世界的に富裕層やエリート層といった経営側と一般市民との格差の拡大が問題になっているが、それは日本でも同じ状況といえる。それでは実際の経営者たちはどのぐらいの収入を得ているのか?
多くのグローバル企業にサービスを提供しているデロイト トーマツ グループは、日本企業の役員報酬の水準や株式報酬制度などの導入状況、役員指名、コーポレート・ガバナンス領域も含めた中長期的な企業価値向上に資するトピックを包括的に調査した「役員報酬サーベイ(2025年度版)」を公開した。
この調査は、2002年の開始以来20年以上も実施している役員報酬に関する日本で最大規模の調査で、今年度もデロイト トーマツ コンサルティングと三井住友信託銀行が共同調査し、プライム上場企業を中心に過去最高の1319社が回答している。
それによれば売上高1兆円以上の企業では、CEO・社長の報酬総額の中央値が過去最高を記録していた。
売上高1兆円以上企業のCEO・社長の報酬総額は1.2億円超
・CEO・社長報酬総額の報酬水準推移 (売上高1兆円以上企業 中央値)
・役員報酬におけるESG指標の活用状況
売上高1兆円以上企業でのCEO・社長の報酬総額(中央値)は、1億2390万円で過去最高額を記録。2021年の9860.2万円から25.7%増だった。これは企業価値向上を促進させるためのインセンティブとして報酬上昇が進んでいることを示している。
プライム上場企業では、2025年のCEO・社長の報酬総額は7517.3万円で、2022年の6435.5万円から16.8%増だった。プライム上場企業は2022年から継続して上昇しており、こちらも企業価値向上を促進させるための動機付けとして報酬上昇が進んでいるようだ。
CEO・社長の報酬水準(標準額)を引き上げた137社の理由では、「ベンチマーク企業の報酬水準上昇を踏まえた見直し」(64%)がもっとも多く、「業績状況を踏まえた水準の見直し」(28%)、「従業員報酬の賃上げに伴う水準の見直し」(26%)、「物価上昇による水準の見直し」(22%)が上位だった。
「ベンチマーク企業の報酬水準情報を踏まえた見直し」は前年から6ポイント、「従業員報酬の賃上げに伴う水準の見直し」と「物価上昇による水準の見直し」は前年から各5ポイント増加している。パフォーマンスへの対価だけでなく、経済状況や従業員報酬とのバランスを考慮して報酬水準を見直す動きも徐々に拡大しているようだ。
社外取締役の報酬総額は1518万円。女性社外取締役登用も加速
コーポレート・ガバナンスの高度化を目指して執行と監督を分離させることが政府や投資家から求められているが、これにより監督を担う社外取締役の獲得は急務になっている。
上場企業のうち、全取締役に占める社外取締役の人数割合が3分の1以上の企業は91%(前年比+2ポイント)で、過半数を確保している上場企業は21%(前年比+2ポイント)だった。
プライム上場企業でも社外取締役を過半数確保する企業は26%で、取締役会がモニタリング・ボードとして機能するように大手企業を中心に社外取締役を獲得する傾向は続きそうだ。
この背景もあって、優秀な社外取締役を獲得するために報酬も上昇している。売上高1兆円以上企業の社外取締役の報酬総額水準は、中央値で1518万円と前年から2.6%増加している。
多様性の確保が社外取締役の獲得競争を進める要因にもなっている。日本政府は、プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%とする目標を掲げているが、女性取締役比率が30%以上のプライム上場企業はわずか9%だった。
上場企業全体では社内取締役の30%以上が女性である企業は3%なのに対して、社外取締役の30%以上が女性である企業は54%(前年比+9ポイント)と半数以上だった。
社外取締役の自社以外の兼務社数では、男性は1.6社なのに対して女性は2.1社と多い。社外取締役が複数社を兼務することに問題はないが、女性社外取締役の兼務社数が過多となることでパフォーマンスを発揮できない懸念もある。
兼任制限の仕組みや社外取締役が自社の役員として貢献できているかは、実効性評価などで確認していく必要はありそうだ。
ESG指標を役員報酬に連動させる売上高1兆円以上企業は67%
・人的資本経営の具体的な検討状況(Level平均)
短期・長期のインセンティブ報酬を導入して、それらの報酬にESG指標を組み込むプライム上場企業と売上高1兆円以上の企業の割合は、それぞれ前年から4ポイント増で27%と67%という結果だった。
日本国内のサステナビリティ開示基準が2025年3月に策定されたことを受けて、サステナビリティ目標に役員をコミットさせるために、評価へESG指標を反映させる企業は今後も拡大していきそうだ。
人的資本に関する戦略並びに指標・目標の開示が2023年3月期の有価証券報告書から求められるようになって3年目を迎えた。
人的資本経営の取り組みもしくは検討を実施している(完了含む)企業の割合は73%(960社)で、2023年(61%)から12ポイント増加しており、着実に人的資本経営の取り組みが浸透していることがみえる。
結果を上場区分別でみると、取り組み状況には差がみられたという。
プライム上場企業は、62%が取り組みを実施中または完了していると回答していたが、スタンダード上場企業では38%、グロース上場企業は24%で、検討段階にとどまる割合が大きかった。
限られた人員で事業運営する企業では、社員ひとりずつのスキルや能力を人的資本と捉えた上での育成・活用が企業価値向上の鍵になる。
大手企業以上に成長や能力発揮のための環境整備など人的資本経営への積極的な取り組みが求められているといえる。
ちなみに人的資本経営の検討・取り組み内容は、「業務のデジタル化推進」(4.1点)や「時間や場所にとらわれない働き方の施策立案」(3.7点)、「ハイブリットワークの推進」(3.7点)、「人事制度と企業文化の連動」(3.7点)が先行する結果だった。
これは働き方改革や新型コロナウイルス感染症対策などで、ITを活用した働き方が普及したことに起因。そのほかの項目については前年から大きな変化はみられないが、3か年でレベル平均を比較すると着実に取り組みレベルが向上している。
プライム上場企業の取り組み状況では、「社外での学習機会の戦略的提供、社内起業・出向企業等の支援」と「副業・兼業等の多様な働き方の推進」で2023年から0.4点の上昇がみられた。企業価値向上に寄与するイノベーション提案や自社にない知見を獲得するための取り組みに力を入れている状況がみえる。
CEO・社長の報酬総額が過去最高を記録し、社外取締役も人材確保を理由に役員報酬が上昇している。これが業績に直結して、一般社員にも還元されれば好循環が生まれそうだ。
「役員報酬サーベイ(2025年度版)」概要
調査目的:状況日本企業における役員報酬の水準、役員報酬制度やガバナンス体制、コーポレートガバナンス・コードへの対応などの現状に関する調査・分析
調査期間:2025年6月~2025年7月
参加企業数:1319社(集計対象役員総数:2万3969名)
上場企業:1140社(うちプライム上場企業673社)、非上場企業179社
参加企業属性:製造業535社(うち医薬品・化学122社、電気機器・精密機器118社、機械82社など)、非製造業784社(うち情報・通信179社、サービス166社、卸売113社など)
https://www.deloitte.com/jp/ja/services/consulting/services/dex-i.html
構成/KUMU







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