GS Trophyで芽生えた「絆」を日本のライダー文化へ
2014年、BMW Motorradが開催した「GS Trophy」の日本代表として、カナダの雄大な大地を走った水谷太郎氏。
国や言葉の壁を越えて同じバイクを愛する仲間と出会い、助け合いながら走るなかで「ライダー同士の絆」の力を強く感じたという。その経験とドイツのツアラテック創業者ハーバート・シュバルツ氏との出会いから「この絆を日本にも広げたい」と考え、ツアラテックジャパンを立ち上げた。装備販売にとどまらず、“冒険を共有する文化”を日本に根付かせること。
それが、水谷氏がツアラテックジャパンに込めた使命である。
ツアラテックのルーツ
ツアラテックは1999年、ドイツ南部で誕生した。創業者のハーバート・シュバルツ(Herbert Schwarz)氏は、もともと電気技術者であり、1990年代からサイドビジネスとしてアルミ製サイドケースを製作していた。
当時のツーリング用ケースは樹脂製が主流で、転倒すると破損し旅が続けられないことも多かった。シュバルツ氏は「ぶつかっても変形するだけで修理できる」アルミ素材の特性に着目し、旅を中断させない装備づくりに挑んだ。
1997年にはその電気技術を活かし、KTM・LC4用のラリーコンピューターを開発。ラリーレイドやツーリングで得た実践的な経験をもとに、1999年にツアラテック社を設立した。
現在では世界40カ国にネットワークを築き、アドベンチャーツーリングの世界的ブランドへと発展している。
GS Trophyが全ての始まりだった
ツアラテックジャパン代表の水谷太郎氏は、もともと会社経営者でありながら、根っからのバイク好きだ。モトクロス、エンデューロ、トライアル、モタード、ロードレースと幅広いジャンルを経験してきた。
転機となったのは2014年にBMW Motorradが開催した「GS Trophy」。日本代表としてカナダ大会に出場し、現地でツアラテック創業者ハーバート・シュバルツ氏と出会う。
「19カ国16チームのライダーが集まって、1週間で約2300kmを走りました。夜になるとキャンプサイトでバイク談義に花が咲きました。言葉がわからなくても同じ趣味の仲間としてすぐに打ち解けられました。このコミュニティの心地よさに惹かれて、日本でもやりたいと思ったのがツアラテックジャパンを作るきっかけでした」と水谷氏は語る。単なるビジネスではなく、「旅の自由と安全を支える文化を日本に根付かせる」ことこそ設立の目的だった。
ツアラテックジャパン設立の理念
水谷氏は「ツアラテックを輸入して売るだけの会社にはしたくなかった」と言う。「製品を通じて旅の価値を広げたい。そのためには、まず日本のライダーが“装備で旅が変わる”ことを体感できる場所が必要だったんです」
ショールームでは製品展示に加えて、ショップ近郊でのツーリングや練習会も開催。「ちょっと走って、焚き火をして帰ってくる」――そんな気軽なイベントから始め、旅の文化を日常に取り戻す活動を続けている。
また年に一度はツアラテック・トラベルイベントを開催し、ライド、ゲーム、食事、語らい、キャンプなどを体験、スキルに合ったライディングスクールも実施される。ツアラテックジャパンは、製品を“売る場所”から“冒険を共有するコミュニティ”へと進化している。
別次元の自由を体験する旅、モンゴルデザートチャレンジラリー
数ある活動の中でも、近年特に人気を集めているのが「モンゴルデザートチャレンジラリー」だ。これは「自分のバイクでモンゴルを走ろう」という海外ツアー形式のツーリングで、水谷氏が2018年にモンゴルを走った体験がきっかけとなった。「別次元の広さと美しさに圧倒されて、ぜひ日本のライダーにもこの世界を体験してほしいと思った」と水谷氏は語る。
2022年に試験的に第0回を開催。9日間で1日平均300kmを走破するハードな内容だったが、以降はコースを再設計し、昨年と今年は1日約200kmと距離を短縮。「景色のいい場所でゆっくり休んだり、写真を撮ったりする時間を増やしました。いまは“走りながら楽しむ”旅の形に落ち着いています」
リピート率は50%を超え、毎回キャンセル待ちが出るほどの人気イベントに成長。2026年は1回12名×2クルーでの開催を予定しており、日本人ライダーによる“モンゴル・アドベンチャー文化”がいよいよ本格化する。
注目のオリジナルプロダクト
店内には、ツアラテックの象徴ともいえるアルミパニアをはじめ、機能性ウェアや防水バッグ、ラリー用ナビマウントなどが並ぶ。
特に人気が高いのが、アドベンチャー用ウェアとブーツ、そしてオフロード対応ヘルメットだ。
●ヘルメット:長距離でも疲れにくい設計で、視界の広さと快適性を追求。
●ブーツ:悪路での操作性を重視しつつ、歩行時の快適さも確保。
●ウェア:防水・防風性能と通気性を兼ね備え、四季を通じて快適な着心地を実現。
どの製品にも共通するのは、「安全・快適・探求」という三つの価値を形にしている点だ。
R1300GSで体感した装備の哲学
筆者自身のBMW「R1300GS」を持ち込み、ツアラテック製のエンジンクラッシュバーとフェアリングクラッシュバー、ライトガードを装着してもらった。取り付けは専用設計だけに精度が高く、作業はスムーズに進んだ。ガード類は軽量ながら剛性があり、転倒時のダメージを最小限に抑える設計が施されている。さらに重要な役目として、1人でマシンを引き起こすためのレスキューバーとして使えるのだ。
装着を待つ間に水谷氏指導の元、店内のデモ車両のR1300GSを実際に倒して、引き起こしのコツを伝授してもらった。まず、倒れた側にハンドルを切り、左手はハンドルを右手はフレームを持って、腕を曲げずに伸ばしたまま、右足を踏み込んで、ラグビーのタックルのように前進する。あくまでもバイクを起こすのではなく足で前進すると自然にマシンが起き上がってきた。腕を曲げずにマシンが垂直になるまで起き上がったら、サイドスタンドを出して固定すれば完了。この方法を使えば左右どちらに倒れても引き起こせるが、連続3回が限界だった。実際は地面のグリップが悪い場合が多く、引き起こしの前に人とバイクの足場を固めることも重要だという。
「装備は安全のためだけでなく、冒険を自由にするためのものです」
そう語る水谷氏の目指す先には、旅を通じて人がつながる新しい文化がある。
ツアラテックジャパンは、冒険の入り口であり、ライダーの情熱を解き放つ場所なのだ。
写真・文/ゴン川野
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