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iモードの父・夏野 剛氏が語った「攻殻機動隊」から学んだ経営の3原則

2025.11.27

未来を描いた『攻殻機動隊』は、現実の経営にどんなヒントを与えるのか――。

 2017年にJ-WAVEと筑波大学が共同開催した「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2017 Supported by CHINTAI」。このイベントで行なわれた『攻殻機動隊』をテーマにしたシンポジウムで夏野剛さんは強烈な印象を残すひと言を放った――「経営者は『攻殻機動隊』から学べ!」。この発言の真意とは?

『攻殻』で学んだ3つの教訓をドコモ時代から実践している

「『攻殻機動隊』に初めて触れたのは単行本の第1巻でしたね。未来社会の描写があまりに鋭くて、すぐに大ファンになりました。何しろ僕はコンピューターオタクでしたから〝未来ってまさにこれだよな!〟と衝撃を受けたんですね」

 ハードSF好きを公言する夏野さんを魅了したのは作中に登場する先端テクノロジーだけではない。

「早速核心を話すと、経営者として参考にしたことが3点あります。まずは〝リーダーシップと組織運営の原則〟。例えば、指示待ちに徹したり、能動的に行動するけれど会社の利益を優先しなかったり、責任を取りたがらない上司もいますよね。でも、彼らの行動を完全にコントロールするのも、結果だけで判断するのも効率が悪い」

 そこで理想としたのが、主人公・草薙素子が属する公安9課だ。その実現のために、従業員が希望する部署のポジションへ応募してマッチングを図るFA型異動制度を導入したという。

「AI社会では自分が得意なものを伸ばしていくことがますます重要になると考えたからです。そして得意分野のスキルを効率的に伸ばすには、好きなことやってもらった方が絶対にいい」

 公安9課ではメンバー間で戦略と規律を共有したうえで、部下が自律的に役割を果たす模様が描かれている。その行動規範の大前提として、メンバーそれぞれの得意分野が明確化されている点に夏野さんは着目したという。

最先端の技術を使わない人、使えない人へ向けたバックアップ技術は
絶対に必要なんだって気づかされましたね

夏野 剛さん

近畿大学情報学研究所長
特別招聘教授
夏野 剛さん

東京ガス入社後、ベンチャー企業副社長を経てNTTドコモへ。「iモード」などの多くのサービスを立ち上げ、ドコモ執行役員を務めた。現在は現職ほか、KADOKAWA代表執行役社長などを兼任。

世界初のカメラ機能の開発・実装にも『攻殻』の影響が

「2つ目は〝技術戦略の原則〟。公安9課では完全義体の素子がいる一方で、トグサのようにほとんど義体化していない対極のメンバー同士が共存している。さらにおもしろいのは、現代よりも技術が高度化した社会なのに電話ボックスみたいな公衆端末が存在する。最新技術を使わない人・使えない人が必ず存在し、そういった人々をバックアップする技術が必要になることを示唆しているのです」

 ドコモ時代、夏野さんは携帯電話を開発する際に最新機能を詰め込んだハイエンドモデルと一緒に、機能を厳選した廉価版の開発にも注力。その最たる功績が「iモード」の開発、そして世界初となったQRコード読み取り機能の実装。「開発当初『iアプリよりもカメラの性能を優先すべきだ』という声もありました。でも、当時最新の『501iシリーズ』を持つような人はコンパクトデジタルカメラも持っていた。わざわざ性能が低い携帯のカメラ機能は使わない。だからカメラを生かす機能を開発すべきだと考え、QRコード読み取り機能を実装しました。こういった状況下で僕が常に頭に巡らせているのは〝これは素子が実装するものだろうけれど、トグサが実装するとしたら?〟という問いかけなのです」

知っているようで知らない「攻殻機動隊」入門ガイド、基本用語と世界観を解説!

SF作品の多くは、造語や示唆が多く、教養も試される。名作と名高い『攻殻機動隊』も例外ではない。設定を理解することが士郎ワールドの深淵に触れる近道だ。 すべてはコ…

技術が高度化したSF世界でも不完全な人間を描く

 3つ目は〝社会と人間の未熟さ〟。

「技術や社会がいかに発達しようとも、人間はずっと不完全なままであることも描かれています。政治家は相変わらず賄賂が好きだし、完全義体化しても性欲が残っていたり、AIを搭載した多脚思考戦車のタチコマだってオイルを欲しがる弱い面がある。また、政治や国家の在り方が進歩していないことも描写されていますよね。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』で描かれる〝笑い男事件〟の犯人がいつまでもわからないのと同じで、高度な技術を悪用した巧妙な犯罪が横行しているのに、国家は安全を守り切れない。そんなリアリティーのある社会観も『攻殻』から学ぶことができます」

 さらに〝完全義体〟であっても最後に頼りになるのは〝ゴースト〟という点もおもしろいと続ける。

「つまり、人間とは何か? どんな存在で、どう向き合うべきか?という普遍的なテーマを扱った作品なんですね。これこそが、世界的な経営者やクリエイターだけでなく、連載開始から36年たった今でも新たなファンを獲得している『攻殻』の魅力なのでしょう」

 最後に、『攻殻』の世界に入ったらどんな役割を担いたい?

「本音をいえば素子だけど、やっぱり公安9課の荒巻大輔なんだろうな。部下の責任を取って酷い目にあうけれど、ギリギリ生き残るみたいな。実際に東京五輪やサイバー攻撃があったけれど、今も生き残っていますから何とかなるんじゃないですかね(笑)」

「JUNK JUNGLE」

原作『攻殻機動隊』第1巻・第3話「JUNK JUNGLE」のひとコマ。ゴミ回収車で毎日巡回路を回る清掃局員が引き起こした事件を追う。作中で初めて電脳化が進んだ世界の日常生活が描かれた。

欄外注釈

ドコモ『501iシリーズ』

ドコモ『501iシリーズ』

最初にiモードに対応した携帯電話シリーズの総称。第1号機種は1999年2月22日に発売された富士通製の『デジタル・ムーバ F501i HYPER(通称:F501i)』(写真)、以後NEC製の『N501i』三菱電機製『D501i』、パナソニック製『P501i』などの対応機種が相次いで発売された。

タチコマ

©士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会

タチコマ

公安9課が保有するAIを搭載した多脚思考戦車。無人でも自立行動を行ない、1名の乗員が搭乗することも可能。2017年にはTVシリーズ同様、声優の玉川砂記子さんがボイスを担当し、神山健治監督がデザインを監修した1/8スケールの音声認識ロボットも発売された。

取材・文/鴫原盛之 撮影/高田啓矢 編集/渡辺和博

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