DIME2025年12月号では、映像化30周年を記念した『攻殻機動隊』を大特集! 原作者・士郎正宗氏への一問一答をはじめ、歴代監督、バトー役・大塚明夫氏とトグサ役・山寺宏一氏のスペシャル対談など、作品のキーパーソンたちが集結。AI時代の行方からリーダーシップ、組織運営まで、未来を先取りしてきた『攻殻機動隊』から、現代のビジネスパーソンが学ぶべきヒントを探っている。
今回は〝第4の攻殻機動隊〟こと『攻殻機動隊ARISE』(以下『ARISE』)で、若き素子たちが感情的にぶつかり合う姿を描いた黄瀬和哉総監督を直撃。『ARISE』は全4部のOVA作品で、イベント上映から始まり『攻殻機動隊 新劇場版』で幕を閉じた。そこで描きたかったことは何だったのか?

黄瀬和哉監督
きせ かずちか/1965年生まれ、大阪府出身。高校卒業後、アニメアールに入社。1989年に上京しProduction I.Gへ移籍した。同社を代表するアニメーター・監督。関わった代表作として挙げられるのは『機動警察パトレイバー』『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズなど。『xxxHOLiC』『メイドインアビス』シリーズなどのキャラクターデザインも多数手がける。
失敗も恋愛もする感情的な素子を描きたかった
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』に、作画監督として参加していた黄瀬和哉氏。当時から士郎氏の原作は知っていたという。
「押井さんがどうやって映画化するんだろう?と思っていたら『クールに作っちゃった』という印象です(笑)。関西人の士郎さんが描いた『攻殻機動隊』は内容が重くても、キャラクターはポップで軽みがある。僕はそういう原作の関西的な〝いじり〟を入れたかった」
『ARISE』では4部それぞれ監督が異なり、黄瀬総監督が統括する制作体制を採用。自身が監督として手掛けた「border:3」では、特にコミカルなシーンが目立つ。
「重苦しいのは好きじゃないし、笑いが欲しくて。ほかの3作は各監督がみんな大真面目にやるんでふざけてくれなかったな(苦笑)」
そんな『攻殻機動隊』の新シリーズを手掛けることが決まり、黄瀬総監督がまず考えたのは「構成をどうするのか」という点だ。
「原作のおいしいところは(押井監督に)すでに持ってかれていたわけで。それじゃあ、公安9課が結成されるまでを描こうと」
過去の『攻殻機動隊』シリーズで描かれてきた物語の〝前日譚〟ということもあり『ARISE』に登場する公安9課のメンバーはみんな若い印象。特に素子は顕著で〝パッツン前髪〟のビジュアルが話題に。性格も言動も実に若々しい。
「『ARISE』で一番こだわったのが、キャラクターの若返りでした。サイボーグとはいえ、素子も最初から優秀で敵を簡単に制圧できたわけじゃないはず。だからこそ〝失敗する素子〟を描きたかった」
声優陣を一新し、全員オーディションで決めたのもそのためだ。
「過去の『攻殻機動隊』シリーズで素子の幼少期を演じてきた坂本真綾さんを素子に起用したのも、オーディションの際に声がハマっていると感じたから。あくまで偶然の結果だったんですよ。ただ、声優陣の一新はスタッフから猛反発を受けました(苦笑)。声優さんたちも不安だったと思うので、最初のアフレコが始まる前に『何か言われても僕のせいなので』とお伝えしました。そのことで声優さんたちが批判されては困りますから」
『ARISE』の素子たちメンバーは若くて未熟。感情的で突っ走っていくことも茶飯事だ。経験が浅く、電脳ウイルスに感染してしまうこともしばしば。そんな一面が見られるのも〝前日譚〟ならでは。
「それと『ARISE』では、いつものメンバーの営みも描こうと意識しました。公安9課の面々だって、仕事だけをしているわけじゃない。それまでのシリーズでは食事の場面もほぼ描かれてこなかったので、素子が食事をしているシーンなどを意図的に入れました。表情も豊かに描いてます」
「border:3」では素子の恋愛模様を描き、攻殻ファンを驚かせた。
「それまでのシリーズで誰も明確に描いておらず、僕の中で意図したところがあり『border:3』は自ら監督をしました。『ARISE』では大まかなプロット的なものを脚本の冲方丁さんと相談して作成し、そこに各監督のリクエストを入れるかたちで冲方さんに無茶ぶりしてやってもらったんです。『border:2』の竹内敦志監督はバイクアクションがやりたいからと、バイクのデザインから変えていました。お任せしたことで、それぞれの監督の良さが出たと思います」
それまでに浸透した〝攻殻らしさ〟とは異なる側面を見せる作品となった『ARISE』だが、その一方で根底にある〝攻殻らしさ〟の強さを黄瀬総監督は実感したという。
「『攻殻機動隊』という作品は、物語にいくらでも広がりを持たせられるけれど、ベースとなる世界観は何をやっても崩れないし、壊れようがないんです」
『ARISE』が製作された2013年当時は、スマホの普及が加速していた頃。ゆえに、物語の中で使われるテクノロジーについては、たとえ『ARISE』が〝前日譚〟とはいえ、それまでの作品から時代をさかのぼることはしなかったという。
「『S.A.C.』で使われていたのは携帯電話でしたが『ARISE』だと荒巻以外はスマホを所持させました」
『ARISE』のシリーズを締めくくる『攻殻機動隊 新劇場版』では、それまでのシリーズとのつながりが明示されるシーンも描かれる。
「桜のもとで監視をするという原作にもあるシーンを入れて、素子も大人の姿にしています。そんな『新劇場版』も含めて『攻殻機動隊』シリーズに携わらせてもらい、本当にいろんな人との出会いを得られました。自分にとって、とても大きな財産になっています」

『ARISE』では素子の〝現在進行形の恋人〟が登場。愛を確かめ合う素子の姿は、それまでの『攻殻機動隊』シリーズからは想像できないほど。付き合いが3か月〝長続き〟したことを、バトーたちが揶揄するコミカルなシーンも見どころだ。
2013年『攻殻機動隊 ARISE』「border:1 Ghost Pain」
配信先:Netflix|Amazon Prime Video|U-NEXTほか

雨の降る墓地で荒巻の背中に銃口を向ける、全身義体のサイボーグ・草薙素子。素子を監督する陸軍・501機関クルツ中佐、素子を爆弾犯だと疑うバトー、刑事のトグサ……それぞれの思惑が交差していく。59分。
2013年『攻殻機動隊 ARISE』「border:2 Ghost Whispers」
配信先:Netflix|Amazon Prime Video|U-NEXTほか

荒巻の後押しで独立したものの公安への誘いは断る素子。自らの部隊結成を思案する中、ハッキングされた〝ロジコマ〟の移送を受諾。その最中、突如「眠らない男」バトー、ボーマ、イシカワの襲撃に遭う。57分。
2014年『攻殻機動隊 ARISE』「border:3 Ghost Tears」
配信先:Netflix|Amazon Prime Video|U-NEXTほか

義体技師と逢瀬を交わす素子に爆弾テロの急報が届く。犯人は電脳ウイルス「ファイア・スターター」により偽の記憶が植え付けられていた。一方、トグサはダム爆破事件を追い、ある博士にたどり着く。57分。
2014年『攻殻機動隊 ARISE』「border:4 Ghost Stands Alone」
配信先:Netflix|Amazon Prime Video|U-NEXTほか

2028年、デモを見守る素子達の前で「ファイア・スターター」による無差別発砲事件が発生。事件を追う中、全身義体の少女エマと出会う。彼女に〝ダイブ〟した素子は「ダブルゴースト」の存在を知る。60分。
2015年『攻殻機動隊 新劇場版』
配信先:Netflix|Amazon Prime Video|U-NEXTほか

西暦2029年、大使館で籠城事件が発生。素子たちは独立部隊で突入するが、同時刻に内閣総理大臣を暗殺という事態に。背後には義体開発を左右する技術的問題「デッドエンド」などの存在があった。100分。
取材・文/宇野なおみ 撮影/タナカヨシトモ
© 士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会
© 士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会
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