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なぜ人は誹謗中傷してしまうのか?批判との決定的な違いと境界線

2025.11.29

SNSでの誹謗中傷が社会問題となる中、攻撃的な言葉がなぜ生まれるのかを心理学の視点から解説します。誹謗中傷と批判の違い、加害者が陥りやすい「歪んだ正義感」や匿名性による安心感などの心理を紹介。投稿ボタンを押す前に立ち止まり、自分自身の言葉を見直すヒントをまとめます。

インターネットやSNSの普及により、誰でも手軽に情報を発信できるようになった現代。その一方で、匿名性を悪用した誹謗中傷が深刻な社会問題となっており、痛ましいニュースを目にする機会も増えています。

私たち、特に日本人は、「相手を思いやり、和を重んじる」「人に迷惑をかけてはいけない」という価値観を大切にしてきたはずです。それにもかかわらず、なぜネット上では攻撃的な言葉が飛び交うのでしょうか。さらに、中傷する側の多くが「自分は間違ったことはしていない」という正義感を抱いているケースも少なくありません。

本記事では、誹謗中傷と批判の明確な違いや、誹謗中傷を行ってしまう人の心理について解説します。

誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)とは

誹謗中傷とは、一言で説明すると、根拠のない悪口やデマで、他人の名誉や心を傷つける行為のことです。

この言葉は、本来2つの意味が合わさっています。

誹謗(ひぼう)……他人を悪く言うこと。そしること。
中傷(ちゅうしょう)……根拠のないことを言いふらして、他人の名誉を傷つけること。
(小学館・デジタル大辞泉より)

つまり、相手の人格や容姿、人間性そのものを否定したり、事実ではない情報を広めて社会的信用を落としたりする行為が誹謗中傷にあたります。

単なる意見や指摘とは異なり、そこには相手を攻撃しようとする悪意や、相手の尊厳を無視した言葉の暴力が含まれているのが特徴です。インターネット上であれ口頭であれ、受け取った相手に深い精神的苦痛を与える行為は、誹謗中傷と言えます。

■誹謗中傷と批判の違い

誹謗中傷と批判は、どちらも相手に対して否定的なことを伝える場面で使われますが、その性質は全く異なります。

この2つを分けるもっとも大きなポイントは、“何に向けられた言葉か(対象)”と、“何のために言うのか(目的)”です。

まず誹謗中傷とは、相手の人格や容姿、存在そのものに向けられるものです。「相手を傷つけたい」「憂さ晴らしをしたい」という悪意や感情が目的となっており、論理的な根拠よりも感情的な暴言が中心となります。

もう一方の批判とは、相手の意見や行動、あるいは作品などの成果物に対して向けられるものです。「より良くしてほしい」「間違いを正したい」という改善や議論を目的としており、そこには論理的な根拠が存在します。相手の人格そのものを否定するものではありません。

例を挙げて、この2つの違いを見ていきましょう。

たとえば、飲食店で料理の提供が遅かった場合です。

誹謗中傷の例:「店員の態度がトロくてイライラする。こんな無能な店員がいる店は潰れろ」
これはサービスの内容ではなく、店員の人格を否定し、「潰れろ」という攻撃的な言葉を投げかけているため、誹謗中傷にあたります。

批判の例:「注文してから料理が出るまで1時間もかかった。オペレーションを見直すべきだ」
これは事実に基づき、店のサービス改善を求める意見であるため、正当な批判と言えます。

また、SNSで誰かが意見を発信したときも同様です。

誹謗中傷の例:「そんなことを言うなんて頭がおかしい。育ちが悪いんじゃないの?」
これは意見の是非ではなく、相手の知性や生い立ちを攻撃しているため、誹謗中傷となります。

批判の例:「あなたの考え方のこの部分は、事実と異なるので賛成できません」
これは意見の中身に対する指摘であり、議論の一環です。

このように、人を攻撃しているのが誹謗中傷、事柄について論じているのが批判、と区別して考えることができます。自分が発しようとしている言葉が、単に相手を否定したいだけなのか、それとも相手の改善を願うものなのかを考えることが重要です。

なぜ誹謗中傷は起こるのか。その心理とは

誹謗中傷を行う人は、最初から悪意を持った恐ろしい人ばかりではありません。実は、普段は礼儀正しく、和を重んじるごく普通の人たちが、ふとしたきっかけで加害者になってしまうケースが非常に多いのです。

なぜそのようなことが起きるのか、主な心理的な理由を見ていきましょう。

1.歪んだ正義感

もっとも厄介な心理の1つです。相手が不祥事を起こしたり、マナー違反をしたりした際、「悪いことをしたのだから、叩かれて当然だ」「自分が社会の代わりに罰を与えてあげている」と思い込んでいます。

この心理状態では、自分は“正義の味方”であり「世直しのために良いことをしている」と錯覚しているため、罪悪感がほとんどありません。相手を傷つけているという自覚よりも、自分の正しさを証明したいという欲求が勝ってしまうのです。

2.匿名性による安心感

インターネット上では、相手に顔が見えず、名前も知られません。「誰が言ったかわからないから、何を言っても許される」「自分は安全な場所にいる」という感覚が、心のブレーキを緩めてしまいます。

普段の生活では言えないような過激な言葉も、画面越しであればまるで独り言のように簡単に書き込めてしまうのです。

3.ストレス発散や嫉妬

自分自身の生活に不満やストレスを抱えている場合、他人の幸せや成功が許せなく感じることがあります。

キラキラして見える芸能人やインフルエンサー、あるいは意見の合わない相手を引きずり下ろすことで、一時的な優越感に浸り、日頃の鬱屈した気持ちを晴らそうとするのです。この場合、攻撃そのものが目的化しており、相手が誰であるかは二の次になっていることも少なくありません。

4.集団心理(みんながやっているから)

1人では言えないことでも、みんなが言っていれば怖くないという心理です。「他の人も叩いているから大丈夫だろう」「みんなの意見に乗っかっただけ」と自分に言い聞かせることで、責任を感じなくなってしまいます。

すでに炎上している話題に対して、自分も石を投げるように参加してしまうのは、この「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という心理が働いているためです。

誹謗中傷をしてしまうその前に

ふとした瞬間に加害者にならないためには、送信ボタンを押す前に、一呼吸置くことが何よりも大切です。

言葉を発信する前に、一度自分自身に問いかけてみてください。

「その言葉を、相手の目の前で直接言えますか?」「それは相手を良くするための批判ですか?それとも傷つけるだけの悪口ですか?」「その書き込みを、あなたの大切な家族や友人が見ても恥ずかしくないですか?」

インターネット上の言葉は、一度放たれると完全には消すことができません。一時の感情に任せた書き込みが、相手の人生を壊し、そしてあなた自身の人生も変えてしまう可能性があります。

もし怒りや強い感情が湧き上がってきたら、まずはスマホやパソコンから離れてみてください。

画面の向こう側には、自分と同じように痛みを感じる生身の人間がいることを、常に想像すること。その少しの想像力が、誰かを救い、あなた自身を守ることにつながります。

文・構成/藤野綾子

精神保健福祉士、産業カウンセラー、EAPメンタルヘルスカウンセラー、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種の資格を持つ。大学に通い直し、心理の国家資格取得に向けて勉強中。教育施設、就労移行施設などでカウンセラー研修、実務も続けている。

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