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競争から共創へ!日産「コミュ・ラボ」が拓く心理的安全性の未来

2025.11.09

日本を代表する自動車メーカー・日産自動車。グローバルに事業を展開する同社は、世界のグループ会社で、従業員主体のERG(Employee Resource Group /従業員コミュニティ)活動を15年以上も支援してきました。一般的にERGとは、企業の中で同じ志を持つ人や、共通の特性がある人同士が繋がるコミュニティのことを言います。日産のERG活動は、共通の特性や価値観をもとにネットワークを形成し、知識や経験を共有・習得し、主体的にアクションを起こすことで、従業員の一体感/職場における安心感・帰属感向上に繋がることを目的としています。ここでは、日産のERG活動のひとつの『Comm Lab (以下・コミュ・ラボ)』について紹介します。コミュ・ラボは、キャリア開発や良質なコミュニケーションを探求し、個人の幸せと組織のパフォーマンスの向上を目指したコミュニティ。これを立ち上げ、運営している大川将史さんにお話を伺いました。

従業員のゆるやかなつながりは、心理的安全性を確保する

――世界のNISSANグループでは、北米、中南米、中国、ヨーロッパ、アジア、そして日本でERG活動を多角的に支援してきました。活動も支援もダイバーシティ・インクルージョンやウェルビーイングが世界的に注目される以前から行われています。

日産インクルーシブな職場環境作り
https://www.nissan-global.com/JP/SUSTAINABILITY/SOCIAL/DIVERSITY/INCLUSIVE_WORKPLACE

大川将史さん:約15年前、北米や中南米のNISSANがリードするように始まり、今は世界に25以上のERGがあります。日本のERGは、2024年1月から導入が始まりました。

発足時からジェンダー、LGBTQ+アライ、多文化共生、育児両立などに焦点を当てた活動が行われていましたが、2025年1月から、組織開発部の泉 英次郎と私が始めたキャリア&コミュニケーションを主軸とした『Comm Lab (以下・コミュ・ラボ)』が発足したのです。

コミュ・ラボが目指しているのは、従業員同士がゆるやかにつながり、競争したり傷つけ合うことがないコミュニケーションの場です。これは職場の心理的な安全性の確保、ウェルビーイングな働き方とも結びついています。

コンセプトは、「楽しく、どんどん試してみる」です。社内のキャリアカウンセリング、コーチング、ファシリテーション等のスキルを持つ人たちが集まり、個人やチームにキャリアカウンセラー・コーチ・ファシリテーターとして関り、内なるパワーを余すところなく発揮できるようにサポートしています。遊びながら学び、その結果として、個人の幸せと組織のパフォーマンスを高めると同時に、自分たちのスキル向上を目指しています。

さらに、個人の能力の開発、イノベーションの創生、地域社会との関わりを促進ほか、個人のキャリアパス(目標を達成するための職務経験の道筋を示すこと)の可視化にも寄与するでしょう。

実施しているのは、キャリア開発やワークショップの開催、キャリアカウンセリング・コーチング・ファシリテーションなどです。他にも、キャリア開発やコミュニケーション手法の学びを深める場づくりを企画しています。

左下が大川さん、左中央の黒い服の男性が泉英次郎さん。泉さんは総合商社時代に都市開発、事業会社の改革に携わる。その後、国内外の人事施策や人材育成プログラムの策定・推進に従事。日産自動車入社後は、社内コンサルタント・コーチとして国内外の課題解決・組織開発・人材育成を行う。

――ERGというと、同じ属性を持つ人同士のコミュニティ形成をイメージする人が多いです。コミュ・ラボはテーマとして間口が広く、多くの人が参加できる。さらに、キャリア開発を重視していることも特徴です。

大川:誰もが「やってみようかな」と思うことを重視して設計しています。コミュ・ラボのリーダーである泉と私が所属していた組織開発部は、社内コンサルタントのような役割を果たしており、多くの課題解決を行ってきました。泉はその業務を通じ、組織と個人の関係性をいい状態に保つことが、今後の発展に深く関わると確信したのです。また、泉はシステムコーチングを独自に学んでおり、その実践の場所として企業内の関係性を変えることに興味を持っています。

コミュ・ラボの構想ができたのは、2022年ごろなのですが、この泉の考え方は、当時、英国の大学院大学『シューマッハー・カレッジ』で新しい社会経済システムやホリスティックな考え方に触れ、帰国した私に強く響きました。

ちなみにこの大学院は、『スモール イズ ビューティフルー人間中心の経済学―』(1973年)の著者・経済環境学者E.F.シューマッハの教えをもとに、インド人思想家サティシュ・クマール氏が創設したサスティナビリティの実践と学びの場です。世界中から自然との共生や持続可能な生き方を志している人、社会変革に対する強い関心を持っている人、内面の変容を経て社会的な実践につなげている人、_他にも教育や農業、アート、地域づくりなどを包括するような企業ビジネスの領域に興味がある人が学びにきていました。

私はここで、現代の消費社会の根底にある物質至上主義、また科学技術の発展が生み出した環境破壊などの歪み、人間も自然の一部であること、そして心や愛について学びました。

皆がリーダーシップを発揮する時代のコミュニケーション

――この留学の背景に、大川さんが、30代後半の数年間、激務とパワーハラスメントから、心の病になり、9か月の休職を経験したことがあります。

大川:子どもの頃から夢だった、車を開発する部署の配属になり、意気込んで仕事をしたものの、それまでの部署と全く異なるカルチャーに戸惑いました。そして、自分なりに努力を続けましたが、ことごとく裏目に出る。上司からは評価されず、効率性と生産性が求められ、相談できる相手もいない。不安やモヤモやした気持ちが心に溜まっていき、一年半くらいもがいていましたが、気がつけば出社できなくなっていたのです。

仕事はしたい、しなければいけないのに体が動かない……あの頃は、希望が見えず、無力感に包まれていました。自分の将来を含めて全ての景色がグレーに見え、社会復帰ができないまま、一生を終えることを覚悟したほどでした。

しかし、家族や周囲の人の支えもあり、少しずつ意欲が出てきたとき、まず興味を持ったのは「人との健全な関係性とは何か」だったのです。人生において、仕事はもっとも大きな時間とパワーを使います。仕事の場である職場において、健全で信頼できる関係性を維持することは何よりも大切なのではないかと。

きっかけになったは、ジャックアタリの言う利他主義でした。利他的であることが最も合理的な利己主義であるという考え方ですが、職場を見渡すと利己的にならざる得ない人が多くて、この関係性を変える必要があるんだろうなと。

そんな時に偶然、青山学院大学のワークショップデザイナー育成プログラム(WSD)のプログラムの広告を見て「これだ」と直感し、入学しました。WSDとは、コミュニケーションの場づくりの専門家の育成を目的とした社会人向けのプログラムです。

そして、コミュニケーションを基盤とした参加体験型活動プログラム……いわゆるワークショップの、企画運営の専門家としてのスキルを身につけました。そこには、私の他にも大企業に勤務する参加者が複数おり、彼らとディスカッションを重ねました。そこで気づいたのは、従業員同士はもちろん、垣根を超えた社外の人々とのフラットな関係がこれからますます大事になっていくということでした。また、「人が自分で気づくまで側で寄り添うことが大切」という教えが胸に残りました。

そのあとに私はコーチングを本格的に学びました。コーチングとは、相談者の能力や可能性を最大限に引き出し、目標達成や問題解決に最短でつなげるコミュニケーション手法のことです。相手の可能性を引き出し自発的な行動を促すという部分がWSDとコーチングで繋がりましたし、コーチングの手法と、コミュニケーションの場を作ることができれば、私の経験が誰かの役に立ち、ひいては会社に還元できると思ったのです。

これらの背景には、働く仕組みや価値観が変わったことがあります。10年ほど前までは、強烈なリーダーが全体を引っ張っていましたが、今は本来の自己に根ざした強くてしなやかな軸を持つリーダーシップが求められてると思いますし、強いチームになることが重視されています。これはコロナ禍が落ち着いた頃の変革期に加速していた傾向だと感じます。この時期に、コミュニケーションの学びを深めることができて、幸運でした。

学びながら、私自身の問題や環境にも気づくことができました。それまで私だけでなく、多くの人は、リーダー(上司)の要求に応えるために、猪突猛進することが正解でした。心細さがあっても、気力で打ち消し、気軽に相談できない環境で仕事を進めていたところもあると思います。それなのに、失敗したら自己責任ですから、なかなか過酷です。でも、これからは、各々の強みを提供しながら皆で補完し合いながら前進していくことが正義であり且つwell beingに繋がると思います。

そんな時代の「人と人との関係性」はどうあるべきか。これを皆で一緒に考えたいと思い、コミュ・ラボの発足につながっていったのです。

――自らの辛い経験を、学びに変えた大川さん。後半ではコミュ・ラボの活動や、ウェルビーイングについての具体例、幸せの状態について客観視する方法など、すぐにできるメソッドと共に紹介していきます。

日産自動車
経営戦略本部 コーポレートビジネス開発部
大川将史さん

大川将史 1981生まれ。新卒で入社後、購買部門、市場情報室、商品企画、組織開発、社外向けコンサルティングなどを経て現職。

取材・文/前川亜紀 撮影/黒石あみ(小学館)

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