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売り切れ続出の三菱鉛筆「uniball ZENTO」、デジタルの時代にあえて書き心地にこだわった理由とは?

2025.11.02

水性インク特有のなめらかな書き心地はそのままに、にじみや裏抜けといった弱点を克服した革新的なボールペン「uniball ZENTO(ユニボール ゼント)」。

“「かく」ひと時を心地よく。”というコンセプトが消費者の心を掴み、発売直後から品薄状態が続く大ヒットとなっている。

この記事では、商品開発の背景と苦労した点、ヒットの要因について、三菱鉛筆株式会社 商品開発部 商品第一グループ 係長 板津祐太さんにお話を伺った。

三菱鉛筆株式会社 商品開発部 商品第一グループ 係長 板津祐太さん

*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。

4つのモデルが叶える「書く」体験のパーソナライズ

ボールペンの種類は、大きく分けて「油性」「水性」「ゲル」の三つ。それぞれの特徴について、板津さんは次のように説明する。

「油性ボールペンは、名前の通り油をベースにしたインクを使っています。水に強く、ぬるっと感じられる書き心地が特徴です。水性ボールペンはインクのベースが水なので、さらさらと気持ちよくインクが流れ出るのが魅力です。水性インクならではの“インクの出る感じ”を好むお客様も多いですね」

一方で、水性は「インクが滲んだり、紙の裏にインクが抜けてしまったりする弱点もある」と話す板津さん。その弱点を克服するべく登場したのが、その後に開発されたインク「ゲル」だと続ける。

「ゲルインクは、水性インクに『ジェル化剤』を加えたインクです。普段はゼリー状ですが、書く動きによって液体になります。これも当時は大きな進化だったのですが、今回開発したユニボール ゼントは、改めて水性インクをベースとしてそのよさを活かしつつ、弱点を解消した商品です」

プロジェクトが始まったのは約6年前。油性インクが主流のアジア市場で“水性インク”に挑んだのは、グローバルな視点を持つ三菱鉛筆ならではの決断だった。

「ヨーロッパやアメリカなど、ラテン文字文化を持つ国々では、水性インクやゲルインクの使い勝手や書き心地が好まれる傾向があります。そうした背景もあり、世界市場を意識した開発を続ける中で、水性インクの弱点を克服できる手応えを得たのが、プロジェクト始動のきっかけでした」

世界を視野に入れる点は、製品ラインナップにも表れている。

「人それぞれ価値観や使い方が異なる中、1つのモデルだけで全てのお客様に最適な体験を届けるのは難しいと考え、複数のモデルを展開しました。具体的には、ブランドの象徴的な存在を表現した『シグニチャーモデル』、金属パーツやクリップに工夫を凝らした『フローモデル』、グリップ部分を長く設計し、さまざまな握り方に対応できる『スタンダードモデル』と『ベーシックモデル』の4種類をご用意しています」

第一回より

「POA界面活性剤」と「引き寄せ粒子」。不可能を可能にした2つの成分

プロジェクト開始から発売までの6年間、「とくに苦労したのがインクの開発だった」と板津さんは振り返る。

「水性ボールペン特有のインクがたっぷり出る“気持ちよさ”を残しつつ、滲みや裏抜けといった弱点をどう解消するかが最大の課題でした。水性の良さを伸ばすと弱点も出やすくなり、逆に弱点を抑えると良さが損なわれてしまう。そのトレードオフに長く悩みましたが、最終的に両立できたのが本商品だと思っています」

成功のカギとなったのが「POA界面活性剤」と「引き寄せ粒子」だった。

「『POA界面活性剤』は、クッション成分です。ペン先と紙の間にクッションを入れることで、柔らかい筆記感や書き心地といった水性インクのよさを伸ばしています。一方、水性インクの弱点を打ち消す成分が『引き寄せ粒子』です。インクが紙に広がりすぎるのを抑えて、にじみや裏抜けといった弱点をカバーします」

板津さんは「インクとペン先を合わせるのも一苦労だった」と続ける。

「インクが変わればペン先の形状も細かく調整が必要で、インクとペン先の最適な組み合わせをそれぞれ試す必要があります。ボール径が変われば、ペン先の設計をすべて調整し直さなければなりません。毎回オーダーメイドのような開発になるので、とても開発に時間がかかるんです。新しいサイズやモデルの展開には、こうした技術的な難しさがあります」

開発は、企画チームに技術部門・生産部門が加わったチームで行なわれた。大規模なチームながら足並みを揃えて取り組めたのは、最終的な目標が明確だったからだという。

「全体的にとてもフランクな雰囲気で、部門の垣根を越えた意見交換が活発に行われています。目指したのは、技術だけでなくお客様に“体験”を届けるブランドをつくること。お客様の“ちょっといい気持ち”につながるのかをベースに、議論を重ねていきました」

第二回より

体験を届ける、“世界一の表現革新カンパニー”へ

発売後は想定を上回る反響があり、店頭で品薄状態が続いたユニボール ゼント。その背景には、時代と逆行してもゆずれない「こだわり」があった。

「書く行為自体が減りつつあるからこそ、消費する“書く”ではなく、“書く”体験を良いものにしたいと考え、上質な書き心地にはとことんこだわって開発に取り組みました。日本の市場では、これまで水性インクのボールペンは決してボリュームが大きいカテゴリーではないので、私たちとしてもチャレンジングな企画でしたが、これほど注目いただけてとてもありがたく思っています」

新しいブランドをローンチするにあたり、マーケティングも工夫を凝らした。

「“三菱から新しいペンが出てくるらしい”という期待感を持っていただけるよう、SNSや特設サイトでの展開をしました。発売前後のお客様の声で、実際に商品に対する注目が高まったときには、大変ありがたく感じましたね」

三菱鉛筆は2036年に迎える創業150周年に向け、“世界一の表現革新カンパニー”を目指している。

「お客様がどんなものに興味を持ち、どんな自分になりたいと思っているのか、そうした変化をなるべく本質的に捉え、表現革新の中でどのようにお手伝いができるのか。そこを考えていく必要があると考えています。そのために、文房具のトレンドだけでなく、より広い視野で世の中の動きを見て、価値観の変化を意識的にキャッチアップできるよう心掛けています」

「ユニボール ゼント」という名前は、日本発の“ZEN = 禅”が北米など海外で“心地良い瞬間”や“自分らしくいられる状態”として受け入れられていることに由来する。そんな、名は体を表すエピソードを、板津さんが教えてくれた。

「寝る前に、1日の日記を書かれているお客様のお話です。集中して日記を書いた後、スッキリした気持ちになるとともに、“今日の日記はゼントで書いていたんだ”と気付いたそうです。“書く瞬間の心地よさ”が、ゼントによって提供されていたんだと、後から認識してもらえる。ブランドとして目指していた価値の一つがお客様に提供できていたかなと感じられる、とても嬉しいエピソードでした」

第三回より

“技術”と“体験の提供”。開発を通して学んだヒットの法則

今回のヒットの要因について、板津さんは次のように分析する。

「大きく三つあるのではないかと感じています。一つ目は、水性インクの持つ“気持ちよさ”をさらに高めつつ、従来の弱点だったにじみや裏抜けを克服した、新しい技術を追求できたこと。二つ目は、お客様一人ひとりの好みに更に寄り添えるよう、複数のモデルを同時展開したこと。最後に、これまで『ジェットストリーム』などで培ってきた三菱鉛筆への信頼と期待に、新しい水性インクの形でお応えできたところがあったかなと考えています」

板津さんは「デジタル化が進む現代において、書く行為は個人のこだわりや体験を重視する『嗜好品』へと変化している部分もあるのでは」と話す。こうした市場の変化は、ユニボール ゼントの売れ行きにも表れている。

「4タイプの中で特に反響が大きかったのが、ブランドを体現する『シグニチャーモデル』です。実は開発当初、日本ではまだ市場が小さい水性ボールペンで、高価格帯のモデルを出すことには、社内でも疑問の声もあったんです。しかし、結果としてお客様からは好意的な反応をいただけました。単に技術をアピールするのではなく、お客様にどんな経験をしてもらえるのかを訴求していく重要性を学んだ例です」

現状に満足することなく、ユニボール ゼントは細かなアップデートを続けている。今後の動向からも目が離せない。最後に、リスナーへメッセージをもらった。

「私達は筆記具というプロダクトを通じて、お客様の体験を作ることのお役に立ちたいと考えています。この活動は、少しずつでも世界をよくする活動につながればと考えています。ぜひ、皆さんと一緒に進めていけたら嬉しいです」

第四回より

取材・文・撮影/久我裕紀 構成/DIME編集部

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