キャンプ用品を販売するスノーピークは、今期の純利益が非上場化前の900倍に相当する9億円に拡大する見込みです。
今年9月の社長交代に合わせて足元の業績を発表、回復が著しいことを印象づけました。ただし、日本のアウトドア市場は目まぐるしく変化しており、スノーピークは海外展開を急いでいます。
三密回避の反動で一時的に縮小したアウトドア市場
スノーピークは2024年に投資ファンド・ベインキャピタルの支援を受けて非上場化しました。普通株の買い付け総額は340億円。ベインは55%あまりの出資をしており、最短で2027年の再上場を目指すとしていました。
非上場化前の2023年12月期は純利益が前期比99.9%減の100万円。赤字ギリギリのラインまで落ち込みました。本業の稼ぎを示す営業利益も7割超の減少。当時の決算資料には、「アウトドア全般に対する需要減少の影響が大きく」と記されていたことから、キャンプブームは終焉したと世間で騒がれました。
しかし、需要は少しずつ回復しています。
矢野経済研究所の「アウトドア用品・施設・レンタル市場に関する調査を実施(2024年)」によると、2023年度のアウトドアの市場規模は前年度比4.7%減の4402億円でした。これはコロナ禍からの経済活動の回復で、通常の旅行や観光への消費が増加したためと見られています。
しかし、キャンプ初心者の需要は減退するものの、既存顧客を主体とした需要には期待できるとし、2024年度は4.0%、2025年度は4.8%、それぞれ市場が拡大すると予想しました。
ここでのポイントはベテランキャンパーが主役になったということです。
これはデータにも出ています。キャンプ場の予約サイトを運営する「なっぷ」の調査によると、2019年の予約件数における新規ユーザーの割合は78%でしたが、2024年は45%にまで低下しています。一方、2024年の予約件数は2019年比で3.3倍に拡大しているのです(「本格的なキャンプシーズンの到来に合わせ、2024年キャンプ場予約動向を「なっぷ」が公開」)。
エントリーモデルの生産を次々と終了
スノーピークは2018年12月期から2022年12月期まで二桁増収の快進撃を続けていました。しかし、2023年12月期に突如として二桁減収となったのです。
スノーピークというブランドは、キャンプ初心者に特に人気がありました。価格はやや割高な一方で、デザイン性が高く、確かな信頼感があったからです。テントからカップ一つに至るまで、キャンプギア全体に絶妙な統一感があり、揃える楽しさもありました。
スノーピークもエントリーモデルの強化を図ります。2018年に発売したタープとテントがセットになった「エントリーパックTT」は、エントリーモデルの代表作として長く親しまれてきました。
スノーピークは本社にキャンプ場を併設しているだけでなく、全国に直営の「キャンプフィールド」を運営しています。キャンプグッズを販売するというよりも、キャンプ好きを生み出して、顧客のアウトドア体験に厚みをつける会社という方が相応しいでしょう。
そのため、キャンプ初心者を囲いこむことは何よりも重要でした。そして、その需要が一巡した打撃は途方もなく大きいものでした。
2025年7月のアルペンのセールにおいて、「エントリーパック TT」は通常価格45%オフの2万9999円で販売されました。これは2024年に生産を終了したことを受けてのものでしょう。足元では、エントリーモデルの全体的な見直しを図っていると考えられます。
スノーピークは、2025年12月期は2.8%の減収を見込んでいます。現在も増収には至っていません。
実はスノーピークの業績の急回復は、ある程度予想できるものでした。
2023年12月期に店舗の減損損失を計上していたからです。減損損失とは、当初見込んでいた固定資産の収益性が低下し、価値を見直す会計処理のこと。一時的に利益が大きく落ち込む要因になりますが、中期的には減価償却費が抑えられるため、利益が出やすくなります。
スノーピークは大幅な増益で復活劇を演出しましたが、底力を試されるのは増収を実現できるかどうかでしょう。
アメリカと韓国で存在感を発揮
ベテランキャンパーになればなるほど、コストパフォーマンスを重視しがち。安価なキャンプグッズが大量に販売されるようになったことも、スノーピークには逆風です。
特にダイソーのキャンプグッズは脅威。内径11.5cmのダッチオープンを税込み1100円で販売しています。大きさが近いスノーピークの「コロダッチポット」は9240円。当然、デザインや質感は異なりますが、機能にのみ着目するとダイソーの方がコストパフォーマンスの高さが際立ちます。
キャンプ用品は競争が激しくなっており、価格面で優位性を持たせることは非常に難しくなっています。テントも様々なメーカーが良質かつ安価な商品を販売するようになりました。
スノーピークが活路を見出しているのが海外。特に韓国、アメリカでのキャンプ市場の拡大をチャンスと見ています。スノーピークの売上成長率は、2023年比で韓国が31%、アメリカで38%伸びたといいます。
2024年にオープンしたアメリカのロングビーチのキャンプフィールドが高評価を受け、韓国でも直営のキャンプ場をオープンしました。ブランド認知を広げています。
スノーピークのキャンプに対する熱量は高く、これが確かな品質のグッズ販売につながり、ブランド力を支えています。海外で高評価を受けているのは、価格に頼らなかった高い精神性によるものでしょう。
国内では、2025年からフライフィッシングの専門グッズの取り扱いを開始しました。最近ではフライフィッシングができる管理釣り場も多く、キャンプで楽しむアウトドア体験としては最適。奥が深く、必要なグッズも多岐に渡るため、集める楽しさがあります。こだわりが強いキャンパーにはうってつけの趣味だと言えるでしょう。
アウトドア体験の切り口を変えて入門者を開拓するというのは、キャンプ初心者を巧みに取り込んだスノーピークらしい戦略。アウトドア市場の拡大を目指しているように見え、今後の展開に期待ができます。
文/不破聡
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