経済産業省では社員食堂など、働く人のための食事補助を目的とした税優遇のため、2026年度税制改正で、従業員1人当たりの非課税限度額の引き上げを検討している。この非課税限度額は、過去40年間、据え置きされていたもので、ビジネスパーソンにとっては朗報である。昨今食事に関する福利厚生への注目度が増してきている。
背景には、オフィス出社が進み、物価高や店の混雑などで、ランチの量や栄養に満足できない人が増え、企業間での“ランチ格差”が広がっている点がある。そんな中、新鮮で種類豊富な野菜や果物を、割安な社食としてビュッフェ形式で食べられる新しいランチサービスがスタートした。
オフィスにサラダ&フルーツバーをケータリングする「megukuru(めぐくる)サラダ&フルーツランチ」は、一般財団法人日本インキュベーションセンター(東京都品川区、以下JIQ)と、カフェ事業やフードサービスを展開するシーエヌシー(東京都品川区、同CNC)が今秋から開始した社食サービスである。ランチ格差の解消に役立つと同時に、野菜不足に悩むビジネスパーソンの健康をサポートできる。さらに中間流通を通さないため農家の安定収入や、規格外野菜の有効活用にも役立つ新業態として、注目を集めている。
旬の野菜や果物を直送して美味しさを確保
今回、CNCとJIQが目指したのは、エシカル消費のプラットフォーム。それを具体化した社食サービス「megukuru サラダ&フルーツランチ」は、農家と消費者・企業をつなぎ、野菜不足に悩むオフィスワーカーの食の悩みを解消すると同時に、農家の経営安定化と格差解消につながる取り組みとなっている。さらに、利用する企業にとってもESG(環境:Environment、社会:Social、企業統治:Governance)経営の実現につながり、「おいしいランチのある会社」としての魅力を発信できる。
もともとJIQは日本の地域産業の活性化や、農家など一次産業と企業を連携させた創業を支援してきた。今回JIQはネスレと連携したカフェ事業やフードサービスを展開するCNCへ環境や働く人に配慮した優良農家をつなぎ、CNCは旬の野菜やフルーツ、鶏卵などの農作物を地域農家から直接定期的に買い取ってCNCが持つセントラルキッチンで調理・パック詰めしてオフィスに届ける。
「サラダはマンネリ化しないように、10種類以上の野菜やフルーツ、ハーブオイル、ドレッシングを取り揃えました。ドレッシングやハーブオイルは自家製で、季節によって味が変わるほか、利用者の好みに合わせて自分でカスタマイズできます。また、サラダやフルーツだけでなく、炊き立てご飯とカレーなど総菜や、生卵などもそろえているため、このランチビュッフェだけでお昼を完成させることもできますし、持参した弁当にサラダだけ足すという食べ方も可能です」(CNC代表取締役 海保学さん)
利用する企業側では調理場が無くても料理を提供できる上、設置スペースは空いている会議室程度で十分な広さである。会社は提供したい週の頻度に応じて固定費(食器代、運送料、人件費等)を支払う。農作物が中間流通を介さない仕組みのため、一般の店舗で提供するサラダバーに比べると新鮮で費用も安く抑えられる。
今回、野菜を提供したフォレストファームの林亨一さんは、規格外作物の有効活用について期待しており、「丁寧に作っていても形がいびつなものがどうしても出てしまいます。規格外というだけで味は美味しいのに、食べてもらえないのは本当に残念でした。今回はフードロスが出ない、自然に寄り添った食の提供という面でも、意義があると思います」と言う。
日本ロレアルでの導入も好評
今秋から化粧品大手の日本ロレアル(東京都新宿区)では、月曜日から金曜日まで、この「megukuru サラダ&フルーツランチ」を導入している。1皿税込み550円からで、10種類以上の新鮮野菜のサラダや養鶏農家から仕入れた鶏肉のボイルなどの総菜、ご飯、果物をビュッフェスタイルで提供している。これまでは丼やパスタなど、社員食堂の定番メニューが提供されていたが、野菜たっぷりのメニューは大好評だと言う。
日本ロレアルの本社は西新宿にあり、周辺にオフィスビルが多く、昼食時は多くの人が店に並ぶ。また、仕事柄、美容や健康のために野菜や果物をできるだけ摂取したいと考えているヘルシー志向の社員も多く、megukuruはスタートから人気を集めている。
さらに利用者からは出社日のモチベーションアップにつながったという声や、カロリーを抑えられてダイエットに役立つといった声もあがっていると言う。単なるランチ支援ではなく、社内エンゲージメントも高まっていた。
CNCではこの「megukuru サラダ&フルーツランチ」を提供する企業を、2027年までに約50社まで拡大する目標を掲げている。
ランチでオフィスワーカーと生産者がつながる
CNCでは単にランチで野菜やフルーツを提供するだけでなく、実際に作物を育てている地域のストーリーを利用者に知ってもらうために、生産地域を紹介するPV映像を流したり、農家を紹介するPOPなどを設置する。
また、実際に野菜をその場で買えるマルシェを開催したり、生産者をオフィスに呼んで、作っている野菜に対するこだわりを聞くなどの、交流イベントなども計画している。オフィスワーカーと生産者とが結びつくことで、相互理解が進み、これまで知る機会が少なかった農家の問題を、自分自身の問題として身近に感じられる意識変化も期待できる。
利用が拡大すれば、ランチビュッフェの食物残渣をコンポストで肥料にしてさらに野菜に還元するようなサイクルも可能になる。農家と企業の結びつきが深まれば、オフィスランチから、農業の流通が変わるかもしれない。
megukuruプロジェクトはJIQのエシカル認証を取得
megukuruプロジェクトに参加している、働く人や環境へ配慮した農事業体をJIQは「エシカル認証」の農事業体と定めている。「エシカル認証制度」とは、人や社会、環境に配慮しているかを第三者であるJIQが客観的に審査し、基準を満たした農事業体に認証を与える制度のこと。農業分野での認証制度は他にも、有機JASマークや、適切に管理された森林から作られた木材製品に与えるFSC認証などがある。
今回のエシカル認証は
1)土地の風土や自然に寄り添った農業をしているか
2)農業に関わる人の暮らしを支えているか
3)地域の環境や生態系を守っているか
この3点を評価軸とした認証制度であり、今回の社食サービスに参加している千葉の10戸の農家は3つの評価軸のうちいずれかを一つ以上クリアしている。
「農家のストーリーや持続性に配慮してものを選ぶエシカル消費や、ESG投資を推進し、“共感のめぐり”を生み出すために活動していきたい」というJIQでは、単に認証するだけではなく、農業や地域の価値向上に向けた活動を積極展開していく予定である。
今回のmegukuruプロジェクトのランチサービスでは、1)働く活力やヘルスケアを実現させたいオフィスワーカー、2)安定的な経営を目指す農家、そして3)社員の健康とESGやSDGs推進により企業価値を高めたい会社、の3つがすべて幸せになる三方良しの仕組みとなっていた。
文/柿川鮎子
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ニューヨークのファッションデザイナー兼テクニカルデザイナーとして活躍しているあっちさん。運営しているYouTube「NEW YORK STYLE/ニューヨークの…







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