売り手市場といわれる新卒採用市場において、企業は学生たちに選ばれる存在となるためにとりわけ採用活動に力を入れている。
ただし、最近ではひと昔前のように「安定雇用」を謳うだけでは、学生たちには響かなくなっている…。
代わりに「社会的意義」「社会貢献度」「サステナビリティ」の要素は、自身や会社の将来を見据えるために欠かせない。
最近では「サステナビリティ」を学べる大学が増えており、企業との共育を進める大学も出てきている。
その取り組みの一つとして注目なのが、2025年10月9日に本格的にスタートした千葉大学と企画制作会社ブレーンセンターによる「サステナ×キャリア 共育プロジェクト」だ。
学生たちに提供される貴重な学びの機会とは?また企業は今、どのように意識を切り替え、何に取り組むべきか、プロジェクトを推進するブレーンセンター代表にインタビューを行った。
「サステナ×キャリア 共育プロジェクト」とは
このプロジェクトでは、講義、統合報告書(※)を活用したワークショップ、企業へのレビューなどのビジネスや経営の現場や課題に実際に触れる、多様な学びを千葉大学の学生に提供する。
※企業の売上や資産などの財務情報、企業統治や社会的責任(CSR)、知的財産などの非財務情報についてまとめた、株主や投資家などへの開示資料の一種。
【取材協力】
岡山 咲子氏
千葉大学国際未来教育基幹講師・環境ISO学生委員会顧問。博士(公共学)、学生主体の環境マネジメントやSDGs教育、企業連携プロジェクトを通じたサステナビリティ人材育成に従事。
プロジェクトを通じて、学生はどのような成長につながるか。プロジェクトを推進する岡山氏は、次のようにコメントする。
「大学生は社会との接点が限られる中、本プロジェクトでは、社会で活躍する人々から直接話を聞き、ディスカッションやワークショップを行う機会を提供します。
講義や統合報告書を活用した多面的な学びを通じて、学生はサステナビリティに関する視野を広げるだけでなく、企業の現場や課題に触れることで、ビジネス社会や自身のキャリア形成への理解を深めることを期待しています」
ただ一方的に学生たちに教えるのではなく、企業とのコミュニケーションを設けることで、企業も含めて「共に育つ」 ことが意図されている点も特徴的だ。
統合報告書の読み方を解説!比較研究から企業インタビューまで
プロジェクトでは、「講義」「報告書レビュー」「企業研究講座」「企業インタビュー」の4つの企画を実施。
特に目を引くのが統合報告書の読み方を解説し、それをもとに同業数社を比較する内容だ。学生にとって、普段の授業では体験できない、貴重な機会となりそうだ。
自ら講義も行うブレーンセンター代表取締役社長 平石隆生氏に、プロジェクトの学びや企業がなすべきことについて話を聞いた。
【取材協力】
平石 隆生氏
株式会社ブレーンセンター 代表取締役社長
福島県郡山市出身。法政大学法学部卒。入社後、企業の「採用PR」や「投資家向け広報」「サステナビリティ広報」の支援事業に従事。近年は、「統合報告」支援事業の育成に尽力。2008年に取締役、15年に専務取締役に就任。25年3月から現職。
――講義で統合報告書はどのように読むのですか?
「統合報告書には企業の持続的な成長の“シナリオ”が描かれていますので、その要点がわかる『経営者メッセージ』が特に重要です。また、VUCAの時代に中長期的な『リスクと成長機会(ESG含む)』をどう捉え、どのような『重要課題(マテリアリティ)』を認識し、『戦略』を講じていくのか?さらに、戦略遂行に必要な人的資本をはじめとする『無形資産』をどのように拡充していくのか?などの視点で読み解いていきます」
――企業研究講座では、どのような基準で企業同士を比較するのですか?
「大半の報告書に記載されている『価値創造プロセス図』をもとに比較する方法を解説します。この図には、企業の『理念・ビジョン』のほか、競争力の源泉である『無形資産』、それらを活かした『ビジネスモデル』、長期的な『戦略』や『投資計画・利益分配』、これらによる『創出価値(アウトカム)』など、企業評価に必要な情報が集約されているからです。とはいえ、それを読み解くには一定の知見が必要なため、実際の報告書をもとに当社がレクチャーする予定です」
企業はどう変わるべきか
――学生たちがサステナビリティに関心を高め、企業を見る目を養っている中、企業はどんな対応をすべきでしょうか。
「企業はできていないことをごまかすのではなく、自社の課題を明示し、『今後どうしていくのか』を伝えることが重要と考えます。また、統合報告は“未来を語る自社メディア”でもありますので、学生が自身の将来を賭けるに値する成長性や魅力について、ナラティブにわかりやすく伝えていく努力が必要だと思います。
特に、労働生産人口が減少する日本においては、人的資本の拡充方針はどの企業でも不可欠な情報です。そのほか、気候変動やAIの普及などの社会課題やメガトレンドが自社のリスク・成長機会にどう影響するのか?それらを踏まえて、どのようなビジョンや経営戦略を策定しているのか?といった説明が必要だと思います」
サステナビリティ経営の必要性
企業は、変化する社会情勢や環境を踏まえ、従来の「CSR経営」から社会課題解決を通じた持続的成長を目指す「サステナビリティ経営」への転換が求められている。
――現状、サステナビリティ経営へ舵を切ることができている企業はどのくらいあるのでしょうか?
「本格的なサステナビリティ経営を推進する日本企業は、まだ1割に満たないと思います。ただし、その重要性を認識し、注力している企業は4~5割ぐらいになるのはないでしょうか。こうした企業は、サステナビリティ経営による目標と重要課題(マテリアリティ)に関する社内浸透を重視し、担い手である従業員の共感・意欲の喚起に力を入れています。
また、トランプ政権や欧州の規制緩和等によって、サステナビリティの気運が減退気味であることも事実です。そのため、流行への対応ではなく、『サステナビリティを本気で経営戦略に組み入れ、収益と社会的価値の両立をめざす企業か否か?』を問う傾向も感じます。当社は、そうした企業を応援し、日本企業の競争力向上に貢献したいと考えています」
学生たちは社会課題へより強い関心を示す傾向があるのに加えて、企業を見る目も養っている。学生たちに選ばれる企業になるためにも、努力が必要だ。
取材・文/石原亜香利
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