あのカプコンの創業者である辻本憲三氏が、個人事業としてアメリカ・カリフォルニアに設立したワイナリー「ケンゾー エステイト」。
開業から15年を経て、そのワインは世界的に高く評価されている。
日本とアメリカとの関係や世界的な温暖化など様々な問題があるなか、注目される存在であるプレミアムワインの現況について、辻本氏に聞いた。
開業から変わらぬ理念と姿勢
――開業から15年、ケンゾー エステイトにとって最も変わったことは何でしょうか。
「ケンゾー エステイトの理念やワインづくりに対する姿勢は、開業から15年、今日まで何も変わっておりません。
コロナ禍において、ワイナリー訪問客は激減しましたが、年間の販売本数はコロナ禍の間も着実に増え続けました。コロナ禍では、外食でのワイン利用から自宅で飲むスタイルが定着し、こんな時代でも、せめて少しでもいいワインをという心理が働いたせいか、売上が伸びたのかもしれません。
この15年間の内で、最も変わったことは畑の面積ではないでしょうか。初年度ではわずか4,000本に過ぎなかった生産量は、今年、その100倍以上となる48万本に達する見込みです。
来年には、ジャンピングフィールドと呼ばれる区画(まさにスキーのジャンプ台を想わせるかのような急斜面に作られた畑)での初収穫を迎えることになっており、さらなる生産量の拡大が期待されるところです」
――この15年で、新たにどのようなユーザーが増えたでしょうか。
「明確には申し上げられませんが、ケンゾー エステイトを愛好されるお客様は、初年度から今日に至るまで、40代~60代のお客様がメインとなっているかと思います。
ここ数年、ワイナリーのビジターゲストや直営店舗をご利用になるお客様を見る限り、ワインを愉しまれるお客様の層が、徐々に20代後半から30代の若い皆様にも、広がりを見せていると思います。
当社の直営店では、すべての銘柄をグラスでリーズナブルにお愉しみいただくことができますので、そういう気軽さが、若い方々にもテイスティングしていただけるきっかけとなっているのかもしれません」
――日本での消費に特別な傾向はあるでしょうか。
「現在、ケンゾー エステイトのワイナリーは、日本と米国のみで販売しており(一部シンガポールでも流通)、それでも両国でともに品切れとなる状況ですので、今後生産量が増えていっても、日米での品切れを解消するのが最優先となりますから、それ以外の国へ進出する予定はありません。
そんな中でも、日本は米国に比べて大きな販売シェアを占めています。日本の消費を活性化させているのは、やはり直営店の影響が大きいからでしょう。
実際に飲んでいただくことでワインの消費を促進していくだけでなく、直営店は、利用者に対してのプロモーションの場ともなっていますので、オンラインセールスや直販による個人セールスにも大きな影響を与えています。
米国にも『Kenzo Napa』という直営の日本料理店がありますが、日本ではすでに全国5店舗での展開を実現しておりますので、市場に与える影響は、米国よりはるかに大きいでしょう。
そして、ワイナリーのない日本では、まさにそれを代行する役割を、この直営店が果たしていると言えます」
――ブランディングについての方針を教えてください。
「ケンゾー エステイトのコンセプトワードに“エレガント”という言葉があります。ケンゾー エステイトのブランディングを具体化していく上で、この“エレガント”という言葉は欠かせません。
それは、ワインの質についても、ワインを表現するクリエイティブにおいても、ワインを販売するホスピタリティにおいても、すべてに共通して言えることです。
従って、この“エレガント”という言葉が、ケンゾー エステイトのブランド・アイデンティティの礎となっており、ここから路線を変えるアプローチというものは今後も登場することはないでしょう」
米国で製造して日本で販売する苦労
――今、アメリカでワインビジネスをされるうえで、ご苦労はあるでしょうか。
「やはり、自社製品とはいえ、米国で製造した商品を、日本市場では、日本に輸入した上で販売するわけですから、円安傾向にある昨今の為替は、利幅を縮めてしまうことになります。
それでもケンゾー エステイトでは、為替の影響による価格の値上げというものは考えておりません。経費削減を徹底し、できるだけ効率化を図ることで、ぎりぎりの調整を行っておりますので、その苦労は尽きません。
日本市場では、企業努力を重ねながら、実はかなりリーズナブルな販売を行っていることを、皆様にご理解いただきたいと思います。
なぜなら、ケンゾー エステイトは、自社で商品を製造し、日本と米国との自社の2つの販売部門で商品を販売しているに過ぎませんから、いまだに1ドル=100円換算で、日米同価格での販売を行っています。
商品の輸出入は、自社内での流通に過ぎませんから、日本販社では、一般の輸入会社インポーターとは違い、商品の輸入に伴う手数料やそれに伴う利益を価格に上乗せするようなことはしておりません。
これはすべて、“ひとりでも多くのお客様に、手の届く価格で、最高峰のワインを愉しんでいただきたい”との思いの下、創業時から今日まで一貫して行っていることなのです」
――ケンゾー エステイトでは温暖化対策はされているでしょうか。
「確かに、現在、ナパの平野部の畑では、温暖化の影響で日照が強すぎて葡萄が焼けてしまうような被害が起きています。
しかし、ケンゾー エステイトは、山地の山頂付近に敷地を持ち、低いところでも海抜350メートル、高いところになると海抜500メートルの高地に畑があります。
平野部にある大半のワイナリーと違い、比較的冷涼で、風通しの良い地域となっていますので、温暖化の影響による被害はまったくありません。
しかも、明け方には朝靄が立ち、葡萄樹に天然の水分を残して果実を育んでいきますし、温暖な日中と寒冷な夜間との大きな寒暖差が、葡萄栽培において、とても恵まれた環境となっているのです」







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