療法の捉え方は、ご実家とイギリスの生活で育まれたのですね。東洋の知識などは?
菅原:当時の私はまだ生意気だったので、植物療法の先生にいろいろな理由をつけて反論していたんです。「中国ではこうなんじゃない?」とか「日本では違った」とか。そうしたら先生が「では、上海にも北京にも知り合いがいるから勉強しに行こう」って。そんな感じでインドにも勉強しに行きました。
MICHIRU:先生との出会いが、あゆみさんの世界をさらに広げたんですね。世界の植物療法には通じるものがあるのでしょうか?
菅原:国や地方によってやり方が違ったり、独特の植物を用いたりしますが、考え方の基本は近いように思います。やり方が違うのは、やはり気候や暮らす人の体型、精神性が違うからでしょうね。
各地の方法論を知ったことで、どこかの国の方法をそのまま日本人が取り入れても身体に合わないということにも気づきました。それで各地のメソッドを融合して、日本人のためのNeRoLi herbのメソッドをつくりました。
面倒な暮らしには、常に植物が紐づいていた
MICHIRU:ご自身が生活の中で身につけてきた植物療法。今のように人に伝えようと思ったのは何がきっかけだったんでしょう?
菅原:実は社会に出るまでは、誰もが私の実家やイギリスのお宅と同じように、植物を生活に取り入れた暮らしをしていると思っていたんです。ハーブティーを飲んだり、調味料や化粧品を自分で作ったり、ラベンダー枕を抱えて眠ることが当たり前だと思っていました。だから社会に出て、そうではないと気づいたとき、びっくりしたんです。
MICHIRU:ちょうど美容も食も便利で新しいものが矢継ぎ早に生まれていた頃ですもんね。
菅原:そう、どんどん便利になっていった時代。それから月日が経って、自分が年齢を気にするようになった頃、記憶の中の母を思い返したら、彼女は歳を重ねてもずっと美しかった。それで母と何が違うかと考えた時に、母たちの暮らしの多くが植物と紐づいていたんです。それに気づいて確信した瞬間、みんなにも「教えてあげたい」となりました。
MICHIRU:あゆみさんがそう思ってくださって、本当に良かった。
菅原:ただ当時の面倒な暮らしをそのまま実践するのは、とても大変。だから私は現代流にアレンジしています。前編でもお話しした“余分なものを引き算して、昔の良いものを少し足す”です。
MICHIRU:当時のお母さまたちの暮らしから、今の私たちに必要なものをあゆみさんが“抽出”してくれているんですね。
菅原:そう! 基本を崩さないことが大事なんです。基本さえ押さえていれば、あの頃ほど丁寧にしなくても大丈夫。私のお料理なんて、とても早く出来上がるんですよ。新しいものも否定せず、植物と今より少し距離を縮めてもらえるような発信を心がけています。
MICHIRU:あゆみさんのお話を聞いていると、本当のラグジュアリーな暮らしとは植物と生きることではないかと感じます。
菅原:まさに、そう思います。植物ほど贅沢に私たちの生活を支えてくれるものはありません。そんな植物の力を、これからも惜しみなく伝えていこうと思っています。
菅原あゆみ(すがわらあゆみ)
2015年より「大切な人や、家族のための植物療法」をコンセプトに、NeRoLi herbを主宰。英国式植物療法、漢方、和漢、アーユルヴェーダなどをベースに、オリジナルのメソッドを確立。産地や製法などを厳選したハーブを用いて、本物の植物の力を広げている。女優、モデル、ヘア&メイクアップアーティストなど、美のプロフェッショナルたちからの信頼も厚い。
MICHIRU(みちる)
メイクアップアーティスト・ビューティーディレクター/渡仏、渡米を経て、国内外のファッション誌や広告、ファッションショーやメイクアイテムのディレクション、女優やアーティストのメイクなどを数多く手がける。また体の内側からきれいになれるインナービューティを提唱するなど幅広く活躍中。本連載ではナビゲーターを務める。
取材・構成/福田真木子
写真/杉原賢紀







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