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人生の満足度を左右する時間の捉え方「タイムパースペクティブ(時間的展望)」とは?

2025.11.30

私たちは無意識のうちに、過去・現在・未来のどれかに意識を傾ける「時間のクセ」を持っています。これを心理学ではタイムパースペクティブと呼び、幸福感や仕事の成果にも影響するとされています。この記事では5つのタイプを解説し、偏りを整えるための実践的なヒントを紹介します。

「あの時こうしていれば」と過去を悔やんだり、「今が楽しければいい」と考えたり、「将来のために今頑張ろう」と計画したり…。あなたはどのパターンを考えることが多いですか?

このように、私たちが無意識に持っている「過去・現在・未来」への捉え方のことを、心理学では「タイムパースペクティブ(時間的展望)」と呼びます。

実は、この時間に対するクセのようなものが、私たちの幸福感や、仕事や勉強の成果、さらには健康状態にまで関係していることが、研究で明らかになってきています。

この記事では、心理学の理論をもとに、タイムパースペクティブとは何か、そして、より良い人生を送るためにはどのような時間の捉え方(指向)が大切なのかを解説します。

タイムパースペクティブ(時間的展望)とは

タイムパースペクティブ(時間的展望)とは、私たちが「過去・現在・未来」という時間の流れをどのように捉え、どの時間軸を重視しているかという、個人特有の“時間に対する捉え方や構え”を指す心理学の概念です。

これは、心理学者フィリップ・ジンバルドーたちによって提唱されたものです。彼らによれば、人は無意識のうちに特定(あるいは複数)の時間軸に意識を集中させる傾向があり、この“時間に対するクセ”が、その人の価値観や日々の意思決定に深く関わっているとされています。

例えば、どの時間軸を重視するかによって、リスクをどう捉えるか、目の前の楽しみを優先するか、あるいは将来のために計画的に行動するか、といった判断の仕方に違いが現れると考えられているのです。

主なタイムパースペクティブの分類

ジンバルドーらが分類した、主な5つのタイムパースペクティブについて、例を挙げて説明します。

■過去肯定的(Past-Positive)

過去の出来事を温かく、肯定的に振り返る傾向です。良い思い出や家族とのつながり、伝統などを大切にし、そこから現在の自分への自信や安定感を得ています。

例:「あの時代の音楽は最高だったな」「昔の苦労があったからこそ、今の自分がある」

■過去否定的(Past-Negative)

過去の失敗や後悔、嫌な出来事など、ネガティブな側面に意識が向きやすい傾向です。過去のトラウマに囚われ、現在の行動にも慎重になったり、悲観的になったりすることがあります。

例:「あの時、あんな失敗さえしなければ…」「どうせ自分は昔からこうだ」

■現在快楽的(Present-Hedonistic)

「今、この瞬間」の楽しみや快楽、刺激を最大限に追求する傾向です。将来の結果よりも現在の満足を優先するため、衝動的・感覚的な行動を取りやすいのが特徴です。

例:「先のことは考えず、今楽しもう」「欲しいものは我慢せず、すぐに買っちゃおう」

現在宿命的(Present-Fatalistic)

現在は運命や外部の力など、自分ではコントロールできない要因によって決まっていると考える傾向です。自分の行動が未来を変えるとは考えにくいため、無力感や諦めを感じやすい状態です。

例:「結局、なるようにしかかならない」「どれだけ頑張っても運が悪ければ無駄だ」

■未来志向的(Future-Oriented)

将来の目標達成や成功、より良い結果のために、現在の楽しみを我慢してでも計画的に努力する傾向です。時間を管理し、健康やキャリアのために長期的な視点で行動します。

例:「来年の試験のために、今から勉強計画を立てよう」「老後のために、今から貯蓄しておく」

意識的に他の時間軸に目を向ける方法とは

タイムパースペクティブは、どれか1つが正解というわけではありません。例えば、未来志向が強すぎると、目の前の楽しみを犠牲にしすぎてストレスを感じやすくなる可能性があります。逆に、現在快楽的な傾向が強すぎると、将来の目標達成が難しくなることも。

大切なのは、特定の視点に固定されるのではなく、状況に応じて柔軟に時間軸を使い分ける、バランスの取れたタイムパースペクティブを持つことです。

もしご自身が「特定の時間軸に偏りがちだな」と感じたら、日常生活の中で意識的に足りない視点を補う練習をしてみましょう。ここでは、よくある偏りのタイプ別に、そのバランスを取るための簡単な方法をご紹介します。

■今が楽しければOK!となりがちなタイプ…「未来」の視点が足りないと感じたら

これは、将来のことよりも今この瞬間の楽しさや満足感を優先する、「現在快楽的」な傾向が強い状態です。今を楽しむことは大切ですが、この視点に偏ると、長期的な目標や健康、貯蓄などを後回しにし、後で「あの時やっておけばよかった」といった後悔につながる可能性があります。

このタイプの人は、無理に大きな我慢をするのではなく、未来の自分が少しだけ助かるような小さな行動を日常に取り入れるのが効果的です。

例えば、1日5分だけ明日の準備や将来のための勉強にあてる、何かを衝動的に決めそうになった時に1年後の自分ならどう判断するかを一瞬だけ考えてみる、といった習慣です。

あるいは、今の楽しみを単に我慢するのではなく、「これが終わったら週末にご褒美を食べる」というように、楽しみを少し未来に設定することも、未来志向の視点を育てる第一歩になります。

■未来の不安や過去の後悔ばかり考えるタイプ…「現在」の視点が足りないと感じたら

これは、まだ起きていない未来を過度に心配する「未来志向的」な傾向や、過去の失敗や後悔に囚われる「過去否定的」な傾向が強い状態です。

先の不安や過ぎた後悔に意識が向かいすぎると、目の前にあるはずの楽しみや、今やるべきことへの集中力を失い、心が休まらずストレスや疲労感が蓄積しやすくなります。

このタイプの人は、頭の中の思考から離れ、意識的に今この瞬間の感覚に注意を向ける練習をするのが効果的です。

例えば、食事をする時にながら食べはせずに、料理の味や食感をしっかりと味わうように意識してみる。歩いている時に考え事をするのではなく、足の裏が地面に触れる感覚や、風が肌に触れる感覚に意識を向けてみる。

また、やるべきタスクが多くて不安になる時は、「あれもこれも」と未来のタスクまで考えるのをやめ、「今から15分は、この作業だけ」と決め、目の前の一点に集中するのも良い方法です。

■自信がない時や落ち込みがちなタイプ…「過去(肯定)」の視点が足りないと感じたら

これは、過去の失敗体験に囚われすぎたり(過去否定的)、どうせうまくいかないという諦め(現在宿命的)に意識が向きすぎている状態です。

しかし、過去は悪い出来事ばかりではなかったはずです。このタイプの人は、意識的に過去の良かった側面や乗り越えた経験に光を当て、それを現在の自分を支える力として活用する練習が有効です。

例えば、1日の終わりに、その日にあった良かったことや感謝したことを3つだけ書き出してみてください。この習慣は、肯定的な過去を蓄積する方法の1つです。

また、新しい挑戦に不安を感じる時は、昔の困難な状況を何とか乗り越えられたな、というように、過去の成功体験や頑張った事実を具体的に思い出してみるといいでしょう。過去の楽しかった旅行の写真を見返したり、好きだった音楽を聴いたりして、ポジティブな感情を意図的に思い出すことも、現在の気分を支える力になります。

文・構成/藤野綾子

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精神保健福祉士、産業カウンセラー、EAPメンタルヘルスカウンセラー、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種の資格を持つ。大学に通い直し、心理の国家資格取得に向けて勉強中。教育施設、就労移行施設などでカウンセラー研修、実務も続けている。

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