■連載/ヒット商品開発秘話
にわかには信じがたいが、洗濯時に使うことでダメージを受けた衣類がよみがえる再生柔軟剤が登場し、発売と同時に飛ぶように売れている。
その再生柔軟剤はI-neの『ReWEAR(リウェア)』のこと。2025年2月からECサイトで先行発売したところ、楽天市場で2回完売したほか、Amazon新着ランキング(日用品)でトップを獲得。満を持して4月から小売店での販売も始まり全国のドラッグストアなどに置かれるようになった。
『ReWEAR』は、ダメージを受けてできた毛玉や毛羽立ちに反応するデンマーク産の酵素『セルラーゼ』を配合。繰り返し洗濯に使ううちに、毛玉や毛羽立ちが除去されていく。これまでの累計販売数は93万個を超える(詰め替え用も含む)。
これまでの柔軟剤が提供できていなかった価値を示し再参入
ヘアケアブランドの『BOTANIST』や『YOLU』、美容家電ブランドの『SALONIA』などで有名な同社だが、柔軟剤は『ReWEAR』が初めてではない。2017年3月に『FULLERY BOTANICAL(フレリーボタニカル)』を発売している。『FULLERY BOTANICAL』は2018年5月末までにシリーズ累計100万個以上が出荷され一定の支持を獲得したものの、販売予測とのズレが顕著だったことなどから終売となり、柔軟剤市場から一度撤退している。
柔軟剤市場に再参入にすることにしたのはなぜか? ブランドマネージャーを務める新規事業開発室 室長の小林麻美さんは「半歩先のトレンド(=顧客の潜在ニーズ)をつかみ、当社が強みとしている香りやデジタルマーケティングの知見を生かすことがきれば、再参入できると考えていました」と明かす。一度は撤退したが、諦めたわけではなかった。
将来の柔軟剤市場への再参入を視野に入れ、同社はこれまでの柔軟剤が提供できていなかった新たな価値を探すことに。この過程で注目したのが、社会問題として顕在化している衣類の大量廃棄であった。環境省が2023年に発表した調査報告によれば、2022年の衣類の国内新規供給量は計79.8万トンであるのに対し、その9割に相当する73.1万トン(推計)が事業所および家庭から使用後に手放され、このうち47.0万トンが廃棄されている。
この社会問題から、同社は衣類の手入れに目を向けた。長持ちさせることができれば衣類の廃棄量削減に貢献するからであった。
服は洗濯回数が増えるにつれて劣化していく。そこで、洗濯洗剤を購入し自身で使用している20~60代男女を対象に、2023年11月に「衣類/衣類ケアに関する調査」を実施(n=1215)。「本当はまだ着たいのに、日々の着用やお洗濯による傷みのせいで、処分することがある」の設問に半数以上の51.4%が「あてはまる」と回答したほか、「お気に入りの服だけど、毛玉や毛羽立ち、色落ちが心配で、着るのを控えることがある」の設問では約半数に当たる48.1%が「あてはまる」と回答している。
こうしたことから同社は、洗濯しながら衣類がケアでき長持ちするようになることを柔軟剤の新たな価値として提案し、世に問うことにした。
衣類の再生と柔軟剤の基本機能との両立
『ReWEAR』が企画されたのは発売の1年半ほど前。最大の特徴であるデンマーク産の酵素『セルラーゼ』の存在はどのような経緯から知ったのだろうか? 小林さんは次のように話す。
「柔軟剤で配合可能な原料情報を探している中、ある原料メーカーから『セルラーゼ』の情報をいただきました」
『セルラーゼ』は、廃棄される衣類を削減する観点から開発されたもの。毛玉や毛羽立ちだけを除去するので、衣類がよみがえる。ただ、酵素は洗濯洗剤に配合されることはあるが、柔軟剤に配合した例は少ない。『セルラーゼ』が期待通りの機能を発揮してくれるか、安定してくれるかは未知数だった。
「実際、機能の発揮と酵素の安定を両立させるのは難しかったです」と振り返る小林さん。衣類を柔らかく仕上げることなどといった柔軟剤の基本機能を担保しつつ毛玉や毛羽立ちを除去できるようにするため、何度も処方を見直したり洗濯試験を繰り返したりした。
洗濯試験は毛玉付きの生地をつくるところからスタート。生地ごとに洗濯回数を変え、毛玉や毛羽立ちの減少を確認していった。「1日中洗濯しなければならないので、開発担当者は洗濯試験を行なう際、社内にある洗濯機から離れらないほどでした」と小林さんは明かす。
『セルラーゼ』は多く配合すればするほど毛玉や毛羽立ちの除去機能が高くなるが、その分製造コストは上がり売価が高くなる。柔軟剤の基本機能と衣類のよみがえり機能を維持しつつ買い求めやすい価格にするため、どれだけ『セルラーゼ』を配合するかもポイントになった。
検討に検討を重ねて『セルラーゼ』の配合量を決めたが、小林さんによれば、製造直前になって配合量を調整した。柔軟性や毛玉・毛羽立ちの除去効果をギリギリまで追求したためだという。







DIME MAGAZINE
















