風呂上がりの「至福」のシンボルだった明治の瓶入り牛乳が2025年3月末で製造終了。銭湯文化を支えた瓶牛乳の魅力、製造終了の背景にあるコストと需要の課題を解説。ノスタルジーを失いつつある中、紙パックやボトル牛乳など、新しい時代の「至福の一杯」の選択肢と可能性を掘り下げます。
目次
「風呂上がりの一杯」といえば、みなさんは何を思い浮かべますか?
ちょっと甘くて懐かしい記憶をたどれば、おそらく銭湯や温泉で飲む冷たい「瓶入り牛乳」を思い浮かべるのではないでしょうか。
腰に手を当てて飲み干す、あのガラスの冷たさ、牛乳のまろやかな口当たり……まさに日本の文化とも言える「至福の瞬間」でした。
しかし、人生の至福の時の1つが、静かに姿を消そうとしているのをご存じでしょうか?
大手乳業メーカーの明治は2025年3月に、瓶入りの牛乳やコーヒー飲料など4種類の商品の製造を、残念ながら終了しました。

昔を知る世代にとっては単なる飲み物ではなく、ノスタルジーと特別な体験が詰まった、良き象徴ともいえた瓶入り牛乳。
なぜ、この文化が終わりを迎えようとしているのでしょうか?
そして、私たちはこれから、どんな牛乳を飲めば、あの「至福」を感じることができるのでしょうか。
この記事では、瓶入り牛乳の魅力を再確認しつつ、製造終了の背景や今後の牛乳との付き合い方について、掘り下げます。
瓶入り牛乳とは?その魅力を再確認!
瓶入り牛乳はその名の通り、ガラス製の容器に入った牛乳です。
180mlや200mlといったサイズを中心に、「グイっと飲む」のにピッタリ。昔から多くの製品が販売されていました。
そして、瓶入り牛乳の魅力は、単に「牛乳の味」だけではありません。
1.ガラスの冷たさ
冷蔵ケースから取り出したときの、手にひんやりと伝わるガラスの触感。そして、くちびるに触れたときの冷たさ。この2つが相まって、風呂上がりの火照った身体に、至福のご褒美となりました。
2.キャップを開ける儀式
キャップを指で開けるときの、あの独特の音と感触。この一連の動作は飲む前の期待感を高めてくれました。
3.特別な場所の体験
瓶入り牛乳は、温泉、銭湯、旅館といった「日常から少し離れた場所」で提供されることが多く、「非日常の体験」と強く結びついていました。
また、宅配や学校給食など、懐かしい子どもの頃の記憶とリンクしていることも、特別な体験として多くの人の心にとどまっているのではないでしょうか。
この「冷たさ、儀式、場所」が合わさり、瓶入り牛乳を特別な存在にしていたのでしょう。
なぜ明治は瓶入り牛乳4種類を製造終了するの?
私たちの生活に深く根付いていた瓶入り牛乳ですが、明治が4製品の製造終了に踏み切ったのは、需要の低下や、瓶の調達が難しくなったことが主な理由となります。
そして、2025年4月以降は紙の容器での販売に切り替わることになりました。
1.衛生とコストの問題
瓶入り牛乳は、回収し洗浄。そして再利用する容器です。
このシステムは、環境に優しい一方で、手間とコストがかかります。
瓶を回収して徹底的に洗浄・殺菌し、再び充填する工程には、多くの手間がかかります。
そして、ガラス瓶は重くて輸送効率が悪く、破損のリスクもあります。
さらに、瓶自体の製造コストも無視できません。
2.消費スタイルの変化
かつては学校給食や宅配の主役だった瓶入り牛乳ですが、現代では主要な流通チャネルとはいえません。
スーパーやコンビニなど、安価で軽量、保存性に優れる紙パック入りの牛乳が主流となりました。学校給食も例外ではありません。
さらに、瓶入り牛乳の重要な消費場所であった銭湯の数が減少し、「風呂上がり牛乳」の需要も減少しました。
消費者への影響は?
今回の製造終了は、私たち消費者、特に学校給食や銭湯での思い出を持つ人にとって、単に1つの商品がなくなる以上の影響があります。
1.ノスタルジーと体験の喪失
最も大きな影響は、「ノスタルジー」の喪失といえそうです。
かつて、銭湯での入浴とセットともいえた、「風呂上がりの瓶入り牛乳」という儀式が失われようとしています。
また、紙パックやペットボトルは、どこでも手に入る便利な「日常の味」です。一方、瓶入り牛乳は、「特別な場所の味」といえました。
この「非日常の味」が失われる、そんな特別な「体験」が減る・失われることに、一抹の寂しさを感じます。
2.代替品の探索
瓶入り牛乳がなくなっても、牛乳やコーヒー牛乳などのおいしさは普遍です。
瓶入り牛乳から紙パックやプラスチック製のボトル牛乳が、その役割を今後は担います。
改めて確認。明治が2025年3月に製造終了した瓶入り牛乳など4つの商品
ここで改めて、明治が2025年3月に製造終了した瓶入り牛乳など4つの商品を確認しておきましょう。
1.「明治牛乳 180ml」

【参考】明治牛乳 180ml
2.「明治おいしい牛乳 180ml」

【参考】明治おいしい牛乳 180ml
3.「明治コーヒー 180ml」

【参考】明治コーヒー 180ml
4.「明治TANPACTロコケア 180ml」

瓶入り牛乳の歴史とその価値
瓶入り牛乳は、日本の牛乳流通で非常に重要な役割を果たしてきました。
■昭和から続く牛乳の魅力
牛乳の販売は、明治初期(1870年頃)にさかのぼります。
当時は、ブリキ缶で運んだ牛乳をひしゃくですくい、はかり売りをしていました。
そして、明治10年(1877年)頃に、180ml(1合)のブリキ缶を使う牛乳配達が開始されました。
明治21年(1888年)頃に、東京・牛込の津田牛乳店が細口ガラス瓶を使用。
明治32年(1899年)頃になり、牛乳専用のガラス瓶が登場しました。
昭和3年(1928年)に東京警視庁が「牛乳営業取締規則」を改正。殺菌を義務づけて着色瓶の使用を禁止、無色透明の広口びんで紙栓をするように決定しました。
これが、今も使われている牛乳瓶の始まりとされ、およそ100年近い歴史を重ねてきました。
ちなみに、昭和27年(1952年)にスウェーデンのテトラパック社が三角形(四面体)のテトラクラシック容器を開発しています。
そして、日本では、昭和37年(1962年)頃から、本格的に紙容器が使われるようになり、東京オリンピックや大阪万博での採用から、紙容器が日本全体に普及したようです。
【参考】牛乳の容器にはどのような歴史がありますか?|一般社団法人日本乳業協会
■瓶から学ぶ持続可能性
近年、環境問題への意識が高まっています。瓶入り牛乳の持つ「リターナブル瓶」というシステムは、現代のサステナビリティの観点から、再評価されるべき価値です。
製造終了は主に効率化のためですが、私たちはこの瓶から、「使い捨てではない消費」という、持続可能な未来へのヒントを学べそうです。
製造終了に伴う代替品の選択肢
明治の瓶入り牛乳4種類が残念ながら製造終了となりましたが、私たちは牛乳を飲み続けます。
あの「至福」の瞬間に近づくため、代替品の選択肢やそれぞれの特徴を整理してみましょう。
■紙パック牛乳のメリットとデメリット
最も一般的な代替品といえるのが、紙パック牛乳でしょう。
私たちはこれを「日常の牛乳」として認識しています。
紙パック牛乳のメリット
容器:軽量、安価、廃棄しやすい、長期保存可能
流通:大量生産・大量輸送が可能、全国のスーパーで販売
紙パック牛乳のデメリット
容器:瓶のように触れたときの「冷たさ」を感じない、再栓しにくい
流通:非日常的な「特別な体験」が少ない
紙パックは経済性と利便性に優れています。
しかし、風呂上がりの「一発勝負の冷たさ」という魅力は、瓶入りに分があります。
また、「グイッと飲む」という感覚も薄れがちです。
■ペットボトル牛乳が人気を集める理由
最近、コンビニなどで見かけることが増えたのが、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)から作られたボトルに入った「ペットボトル牛乳」です。
牛乳は栄養価が高いです。そのため、雑菌などが入ると傷みやすく、常温で持ち運ぶ可能性のあるペットボトル入りの牛乳は、製造を認められていませんでした。
しかし、2007年10月に「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)」が改正せれて、特性に注意することを条件として、「ペットボトル牛乳」が認められました。
【参考】ペットボトル入りの牛乳は無いのでしょうか?|一般社団法人日本乳業協会
■銭湯で楽しむ牛乳の新たなスタイル
タカナシ「特濃牛乳 200ml(ボトル)」は、北海道の生産者の協力により実現した乳脂肪分4.0%以上の特選規格で、浜中町の指定牧場の生乳だけを使用する「タカナシ 特濃牛乳」を、牛乳ビン型のPETボトルに詰めています。

そのため、どこか懐かしく手に取りやすい商品となっています。これなら、銭湯など風呂上がりでも楽しめそうですね。
まとめ
明治の瓶入り牛乳4種類の製造終了は、1つの時代の終わりを告げる出来事です。
しかし、私たちが大切にすべきは、「冷たい牛乳を飲み干す解放感」という体験そのものではないでしょうか。
当時の懐かしい記憶を胸に、新しい容器やブランドの中から、自分だけの「至福の一杯」を見つけ出すことができるはずです。
■次の至福を見つけませんか?
明治の瓶入り牛乳4種類が2025年3月に製造を終了しました。森永乳業も2024年3月末に宅配専用の商品の販売を終了するなど、大手メーカーの撤退が相次いでいます。
しかし、雪印メグミルクは、宅配専用の瓶入り牛乳「雪印メグミルクおいしい牛乳」「特濃」の提供を続けています。

【参考】雪印メグミルクおいしい牛乳

【参考】特濃
そして、ローカルな瓶入り牛乳も各種販売が続いていますし、高品質なペットボトル牛乳が未来へと希望を繋いでくれます。
あなたの銭湯ライフ、風呂上がりの非日常体験は、今なお健在です。
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文/中馬幹弘
ガジェット・MONO・マネー編集/ライター。慶應義塾大学卒業後、野村證券にて勤務。アメリカンカルチャー誌編集長、モノ情報誌編集を歴任。iPhone、iPad登場時よりスマホ実務に携わる







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