人生は、ただ年を重ねるだけではなく、心も成長し続けています。 心理学者エリクソンが提唱した「発達段階理論」では、誕生から老年期までの8つの時期それぞれに“心の課題”があるとされます。 今の自分がどの段階にいるのかを知ることで、人生のモヤモヤの理由や、次に進むヒントが見つかるかもしれません。
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「エリクソンの発達段階」を知っていますか?
これは、医療・心理・福祉・保育・教育系の専門職の方が学ぶことが多い理論ですが、決して専門職の方だけのものではありません。
エリクソンの理論は、私たちが一生涯をかけて発達していく「心の地図」のようなもの。自分が今、人生のどの段階にいて、どのような課題に直面しているのかを理論に当てはめることで、漠然とした悩みの原因がわかり、次の一歩を踏み出すヒントが見つかるはずです。
そして、各段階の課題を乗り越えて次の段階に進むプロセスは、自己肯定感や人生の充実感に直結します。
この記事では、難しいイメージのあるエリクソンの発達段階を、年齢の段階別にわかりやすく解説します。
エリクソンの発達段階とは
エリクソンの発達段階は、ドイツ生まれの発達心理学者エリク・H・エリクソンが提唱した理論です。
簡単に言うと、「人の一生(誕生から老年期まで)を8つの段階に分け、各段階で乗り越えるべき心理的な発達課題(危機)がある」という考え方のことです。
■エリクソンとは
エリク・H・エリクソン(Erik H. Erikson)は、20世紀に活躍したドイツ生まれの精神分析家・発達心理学者です。堅苦しい言葉を一切なくして説明すると、エリクソンは、「人は一生かけて成長する」と唱えたことで有名な学者です。
それまでの心理学では、人の発達は主に幼少期で完成すると考えられがちでした。しかし、エリクソンは、心の成長は赤ちゃんの時からおじいちゃん・おばあちゃんになるまでずっと続く、という生涯発達の考え方を示した人なのです。
■8つの段階の分類
乳児期(0〜1歳半ごろ)
幼児前期(1歳半~3歳ごろ)
幼児後期(3歳~6歳ごろ)
学童期(6歳~13歳ごろ)
青年期(14歳~22歳ごろ)
成人期(22〜40歳ごろ)
壮年期(40〜65歳ごろ)
老年期(65歳〜)
各段階には、「〇〇 vs(対) △△」という形で表現される発達課題(危機)があります。
エリクソンの発達段階のそれぞれの段階ごとの課題とは
エリクソンが提唱した、8つの発達段階ごとの課題を解説していきます。
■乳児期:基本的な信頼 vs 不信
乳児期は、赤ちゃんが「この世界は信じられる場所か?」を学ぶ最初の段階です。
お腹がすいたり不安で泣いたりした時に、親(養育者)が優しく一貫して応えてくれれば、「世界は安全だ」という基本的な信頼が育ちます。逆に、放置されたり無視されたりすると、「世界は怖い場所だ」という不信を抱いてしまいます。
この「信頼」をしっかり育むことで、赤ちゃんは「なんとかなる」という将来への前向きな「希望」という心の強さを手に入れます。
■幼児前期:自律性 vs 恥・疑惑
幼児前期は、「自分でやりたい!」という自我が芽生える段階です。
食事や着替え、トイレトレーニングなどで子どもが挑戦するのを親(養育者)が見守り、励ますことで、「自分はできる」という自律性が育ちます。逆に、失敗を厳しく叱責されたり、過度に管理されたりすると、「自分はダメだ」という恥や、自分の能力に対する疑惑を抱いてしまいます。
この課題を乗り越えることで、子どもは「自分で決めて行動する」といった「意志」という心の強さを手に入れます。
■幼児後期:自発性 vs 罪悪感
幼児後期は、友達との交流が増え、「自分でこれをやってみよう」とアイデアを試したくなる段階です。
例えば、子どもが「お絵かきで壮大な絵を完成させよう」「積み木で大きなお城を作ろう」と自分で計画して遊び始めた時、親(養育者)がその創造性や挑戦を「いいね」「面白そうだね」と励ますことで、「自分で考えて行動していいんだ」という自発性が育ちます。
逆に、その行動や失敗に対して「散らかしてダメでしょ」「そんなことして何になるの」と過度に厳しく非難してしまうと、子どもは「自分がやろうとすることは悪いことなんだ」という罪悪感を抱き、新しいことに挑戦するのをためらうようになります。
この課題を乗り越えることで、子どもは「目標を持ってそれに向かって努力する」といった「目的」という心の強さを手に入れます。
■学童期:勤勉性 vs 劣等感
学童期は、学校生活などを通じて「頑張って何かをやり遂げること」を学ぶ段階です。
例えば、宿題や係活動、スポーツの練習などに一生懸命取り組み、親や先生から「頑張ったね」「できるようになったね」と、その努力や小さな成果を認めてもらう経験が大切です。こうした成功体験を通じて、子どもは「努力すればできるんだ」という勤勉性を学びます。
逆に、テストの点数などでいつも他人と比べられたり、失敗した時に「なんでできないの」と厳しく批判されたりし続けると、「自分は何をやってもダメだ」という劣等感を抱いてしまいます。
この課題を乗り越えることで、子どもは「自分には物事をやり遂げる力がある」といった「有能感」という心の強さを手に入れます。
■青年期:同一性(アイデンティティ) vs 同一性の拡散
青年期は、「自分とは何者か?」「将来どう生きるべきか?」という問いに直面し、自分らしさ(アイデンティティ)を見つける段階です。
例えば、部活動に打ち込んだり、いろいろな友人と関わったり、将来の進路について真剣に悩んだりしながら、「自分はこれが好きだ」「こういう価値観を大切にしたい」という自己認識を深めていきます。周囲の大人がこれらの探求や試行錯誤を見守り、サポートすることが助けとなり、「自分はこれでいく」という軸が定まっていきます。
逆に、自分が何をしたいのか、何を信じたら良いのかがわからず、親の期待や周囲の意見に流されて混乱してしまう状態が、同一性の拡散です。
この課題を乗り越えることで、人は自分が決めた価値観や信念に対し、誠実に向き合い続ける力、「忠誠」という心の強さを手に入れます。
■成人期:親密性 vs 孤独
成人期は、青年期に確立した自分らしさを土台に、他者と深い心の結びつきを築こうとする段階です。
例えば、特定の友人や恋人、配偶者と、お互いの弱さも含めて受け入れ合い、本音で語り合えるような関係を築いていくことで、「親密性」が育まれ、感情的な充実感が得られます。
一方、他者に対して心を閉ざしてしまったり、深い関係を築くことを恐れたりすると、誰ともわかり合えないという「孤独」を感じてしまいます。
この課題を乗り越えることで、人は他者と持続的かつ献身的に関わっていく「愛」という心の強さを手に入れます。
■壮年期:世代性 vs 停滞
壮年期は、仕事や家庭、社会活動を通じて、次の世代を育て、社会に貢献していく段階です。
例えば、自分の経験を活かして仕事で後輩を指導したり、親として子育てに深く関わったりすることで、自分は社会の役に立っているという達成感を得ます。これが「世代性」です。
一方、次世代への関心が薄く、自分自身のことにしか目が向かないと、何も生み出していないという「停滞」の感覚を抱きやすくなります。
この課題を乗り越えることで、人は他者や次の世代に関心を持ち、責任を持って育んでいこうとする「世話」という心の強さを手に入れます。
■老年期:自己統合 vs 絶望
老年期は、自らの人生全体を振り返り、その意味をまとめる最後の段階です。
これまでの成功も失敗もすべて含めて「これで良い人生だった」と受け入れ、肯定的に評価できると、心の平穏が得られます。これが「自己統合」です。
一方、「あの時こうすればよかった」という後悔や、老いや死への恐怖ばかりが強くなると、「絶望」を感じてしまいます。
この課題を乗り越えることで、人は人生の経験から得られる深い理解と洞察力、すなわち「知恵」という心の強さを手に入れます。
☆☆☆
いかがでしたか?
エリクソンの発達段階は、私たちが生まれてから老いるまで、一生涯続く心の成長の旅路を示しています。
各段階には特有の課題があり、それを乗り越えることで、私たちは次のステージに進むための心の強さを獲得していきます。これらはすべて、今の自分や周りの人を理解するためのヒントになるかもしれません。
【参考】『公認心理師必携テキスト 改訂第2版』,学研メディカル秀潤社, 2020年3月
文・構成/藤野綾子
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