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「ヤクルト1000」は世界でもブームを起こせるか?日本でのブームは一段落、次に狙うは欧米市場

2025.11.12

ヤクルトが海外事業の強化を進めています。

2025年9月にオランダに研究開発の新たな拠点を開設しました。ヤクルトは中期経営計画の中で、R&D拠点整備などグローバル展開強化に向けた投資などとして2025年から2027年に1200億円を投資する計画を明らかにしていました。

ヤクルトは新興国市場に強みを持っている会社。しかし、2026年にはアメリカの新工場が稼働を開始する予定で、先進国への販売も強化します。

ヤクルトが新興国に強みを持つのはなぜなのか?

ヤクルトは、創業者である医学博士・代田稔氏が予防医学を念頭に微生物研究に取り組む中で発見した「乳酸菌 シロタ株」が商品開発のルーツ。1935年にヤクルトの販売を開始しました。当時の日本の衛生状態は決して良いものではなく、子供の感染症予防という観点で飲料市場に浸透しました。

「乳酸菌 シロタ株」は一定の期間を過ぎると体外に出てしまうため、継続的に飲む必要があります。誰もが手に入る低価格での販売が重視されたため、必然的に大衆飲料となりました。感染症予防と低価格。この2つの要素が新興国市場に強みを持つ背景にあります。

ヤクルトは1964年にはすでに台湾に進出して海外展開を果たしていました。マーケットの開拓は新興国を中心に進みます。

2025年4-6月における各国の1日平均の売上本数を見ると、日本は932万本。インドネシアが553万本、メキシコは398万本、ブラジルが136万本、ベトナムが123万本。一方、アメリカは72万本、イギリスが22万本、ドイツが11万本、イタリアは10万本程度。

日本以外は東南アジアや中米、南米の販売本数が圧倒的で、先進国への普及はあまり進んでいません。

ヤクルトは「ヤクルトレディ」という極めて稀なワントゥワンマーケティング手法をとっています。顧客視点のこの販売手法は新興国の多くでも踏襲されており、現地のスタッフを教育しての地道な宣伝活動でシェアを獲得しました。

ヤクルトは継続的に飲むことで効果を発揮するため、ある程度の顧客開拓が進むと持続的な収益を獲得がしやすいという特徴があります。

しかし、好調だった国の高止まりが鮮明になりました。2025年4-6月のインドネシアの1日平均売上本数は前年同期間比で1.1%減少。メキシコは0.7%のわずかな増加に留まりました。

さらに中国の広州第一工場の閉鎖も決定しています。

インドネシアは緊縮財政とトランプ関税で中間層の消費が減退。中国も不動産市況の急悪化に、アメリカの高関税政策で輸出産業も打撃を受けました。景気後退は鮮明。トランプ関税に揺さぶられているのはメキシコも同じです。

「Yakult1000」が爆発的なヒットを飛ばしたが…

そして、ヤクルトは主力の日本事業でも苦戦しています。2024年度の日本事業は3.6%の減収、24.4%の営業減益。これは主に「Yakult1000」の記録的な大ヒットからの反動です。

DIMEトレンド大賞にも輝いた2022年度の日本の1日平均売上本数(乳製品全体)は1099万本。2021年度比で12.4%も増加していました。しかし2024年度は968万本。

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爆発的ヒットを飛ばしていたころと比較をすると12.0%減少しており、ヒット前の水準よりも下がりました。

足元ではヤクルトレディによる草の根運動的な販売活動を継続しており、緩やかに販売数は上向くと見られています。しかし、ブームによる反動は会社にとって影響が大きいものとなりました。

ただし、日本は人口減少が見込まれているエリアであり、中長期的な成長基盤として決して盤石とは言えません。ヤクルトは国内市場も引き続き重視しているものの、伸びしろは海外市場の方が大きいように見えます。

ヤクルトは2025年から2030年までの中期経営計画において、2024年度に2429億円だった海外売上を2030年度中に1.4倍の3300億円まで引き上げるという目標を立てました。

海外のR&D拠点整備など、グローバル展開に向けた活動を活発化させるため、2025年から2027年までで成長投資は1200億円、2028年か2030年までで800億円を計画。合計で2000億円もの成長投資を実行する計画です。

アメリカとヨーロッパを攻略できるか?

アメリカで販売されているヤクルト

海外展開のポイントは先進国での販売強化を図ろうとしていること。2026年9月に稼働を開始するアメリカ「ジョージア工場」では1日179万本のヤクルトを生産する能力を持ちます。

アメリカでは2014年にカリフォルニア州で生産を開始しており、2019年に販売ネットワークを全土に拡大。スーパーマーケットなど小売店で販売しています。

ヤクルト社長の成田裕氏は、日経MJのインタビューに応えてアメリカへの販売強化に意欲を見せていました(「ヤクルト本社社長「米国にもヤクルト1000」 欧米投資家から関心」)。

「Yakult1000」は、睡眠の質に関心がある金融機関で働く人たちの潜在的な需要が大きいと見ているのです。

アメリカは国土が広大で移動範囲が広く、人件費も高いことからヤクルトレディの仕組みを十分に整備することができません。そのため、小売店での販売が中心。得意な販売手法を使うことができませんが、「Yakult1000」がヒット商品となればブランド認知は一気に進むはず。

ヤクルトは機能性が高いドリンクのため、一般的なソフトドリンクやアルコール飲料のように、多額の広告宣伝費を投じて市場を開拓するよりも、その効果を実感してもらうことが最も効果的なマーケティングです。「Yakult1000」はその潜在性を持っているように見えます。

ヨーロッパの販売強化にも乗り出しました。統括会社ヨーロッパヤクルトがオーストリアヤクルトを10月1日に吸収合併し、事業運営の効率化を図りました。組織再編で販売体制を強化したのです。

そして、9月にオランダにグローバルなR&D体制構築の拠点を開設。ヨーロッパ各国における法規制や消費者ニーズに対応するといいます。

ヤクルトが次の時代に向けて歩み始めました。

文/不破聡

Author
大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融、経営戦略を中心とした記事を執筆中。得意分野は外食、ホテル、映画・ゲーム、エンターテインメント業界など。

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