3. 曖昧さを許さない「評価」と「管理体制」の構築
「役割」を明確に設定するだけで、すべての問題が解決するわけではありません。特に、日本の従来型組織にありがちな、「評価が曖昧」で「少しずつ給与が上がっていく」というような仕組みの中では、せっかく決めた役割も形骸化してしまいます。
役割が曖昧でも、責任を果たさなくても、とりあえず謝罪すれば済んでしまう。「すみません」の一言でリセットされ、評価にも大きく響かない。そのような環境では、緊張感が生まれるはずもありません。
ハイブリッドワークで成果を出すためには、まず経営層や管理職が「どのような状態が理想か」を定義する必要があります。 それは、リモートであろうと出社であろうと共通のものです。
- 成果が出ている状態(チームや個人のKGI・KPIが達成されている)
- 成果を出すための個別の役割が設定されている状態(誰が何に責任を持つか)
- 各々が役割を正しく認識している状態(ミッションを自分の言葉で説明できる)
- 認識に基づき、報連相と管理が機能している状態(問題が早期に発見・解決される)
この理想の状態と、現在のギャップを埋めるために必要なのが、「管理体制」と「ルール」です。
具体的には、「組織図上の役割」「役割を果たすための指示命令系統」、そして「属人的ではない会社の評価基準」の3つです。
これらが「正しく設定されている」とは、例えば、従業員の85%以上が「あなたの役割は?」「誰に報告すべきか?」「今期の評価基準は?」という問いに即答できる状態を指します。
しかし、ルールを設定するだけでは不十分です。リモートワークは、良くも悪くも「監視されていない」環境です。従業員がその時間をどのように使っているかは不明瞭であり、だからこそ自己判断が入りやすくなります。
「忘れていました」「これくらい良いだろう」といった小さな慢心が、組織全体の成果を蝕んでいきます。
だからこそ、管理が必要です。重要なのは、「成果を出すことに責任を持てるか」ということです。そして、その責任を果たせているかどうかは、プロセスではなく「結果」で判断するしかありません。
ここで重要になるのが、「評価項目」の明確な設定です。そして、その評価を得られなければ、給与や賞与が下がる、あるいは昇進が遠のくといった、「信賞必罰」の仕組みです。
あえて強い言葉を使えば、適度な「緊張感」がなければ、多くの人は楽な方に流れてしまいます。
もちろん、向上心が高く、自走できる人材もいます。しかし、多くの人は「どうする?」と問いかけ、管理し、コミュニケーションを取ることで、初めて安定したパフォーマンスを発揮します。
この管理と緊張感の欠如こそが、ハイブリッドワークで「言い訳」が発生する最大の要因です。
この緊張感は、明確な役割設定と、それに応じた評価・給与が連動することによってのみ生まれます。もちろん、結果を出した際に、正当に評価され、称賛されるという「承認欲求」を満たす仕組みも、モチベーション維持には不可欠です。
4. リモートで「一体感」を醸成する仕掛けづくり
役割を定義し、評価体制を整えた。しかし、それだけではチームとしての一体感や、活発なコミュニケーションは生まれてきません。むしろ、成果主義が強まることで、個人商店化が進み、チームがギスギスしてしまう危険性すらあります。
人は、「同じ環境にいる」「同じルールを守っている」という共通項によって所属意識を感じます。例えば、社内での「同期」というだけで仲間意識が芽生えたり、同じ趣味や価値観を持つことで親近感が湧いたりします。
物理的に離れているリモートワークは、この「所属意識」を最も作りにくい環境です。では、どうすれば良いのでしょうか。リモートだからこそ、意図的に「仕掛け」を作る必要があります。
- 全員参加の「場」の設計
物理的に会えないからこそ、意識的に「顔を合わせる場」を作ります。例えば、週に一度、全社(あるいは全部門)が参加するオンライン朝礼を義務化し、そこではカメラを全員オンにすることをルールとします。これにより、「自分はこの組織の一員である」という意識を定期的に認識してもらいます。
- 共通ルールの徹底
些細なことでも構いません。例えば、「チャットの返信は2時間以内に(確認だけでも)行う」「日報は指定のフォーマットで必ず18時までに提出する」「Web会議のアジェンダは前日までに共有する」といった共通のルールを作り、それを全員で徹底して守ります。ルールを守るという共通体験が、一体感を醸成します。
- チーム共通の行動と成果
本当の意味での一体感は、個人として、そしてチームとして「成果を上げた」という成功体験によって生まれます。そのために、チームとしての共通目標を設定し、それを達成するための共通の行動(例えば、週に一度のブレスト会議、顧客事例の共有会など)を設けることが重要です。困難を共に乗り越え、成果を出した経験こそが、最も強固な一体感の土台となります。
コミュニケーションとは、本来「答え合わせ」のために行うものです。リモート環境は自己判断を促しやすいため、その「答え」がズレていないかを確認するための報連相が、出社時以上に重要となります。
ハイブリッドワークを成功させるには、まず環境づくり(役割と評価)を整備し、その上で、守るべき共通ルールを徹底し、話す回数を増やしていくことが不可欠です。
まとめ
ハイブリッドワークの導入で浮き彫りになった課題の本質は、「場所」の問題ではなく、「管理体制」と「組織文化」の問題です。コミュニケーション不足や一体感の欠如は、リモートが原因なのではなく、従来から内在していた「役割の曖昧さ」「評価の曖昧さ」「所属意識の希薄さ」が、可視化されたに過ぎません。
Zoom社などが「出社」を一部義務付ける方針を選んだのも、その曖昧さを解消する手段として「リアルな場」が効果的だと判断したからです。
今、ハイブリッドワークの壁に直面している企業がやるべきことは、リモートか出社かの選択を悩むことではありません。以下のステップで、自社の「仕組み」を再定義することです。
- 理想の定義: まず、自社が目指す「成果の出ている状態」を具体的に定義します。
- 役割の明確化: その成果を出すために、各従業員が負うべき「役割(責任範囲)」を明確にします。
- 評価との連動: 役割の達成度と「評価・報酬」を明確に連動させ、信賞必罰の緊張感を導入します。
- ルールの徹底: リモートでも機能する「共通ルール」を作り、全員で徹底して守る文化を醸成します。
ハイブリッドワークは、企業の「曖昧さ」を許さない、いわば組織の“リトマス試験紙”です。この機会を、個々がプロフェッショナルとして責任を果たし、成果によって正当に評価される、強い組織へと変革するチャンスとして捉えられるのではないでしょうか。
文/識学コンサルタント 武田







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