個人が企業を買収する「個人M&A」に注目が集まっている。
ゼロスタートの起業よりも始めやすく、スモールビジネスとしてスピーディーに始める手段として適している。キャリアの選択肢となるため、会社員が行うケースもめずらしくない。
しかし実際にトライするにはリスクが大きく、ハードルが高い。そこで今回は、個人M&A実践者の4名にインタビューし、失敗しないポイントや良かった点を聞いた。
上場企業の会社員が地方のジムを個人M&A!
キックボクシングジムを買収したKICKDAYS代表 増岡剛氏は、上場企業の経営企画室で働きながら自らビジネスをしたいと思っていた矢先に、「TRANBI」という事業承継・M&Aのプラットフォームで「キックボクシング×パーソナルジム」の案件を見つける。すでに会員が40名ほどで、収益も安定、店舗は群馬県とあって地方なので固定費が安いのが決め手となった。
個人M&Aを経験した増岡氏に、失敗しないポイントのアドバイスと実践して良かったことを聞いた。
●個人M&Aで失敗しないポイント
「自分の目で見た情報を頼りに。その上でリスクを負うことに自身を納得させること」
「会社員にとっては不慣れなプロセスを踏みますが、慎重になりすぎるといつまでたっても事業承継には至らない一方で、アグレッシブになりすぎるのもリスキーです。最後に頼りになるのは、自分自身の目で見た情報や事実。相手の発言や資料を鵜呑みにせず、必ず一次情報を得ることを心がけ、リスクを負うにあたって自分自身を納得させられるかを大事にすべき。それでも買いたいと思う事業であれば、買収後に何が起こっても乗り越える力となるはずです」
●個人M&Aを実践して良かったと思うこと
「究極の実体験ができること」
「大企業の一員として働く自分はピースの一つ。検証を重ねるシミュレーションや大掛かりな施策も、自分自身の決断や責任で行うものではありません。一方、承継した事業はすべて自分の判断で進められ、当然、結果も自分自身に跳ね返ります。結果として、収益構造の分析も企画も経理もマーケティングも雑務もすべてをリアルな実体験として得られるようになった点は、会社員では得難いものであったと考えています」
パパ友2名を中心に肉バルをM&A!
続いては「肉バル×アヒージョ Trim 神谷町店」という肉バルの個人M&Aを果たした2名の男性の事例。この2名のつながりは子が通う保育園を通じたパパ友であるという。そのうち、投資ファンドに勤めた経験のある田中友英氏が同店の案件を見つけ、話を持ちかけたところから始まった。業績やP/L(損益計算書)では利益が出ており、オペレーションがマニュアル化され、レシピもあり、さらに神谷町という立地も好条件とあって、買収を決めた。複数名でリスクシェアできることでハードルが下がった。約3年で店舗の売上は買収当時の2倍を超え、成長を続けている。
田中氏とそのパパ友である石戸亮氏に、失敗しないポイントのアドバイスと実践して良かったことを聞いた。
●個人M&Aで失敗しないポイント
田中氏「再現可能性を腹落ち感のあるレベルで見極めること」
「最大のポイントは、再現可能性を腹落ち感のあるレベルで見極めることです。対象企業が黒字だったとしても一過性ではないか、事業構造として持続可能か、他社と比べてどんな強みが黒字たらしめているか、なぜ売主は売却しようとしているのか。自分が納得するまで調査し、考え、時には専門家の助言も仰ぎながら決断していくことが重要です」
石戸氏「買収後を具体的に描くこと」
「大切なのは買収後の運営に自分がどう関わるかを具体的に描くことです。私はオーナーとして現場を全面的に担うのではなく、店長やスタッフの力を信じつつ必要な支援を行い、共に成長する関係を重視しました」
●個人M&Aを実践して良かったと思うこと
田中氏「世界が急速に拡がり、人としての幅も広がった」
「自分個人の世界が急速に拡がることで、人としての幅が大きく広がる点が、個人M&Aの最大の価値だと思います。会社員として働いていると、どうしても業務範囲や人間関係が限定され、得られる知識も固定化しがちですが、事業を持つことで新しい分野の知識や本業では出会えなかった人脈に触れられます」
石戸氏「真の意味での経営者視点を一層強く意識するようになった」
「最大の収穫は、『自分のお金と責任で経営する』という、会社員とはまったく異なる経営者視点を得られたことです。会社でも経営視点を持って仕事はしていますが、オーナーとしての意思決定はより切実で、収益やリスクに直結します。その緊張感が新しい学びにつながり、挑戦と成長を同時に味わえる貴重な経験となりました」







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